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企画①

野球部にアンケートをとった次の日、65分×5時間授業の全てが終わりロングホームルームになった。

その日はクラスの出し物を決める話し合いである。

「まあとりあえず、どんなことをやりたいかを言ってください。」

司会のクラス実行委員が声をかけると、教室の中心の方から声が上がった。

「やっぱ、女の子と喋れるものがやりたいです!」

その意見にクラス中から笑いが起こり、同時に全員が賛成した。

何と言っても、この学校は男子校である。

普段女の子と接していないむさ苦しい男にとって、華々しい女子が学校に来る文化祭はきっかけを持つための唯一の機会である。逆に、女子に声を掛けられなかったりトーク力がなかったりすると連絡先を掴むことが出来ず、自分の実力の無さを思い知る場でもある。

和昌は去年、人の多さにびっくりして後者になってしまった。

野球部はステージの周りにいて場を盛り上げる役を持っているのでステージから離れられないのも原因としてはあるが、それでも女子と話している人はいるので言い訳には出来ない。

「ってか何、かずお漫才やるの?」

話しかけて来たのは、同じクラスで野球部の唐沢 聖晃(まさあき)である。出席番号順に席が割り振られて行くので、イから始まる和昌とカから始まる唐沢は偶然隣の席になったのだ。

中学時代から「かずお」と呼ばれていた和昌は、その文化が浸透して今でもほとんどの人に「かずお」と呼ばれている。

「うん、やるよ!」

「まじかぁ。よく漫才やろうと思えるね。」

「俺からしたら女装するのもなかなか凄いと思うけど。」

彼は昨日のアンケートでハートスタンプを押した。つまり、女装組だ。

「でもあれだけミス郷高組がいたらやらないでしょ。15人もステージ上がれないし。あまり女装似合わないだろうから周りからも止められるでしょ。」

「そういう事言ってるとやらせるよ。」

「いやいや、やらないってぇ〜。ってか、アンケートとったのはいいけどどうやって割り振るの?」

「俺がアンケートを元に割り振る。」

「え!?」

「つまり、俺がやれと言った人はやらなくちゃいけない。」

そう言うと、唐沢はやってしまったと頭を抱えた。

「うわー、これ俺絶対やらされるパターンじゃん。」

まさにそのつもりである。

しかし、ミス郷高を希望する人があまりにも多く、唐沢も言っていたように15人もステージには上がれない。本当は昨日に割り振ろうと思っていたが、そこが気にかかって出来なかった。

その頃、クラスの話し合いでは

「でもこれじゃあ人数が多くて全員出来なくない?」

「まあ最悪2つに分かれて対抗するみたいにしてもいいと思う。」

と言葉が交わされていた。

全然話を聞いていなかったので、クラスの事がどれくらい進んだのかさっぱり分からない。

ーーあ!? 2つに分ければいいんだ。

2つに分けて野球部同士で対抗させても面白いし、野球部がミス郷高で優勝する可能性も高くなる。

そうなると、やはりどのように分けるかを考えなければならない。

昨日1番に押した加賀は、やはりエースとして使いたい。他にも何人か似合う人はいるが、割り振るとなるとやはり迷うものだ。

「アイドルって、どんなのがいたっけ?」

「まぁいっぱいいるでしょ。50人くらいいるのもあれば、10人のところも5人のところもあるし。あんまり恥ずかしいダンスはさせないでね。」

「いや、グループ決めたら曲とかは任せるから、唐沢達で考えていいよ。」

ミス郷高は、女装をするだけでなく曲に合わせて踊るのだ。女装したとしても声は男なのだから、どのグループが1番可愛いかを決めるのには踊るのが一番だろう。

「え、待って、俺が女装するってことは決まってるの!?」

さっき和昌が言ったことに唐沢が反応し聞き返してくる。確かに和昌は言ったーー唐沢達で考えていいよ。

とりあえず笑顔を向けておく。

「うわー、まじかぁー。女装するのかー。」

そう言って唐沢は机に突っ伏してしまった。あんまり悲しそうに見えないのは気のせいだろうか。

とりあえず、詳しくは家に帰ってからじっくり決めよう。そう思ってステージについて考えるのはやめた。

クラスの方に耳を傾けると、どうらや内容はもうほとんど決まっているらしい。

客は教室内に作られたアトラクションを順番に行い、その点数によって出る時にカードが配られる。そのカードには出席番号が書かれており、学校中に散らばっているクラスのメンバーから10個以上スタンプをもらって帰ってくれば景品がもらえるというものだ。

