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うそつきりっちゃんの備忘録  作者: うそつきりっちゃん
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「静かにしなさい、でないと」 朝倉かすみ

朝倉かすみ「静かにしなさい、でないと」単行本(199ページ)、集英社(2009/09)


 全体として自分の思うわたしになれなかった女たちの痛い物語。が、その肌触りは種々に違う。

「内海さんの経験」の主人公はBでDでW。Bはブス、Dはデブ、Wは腋臭、いや腋しゅう症のことだ。主人公はしかも身体に凸凹がなくオイリーなのだ。主人公はFゾーンに入っていたらBに優しく出来るのにと考える。Fとは普通のこと。主人公は今年三十歳。ああ、そうだ。主人公の声は綺麗だ。自分では気づかなかったが、同僚がそう指摘して笑う。そんな主人公に出会いがある。そして今宵彼女は東京・銀座にいる。

 ラストの外し方がスゲー!


「どう考えても火夫」の主人公は美少女だった。でも、どんどん劣化して自堕落になっている。自堕落になったのはストーカーをされたせいだ。十歳のときからだから、もう十五年も続いている。その元を作ったのは、もしかしたら主人公の方だったのかもしれない。だって守彦は「全部」を見たと言ったのだから。でも始めたのは守彦の方だ。サドルから始めたのはそっちの方だ。リスカまで至らないのでメンヘラ度は低いがイタくてキモイお話ではある。

 stalkerとstokerとのスペルの類似から作者が発想したと思えたが、さてどうか?


「静かにしなさい」の主人公には十五歳年下で今年二十三歳の少しおつむの弱い綺麗で胸の大きな姪がいる。主人公はまるである種の母親のように器量が足らず果たせなかった自分の夢を姪に託す。が、ある程度までは上手く行くのに最後にそれらを悉く壊す姪。

 相互依存の逆転が巧み。


「いつぞや、中華飯店で」の主人公は小さな町の町会議員。今年で三十三歳になる。大きな町にいた十一年間何一つ良いことがなかったが、今はアイドルのように輝いている。あるべきだった自分の姿に、やっとのことで近づけたのだ。その昔、彼女は小さな中華飯店に勤めていた。そこで自分と同じではあるが、同時に正反対の若者を見かける。自分の見てくれの良さに気づいていて、それに反撥してブルーカラーのアルバイトを求めるような青年だ。当然まったく様になっていない。早く本来の自分に気づけよと主人公は若者にエールを送るが……。

 この主人公は幸せだ。


「素晴らしいわたしたち」の主人公はわたしではなくわたしたちの片割れのわたしである。わたしたちはそっくりだ。似ていないところもあるが同じであった。ある日わたしたちはロハスを知ってパラダイムシフトした。貧しいがどんどんエコで健康になっていった。わたしが次のわたしたちになる日まで……。

 ラストは普通。


「やっこさんがいっぱい」の主人公は四十五歳で初婚。四十八歳になる夫の転勤で北のはずれの小さな港町にやってくる。夫の家系は短命だ。三十五歳までに親戚兄弟の多くが死んでいる。病死もあれば、事故死もある。だから三十五歳をひとまず過ぎれば安心できると夫は思っている。が、夫の父親の弟が四十九歳でコロッと逝く。金曜日の夜は夫が妻に物語る夜だ。自分の身体に張り付くような/寄り添うような漠然とした死の話を夫は照れながらも語るのだ。

 やっこさんとはテ○○○o○のことなのだが、このオチの付け方は結構ジーンと利く。


「ちがいますか」の主人公は三人姉妹の長女。次女が喘息で三女が斜視。だから主人公は「心延え」を良くしなければならない。彼女には損なわれている部分が少なかったがために……。そんな主人公も今年でもう四十六歳だ。次女の喘息はとうに治って外国人で学者の夫とアメリカで暮らしている。三女も不動産会社の社長と結婚している。そして主人公だけが両親の悩みの種になっている。

 朝倉かすみは官能描写に優れるといわれるが、体感的な描写にもそれがあってダニのシーンでは身体がぞわぞわしたわ。


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