兄貴は何でこのタイミングで……
「姉貴! 入るぞー!」
言いながら入ってきたのは……俺の兄、勇牙だ。そして、俺は着替えるために下着のみ……
これの意味が分かるかな? 兄貴終了のお知らせだよ!
「……あ」
うーん……恥ずかしくないわけじゃないけど、兄弟だし、男だし、別にいい。
でも……姉貴が怖い……
「あ、じゃないでしょう? 人の部屋に入るときはちゃんと返事を待ってからっていつも言ってるでしょう?」
姉貴、顔は笑ってるのに目が笑ってない。
「えと、その……悪い!」
目に手をあてながら兄貴が言う……隙間が開いてるけど。なんなんだよこいつ。
「悪いですむならこの世に法律はいらないのよ……覚悟は出来てる?」
「覚悟ってなんのだよ!? てかさ、確認しなかったのは悪いけど、事故じゃね!?」
「問答無用!」
姉貴が兄貴をボコりながら廊下を進んで行った……
よし、この隙に俺も服を着て脱出―――
「お姉ちゃん? どこ行くの?」
―――できなかった……
幸が肩を掴んでるから抵抗できない……
「え? ……自分の部屋にでも……」
「駄目だよ! ここでお姉ちゃんはネコミミメイドになるんだよ!」
「……なりたくないから逃げようとしてるんだけど……」
「逃げちゃ駄目! それに、そんな格好で行くつもり?」
「……メイド服よりよっぽどましだと思う。」
「そんな事ないよ! さあ、着て?」
……何とかして幸を違う方向に持っていけないだろうか……あ、そうだ!
「さっきみたいな状況のときの対処法を教えてくれよ。」
「その前に着て!」
無理でした!
「ぬー……なんでこんなのを着せたいんだよ?」
「だって、着た姿を見たいじゃん。」
なるほど、なら……
「じゃあ、着るよ。」
「本当?!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
で、着たんですね。だけど、別に降参したわけでもないし、もちろん好きで着てるわけでもない。俺は約束は守るから、着ないわけにはいかない。でも、着たくないし、着たとしても人に見られたくない。だから……
「よし、幸、俺が着たのを見たな?」
あ、ちなみに姉貴はまだ兄貴と戦闘中
「うん! 見たよ!」
「それでは脱ぐ!」
「何で?!」
俺が考えてたのは、着ても証人がいなきゃしょうがない、だけど見る人は最小限にとどめたい、だから、二人だけのときに着て、すぐ脱ぐ!
約束は守った!
「え? ちょっ! 何で脱ぐの?!」
「約束守ったから。俺はこれを着た! だから後は好きにしていい!」
「えー! 折角着たんだから、もうちょっと着ててよー」
「嫌だ! 脱ぐ!」
よし、脱ぎ終わったから……何着よう? もうあのひらひらは嫌だけど、他に服がない……
「ジャージは?」
「光花お姉ちゃんがしまってたよー。」
……どうする? いくら女の体になって、姉弟だとはいえ、タンスを漁るのはな……
しかたない、いくら変態な姉のタンスとはいえ女のタンスを勝手に漁るのは俺の信念に反する。
……明確に信念とか決めてないけど……
まあ、仕方ないので、ひらひらを着ることにしよう。着心地いいし、このままだと姉貴が何をするか分からん。
「……はぁ、仕方ないからこれを着なおすよ……」
「えー、やっぱりあれ着ててよー!」
「嫌だって! 何が悲しくてあんなのを着てなくちゃならないんだ?! 約束だから着たけど、もう着ないからな!」
「せめて写真を……」
携帯を構えながら幸が言う。
「断固拒否!」
さて、ひらひらを被りますか……(着るじゃなくて被る! 着方分かんなくても被ったら何とかなる!)
バキッ!
「ん?」
振り向くとドアがぶっ壊れてて、ドアの向こうにはすさまじいスピードで戦闘をしていた姉貴と兄貴が……
俺の視線に気付いた瞬間二人ともフリーズする。
「お!」と兄貴、もはや『見ちゃった!』じゃなくて、『ラッキー!』になっている……弟の下着姿を見て嬉しいのか……?
