「龍の名を冠する少年」10
いくら授業で、体育と言えどもそれなりにお洒落はしておくのである。それが女子だった。着崩すとまではいかないながらも、指先だけを袖から出してみたり普段は結っていないのに結ってみたりと体操着ならではの格好で授業に臨むらしい。
これも女子だけならばそこまで気にしないとは言うが、実際は如何なものか。
本日は屋外での体力測定である。運動部はそれなりに楽しいのかもしれないが、そうでない面子にとっては苦痛すら伴う内容だ。それでもこなさなければいけないので、取り組むには取り組む。嫌々。
「ねー次持久走だって。やだなぁ……」
「でも走ったら終わりだし」
「そりゃあ体力ある人は良いけど……やっぱりやだ」
「うーん……月華ちゃんはどう思う?」
持久走はどうやら二回に分けて行うようだ。最初にタイムを計る組が何やら説明を受けている。そんな中でまだ走らない方に残っている月華に声が掛けられた。
「え? なにが?」
「あー……なに、また男子の方気にしてたのー?」
「ち、違うよ!」
「ほんと仲良いよねぇー」
しっかりしているようで微妙に抜けているのが月華だったが、それ以上に反応が鈍い時がある。その時、大体目で追っているのは――
「まあ確かに? 見た目は悪くはないと思うよ? うちのクラスじゃ。たぶん」
「ただねぇ、やっぱりあのぐうたら感はよろしくないよ」
「そこだよね! とっつきにくいっていう訳でもないけどたまーに近寄り難い気もする」
月華を置いて話が弾む。恐らく、否、確実に彼の事を話題にしてはいるのだが、どうも入り辛い。別に“そういった感情”を抱いて接している訳ではないはずなのに。だがしかし彼の立場的にもフォローしておくのが幼馴染として正しい行動なのだろう。
「そんな事ないよ? 眠い時とお腹空いてる時はちょこっと反応が遅くなってるだけだよ」
「いやいや。それわかるの月華ちゃんだけだからね?」
「私もそう思うな……そう言えばさ、いつから仲良いの?」
「ええっと……小学生の頃から、かなぁ……」
「はぁーそのくらい長くないと相手の事なんてわからないよー」
小学生の頃。どちらからともなくいつものように一緒に居た――あくまでも月華の記憶の中では――ような気がしないでもない。だからこそ、そう。家族みたいなものである、のかもしれない。だから目で追う理由と言えば。
「心配だから、かも……」
もう一度視線を送ったのは体育館。ここからでは到底中の様子を窺い知る事は敵わないのだが、それでも時折聞こえてくる男子の楽しそうな声で何となく分かる。彼も同じように楽しんでいるのだろう、と。
「盲目だねぇ……ほんと」
「うらやましいわー」
どう思われているかは分からないが、恐らく月華も気にはしていないのだ。
すると第一陣のタイムが全員分計り終わったらしく、教師の呼ぶ声。苦手ではあるが、頑張らねば。