なかなか頭を使ったなと思う。クラスにいる人は女の子と触れ合えるし、クラスにいなくても自然と女の子が話しかけてくる。

これなら去年負け組の和昌にも何とかなりそうだ。

「じゃあこれで金曜のプレゼン行ってきます」

そうクラス実行委員が言って、今日の話し合いは終了となった。


今日は部活がOFFなので、クラスの何人かと軽く雑談を交わした後に同じ自転車通学の輝と宏人の元へと向かった。

階段の近くの広いスペースまで行くと、もうすでに2人はそこで待っていた。

「遅いよ、かずお。」

「かずくん遅い。」

例によって例の如く、宏人も和昌のことを「かずお」と呼ぶ。しかし例外がいて、輝は「かずくん」だ。

どうやら、和昌が祖父に「かずくん」と呼ばれていると聞いてツボに入ってしまったらしい。

「すまんすまん、ちょっと長引いちゃって。」

「何嘘ついてるんだよ。さっき覗きに行ったらかずお雑談してたぞ。」

「あ、ばれてた?」

そう言った会話をしながら階段を降りていく。

普通なら下駄箱に向かうのだが、郷実高校は校内土足なので上履きというものが存在しない。もう土足の生活に慣れているので、練習試合などで他校へ行き下駄箱で靴を脱ぐと違和感がする。

「ってか、宏人スタンプ押せよ。」

野球部2年生のうち、何人かはまだスタンプを押していなかった。宏人もそのうちの1人である。

「やだよ、ステージなんか。出たくないわ。」

「なんでー。出たらいいじゃん!」

「逆に何で出ようと思うの? 恥ずかしいじゃん。」

その質問に答えたのは輝だった。

「せっかくの臙天祭なんだよ? しかも高校での3年間しか楽しめない祭。だったら、何かおもいっきり思い出残したいじゃん!」

「じゃあそれで漫才やってスベったらどうするの?」

「それはそれでいい思い出だと思う。将来高校の時を思い出して、あの時めっちゃスベったなぁーって思い出すんだよ。絶対に年取っても忘れない思い出になるでしょ!」

輝が熱弁しているのを聞いて、その言葉が和昌の胸に響いた。

確かに、スベったらその時はへこむかもしれない。しかし、それも臙天祭の思い出であり、郷実高校での3年間の思い出の一部になる。そして同窓会などの時にはその話になるのだろう。

大事な思い出になるのだから、どうせなら優勝したい。

「いやー、俺には無理だなあー。」

宏人がそう言って答えると、駐輪場に着く。

3人は自転車にまたがり、それぞれの帰り道へ舵をきる。

「んじゃ、また明日ね。」

「うん、また明日。宏人ステージやってね!」

「だからやらないって。バイバイ。」


今井和昌:今からステージ企画に出る人たちをそれぞれグループや招待して行きます。招待されたら必ず入ってください。スタンプ押してない人でも招待するかもしれないです。


和昌からそういったメッセージが届いて、宏人は顔をしかめた。帰りに輝に熱弁されステージに出るか迷いつつも、まだスタンプは押せずにいたのだ。

「でもなー、もう漫才は出来ないしなぁー。」

あれだけ罵った後に、もう一度やらせてくれと言うのは気がひける。だからといって、女装するのも嫌である。とすると郷高紅白しかない。

何度も同じような思考を繰り返し、今に至る。

ーースタンプ押してない人でも招待するかもしれないです。

和昌が最後に言った一言に期待する。

自分がやらなくても向こうから来てくれるなら、それより良いものはない。

しかし、こういう時に限ってその願いは叶わない。


今井和昌:とりあえず、グループの招待完了しました。天下一は山本、岡田、今井です。ミス郷高は2つのグループを作って、一つ目の方には加賀、佐藤、赤崎……


「やっぱ来ないよなあ。」

宏人は誰にともなく呟き、携帯を伏せベットに横になった。



全てのグループに招待し終え全体に報告した和昌は、1時間近く続けていたその作業を止め脱力した。

「とりあえず、一段落かなあ。」

まだまだやることは沢山残っているのである。それぞれのグループが使う曲を決めなければならないし、ダンスを覚えるための材料を決めなければならないし。

人数が少なければすぐに決まると思うが、どのグループも5人以上人がいるため素直に決まるとは思えない。もしかすると、グループ内で争いが起きてしまうかもしれない。

何かあったらすぐに対応出来るように和昌は全てのグループに入っているが、それでも限界はある。

休憩していた和昌の元に、「臙天祭@天下一」と名前のつけられたグループに通知が入った。

そのグループにはすでに、自分と輝、拓海の3人が入っている。


岡田拓海:ってか、ネタどうするの?

