文學界2014年12月号
文學界2014年12月号 雑誌 2014/11/7 文藝春秋 月刊版(2014/11/7) 日本語 ASIN:B00JHR71HW 20.8 x 14.4 x 1.8 cm
第119回文學界新人賞発表
【受賞作】
「トレイス」板垣真任
認知症となった徘徊癖のある祖父の見張りを母に命じられた浪人生のお話。そこそこのユーモアを醸し出す筆力と浪人生ならではの焦燥感は上手く表現しているものの物語としての面白さは皆無で、その代替としての小説的必然性も感じられない。
【佳作】
「夜の斧」小笠原瀧
(実はその裏があるのだが)昔営んでいた何でも屋のことが忘れられず、本人が目利きしたゴミ拾いを止めない父と何とか人並みに暮らそうとするその長男及び若くして人生をドロップアウトしてしまった次男による葛藤のお話。本誌掲載までに手を加えたらしいが、選考時すべての委員に否定された後半の科白の応酬が実は読みどころ。最後に斧を用いたバトルシーンが組まれるものの象徴が象徴として機能せず、残念な仕上がりとなっている。途中のゲイ登場シーンの不快喚起は上手いが、如何せん感覚が旧い。
「ミックスルーム」森井良
主に精神的なダメージを負い、仕事も辞め、田舎に戻ったゲイの青年の放蕩――ではなく――放浪を描いたお話。視点人物とは逆に普段は通常の結婚生活を営んでいる隠れゲイの生態が生き生きと描写されて興味を惹く。今回の中では一番面白い。文章が毀れ始めて、はて夢の描写かと思っていると、視点人物の精神が冒されているからとわかる。医者に処方される薬が薬が多岐に及ぶが、詳細がないので、作者が実は知らないらしいとバレてしまう(実は作戦?)点が甘い。
総じて選考委員もそうだが、それ以前の選者たちの感覚が旧いのか、または選考委員の感性に暗黙のうちに合わせてしまったのか、目新しさが感じられない。別にそれを目指す賞ではないと言われてしまえばそれまでだが、読者に喚起する内容がせいぜい快/不快であって、欠如/過剰の鬩ぎ合いにさえ達していないのは何故だろう。ネットに投稿はするものの未だに――オワコンと言われるところの――紙媒体を愛する筆者には、それが寂しい。妄言多謝!
【連載】
「プロローグ」(第七回)円城塔
勿論判ってやっているのだろうが新しいものが何もない。いや、上記と違ってそれは褒め言葉であり、解釈と切口には新しさがあるのだが、そこまでなのが残念だ。例は旧いが例えばディックなら――本人に何処までその意識があったか不明だが――過去の遺物を化学反応させて未知の世界を生み出した。作者は頭が良いはずだが――一見したところ否定から入らないので――そこで化けたら面白いと思う(ロンダリング?)。もっともこれまで化けて来なかったからこそ各種の賞を獲得できたわけなのだが。こちらも妄言多謝!
感覚が旧い
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