「龍の名を冠する少年」09
――体育。それは青春を語るに於いて男子にはかなり重要なポイントとなってくる。勝つか負けるか、それが大きく関わってくるのである。つまりは楽しければそれで十分なのだ。殊更このクラスではイベントの一つとして鎮座している。賭け事として。勿論危険なものではなく健全に。精々飲食物や課題程度。
「今日は遅刻者が無いから、怪我をしない程度に自由だ。ただし寝てる奴と参加してない奴は走れ。外を」
この体育教師の特徴。特に違反者が居なければ何をやってても良い、という放任主義授業である。生徒側からすれば楽で大変好ましいのだが、どのようにして成績を付けるつもりなのか、そこだけが疑問点。故に何をするかはその時々で違う。ただ残念な事が一つだけ。
「あれ前回何やったっけ」
「野球かサッカーか……走ってたやつも居るなー」
「俺は卓球!」
「卓球はいつも上でやってんじゃん……」
聞こえてくる楽しそうな声はなんと、男子のものだけなのだ。女子は別行動での体力測定となっているようだった。窓の外から微かに聞こえ、見える程度。そちらを観賞するのもありだろうか。
「半コートバスケであと半分はバドとか……んで上の方で卓球だろうな」
「うぃ」
「っしゃーやるぜー」
適当に、適当な人が仕切る。仕切ると言うよりかは流れに身を任せているような状態ではあるが。兎にも角にもやる事は決まったので準備に取り掛かる。体育館の中央に張られる緑のネット。ボールが飛んでいかないようにだとか、部活毎のエリア分けだとかに使用される物である。
陽が残ったのは当然のようにバスケットボールを行おうとしている側である。ちょうど2チーム作れそうな人数だ。どのようなチーム分けになるかと言えば、これまた感覚。仲の良い者同士であったり、たまたま固まっていた人数で出来上がったり。そこまで的確に分ける必要も無いのがあくまでも授業の体育である。そして残った理由。
「龍神と俺は別チームだから! 絶対!」
こうなる事を予想していたから。井上だけは何故か対抗心剥き出しで陽に勝とうとするのだ。そして向かってくるとあらば、立ち向かうのみ。それ以外の選択肢は無いだろう。それに自分も体を動かしたい。食事の後の運動である。
「おう。俺も井上とは一緒のチームになりたくない」
「そうは言ってないけど?」
「え? 俺は嫌だって言ってるんだけど」
「うわー! やっぱり酷いよこいつ!」
このやり取りも定番だ。そうこうしている内にチーム分けも完了し、適当に配置に付く。ポジションや役割を気にするのは意識の高いバスケ部だけだ。その類が居ないこのクラスでは比較的緩く、ほとんど遊びのような状態である。それで良いのだ。
「それじゃあやるぜー!」
井上は自己主張激しくジャンプボールに。対するのは陽と同じチームの男子。敢えて前には出ない。
ボールが飛ぶ。落下点に到達し、回転しながら手元へ。
二人が跳ぶ。狙うはただ一点。
指が触れた。開始の合図――