山本輝:そうだよかずくん、どうするの?


それはかなり深刻な問題であった。

誘ったのは和昌だからネタを作るのもやろうと思っていたが、やはり何かきっかけがないと思いつかない。


今井和昌:とりあえず俺が作るつもりだけど、なかなか面白いのは思いつかないんだよね。どうしようか。

岡田拓海:この間俺に見せてたやつは?

今井和昌:使うつもりではいるけど、あれだけじゃ30秒しかネタがもたないよね。


拓海が言う「この間俺に見せてたやつ」とは、拓海を漫才に誘うために見せた小ネタである。3つくらい思いついたのを書き留めておいて、それを部分的に使おうとしていたのだ。

小ネタはあっても大元がないとネタが成立したいため、まずはどういった漫才をするか考えなければならない。


今井和昌:途中でコントに入ろうと思うんだけど、何かいいシチュエーションない?

岡田拓海:普通にコンビニとかじゃだめなの?

今井和昌:せっかく3人なんだから、3人でしか出来ないようなのやりたいじゃん。

山本輝:じゃあ、3人組の芸人がやってるようなのにしたら?

今井和昌:例えば何がいる?

山本輝:ゴンザレスとかかなぁ。


ゴンザレスとは、ここ三年間くらい多くのお笑い番組に出演している有名なお笑い芸人だ。1人ぽっちゃりした加藤という人がいて、その人がツッコミでコントをしている。


岡田拓海:いいね、ゴンザレス。ちょうどかずおは加藤みたいな体型してるし。

今井和昌:誰が加藤やねん。そんなに太ってないわ。

岡田拓海:面白いと思うけどなあ。


絶対やらないからと言って話を変える。


今井和昌:だから、何かいいのないの?

山本輝:じゃあ、「だんご三兄弟」は?

今井和昌:どうやってやるんだよそれ。

山本輝:とりあえず歌おう!

今井和昌:歌わなくていいわ。

岡田拓海:やっぱ、お笑い芸人みたいにするしかない! じゃあ、加藤が真ん中にいて。

今井和昌:だから誰が加藤やねん!


それとなく2人がボケては和昌がツッコミをするといった会話が繰り返される。

もしこれを画面上ではなく人の前で実際に話していたらおかしな人達だと思われるだろう。


山本輝:じゃあ、三者面談は?

今井和昌:お、いいね、三者面談。ちょうど3人だし。

岡田拓海:いいんじゃない。内容は和昌次第だけど。


急に真面目に出された三者面談という答えに、3人の意見が合致した。


今井和昌:じゃあ、役はどうするよ。


シチュエーションが決まったので、次は役を決めなければならない。それによって先生、親、子のうちの誰がボケて誰がツッコむのかが決まり、ネタも作りやすくなる。


山本輝:じゃあ生徒やろうかな。

岡田拓海:俺は先生で。

今井和昌:じゃあ、俺が保護者だな。

岡田拓海:かずおは見た目も保護者かってくらいおっさんっぽいからな。

今井和昌:やかましいわ。


こうしてネタのシチュエーションと配役は決まり、「じゃぁかずお、ネタよろしく。」と拓海が言って会話は終わった。

ネタの方向性は決まり、あとは流れに沿ってボケを入れていけばある程度のネタはできる。

あとはそのコントに入るまでにどうやってコントの流れに持って行くかを考えなければならない。

ーー待てよ!? 今の会話をネタに使ったら面白くないか?

ふと思いつき、もう一度3人の会話を見返す。

拓海の和昌を馬鹿にするようなボケと、輝の少し天然の入ったボケ。そこに冷静にツッコミを入れる和昌。

ーーもう少し変えればネタの入りは完璧かもしれない。

そう思い机に向かって鉛筆を握る。


時刻は夜11時16分。いつも10時を過ぎると睡魔に襲われる和昌にとっては1番辛い時間帯である。

しかし、ネタのアイディアが頭にあるうちに作らなければ、もう同じネタは作れないかもしれない。

臙天祭の郷高天下一に向けてのネタ作りが始まった。

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