「……勇牙? ちょっと向こう行きましょうか?」
指をパキポキ鳴らしながら姉貴が言う。
やばい……姉貴がギアを上げた……真面目に兄貴死ぬかもな……
「えーと……死ぬなよ!」
「おお!? 応援してくれた!? よし、俺、生還するぜ!」
かわいそうなので応援くらいはしといてやる。
グバキ!
……これは姉貴が無理やりぶっ壊れたドアを戻した音だ。ていうか、結構丈夫なドアだったと思うけどな……まあ、あんな激しい戦いをしてれば壊れるか。
「……お姉ちゃん! ああいうときはせめて体を隠さないと駄目だよ!」
「うーん……そうは言っても元男としては兄貴に見られるくらいそこまで気にならないんだな……特に、無理やり胸もまれた後とかさ。」
「……でも、女の子の体なんだからさ!」
「そうだけどさ、身内だぜ? 大体、それを言うならお前だってどうなんだ?」
「う……それはそれ! これはこれなの!」
「どうだか。」
「とにかく! 隠さなきゃ駄目なの!」
「まあいいや、覗かれるなんてそうそうないだろうしさ。」
「いやいや、コメディとしてそういう要素は絶対来るよ!」
わけ分からんことを言ってきた幸を軽く無視しながらやっと服を着る。
早く直矢たち戻ってこないかな……
あいつらがいればこの混沌とした状況を何とかできるのになー
「ねーねー、お姉ちゃーん。」
うーん、さっきは言い合ったから気にしなかったけど、やっぱりお姉ちゃんって呼ぶのはやめて欲しい……
「……何?」
「これ着てよー」
メイド服を押し付けてくる幸、まだ諦めてなかったか!
「だから嫌だって……」
何かもう疲れた……
「何で嫌なの? 可愛かったよ!」
「あのな……いいか? 俺は女の体になったとはいえ男だ、女装なんぞしたかないし、本当はこの服も嫌なんだ、なのにあんな服を着たいわけないだろ?」
「可愛いからいいじゃん!」
「可愛くなくていいんだって!」
「なんでー? 可愛い方がいいじゃん!」
「はぁ……俺はむしろ可愛くなるのは嫌だよ……」
「なんで?」
どうしてこいつはなんでもかんでも聞くかな……
「男として女々しくなるのは嫌だ!」
「女の子じゃん!」
「う……いや! 精神は男だ!」
「でも体は女の子なんだから、服も女の子のでいいじゃん!」
「いや、そうだけど、やっぱ女装なんて嫌だし……」
「女の子になったでしょ?」
「……分かりましたよ、だからって、あれは着ないからな!」
もういいよ、いいけどやっぱあれは嫌だ!
「えー、なんでよー」
ブーブー幸が言ってるけど、これ以上何いっても埒があかないから無視!
「はぁ……」
あいつら早く来いよな……
この状態は俺には抑えられない……
「どーも天使でーす!」
なんて考えてたら本当に来た。
ピカーッと後光まで出して現れた。
これが噂をすればってやつか……
「……ねえお姉ちゃん?」
こいつらの前でお姉ちゃんと呼ばないで欲しい……
「……何?」
「この人たちが言ってた天使?」
「うん。」
「すごーい! ねえねえ、本当に天使? なんでお姉ちゃんを女にしたの? ねえねえ―――」
幸が直矢にまとわりつく。
「……助けてくれ。」
おー、すげー、神様が困ってるぜー。
「いや、助けて欲しいのこっちなんだけど。廊下で姉貴VS兄貴デスマッチが開催されちゃってるんだけど。」
「そうか……よし、澄也、行って来い!」
「俺か!? 喧嘩の仲裁とか絶対お前の方が向いてるだろ!」
「だったらこの子を何とかしてくれ!」
「それは大丈夫、女の子となら頭の中で何回も遊んだから!」
「それは妄想と言う!」
漫才みたいな会話だな……
「まあとりあえず僕に任せたまえよ!」
次は27日です!