女って……怖い……
「たっだいまー!」
うわあ……
また厄介なのがきたよ……
もう疲れた……
「あれ? この子誰? めっちゃ可愛いんだけど!」
部活後の癖して滅茶苦茶元気だ。
お前、運動部じゃねえの? 相当キツいんじゃないの?
「この子? この子はねえ…… 誰だか知りたい?」
お袋が俺に目配せする。
なるほど、時間稼ぎするから今のうちに逃げろと。
でも、今飯食ってるんだよなあ……
食ってからでいいか。最悪、お袋と姉貴の実力行使で抑えられるはず。
「そりゃあ知りたいさ! うちで飯を食ってる見知らぬ美少女の正体!」
なんかテンション高いなあ……
あー、飯食うの遅くて、自分でももどかしい!
やっと二枚目のベーコン飲み込めたよ。
「それはねえ…… 秘密よ!」
「なぬ?! お袋、そりゃないって! 気になるでしょ?!」
お袋、話の流れがおかしいぞ。
あー、やっと食べ終わったよ。
さて、どこに避難するかな?
とりあえず二階へゴーだな。
「ご馳走様でした。」
ここらへんはお袋がいつもうるさいからしっかりしてるんだよ。
そのまま立って食器を持って台所へ行く
食器重い!
いや、そりゃ持てるけど、男の頃に比べてすごく重く感じる! 男の頃の3倍くらい重く感じる……
なんだか惨めな気分になってきたぜ……力の強さは結構自信あったのに……
「なんか、食器持って行くのが慣れてる感じあるけど?」
そりゃあ、毎日やってますからね。
「だって、毎日やってるもの。」
バラした!? バラしたのこの人!?
早く逃げようっと!
「毎日? うちにこんなかわいい子いなかったじゃん。」
「そうなんだけど……」
やばいぞ、これはバラすフラグだぞ!?
すたこらさっさーと!
リビングの扉の向こうには幸がいて、上がるのに手を貸してくれた。
「さ! 上がって!」
ナイスだ妹よ!
お前の兄貴は今手を借りないと階段を早く上がれないのだよ!
「助かる! 筋力が相当落ちてて、一段とばしも出来ないんだよ。」
本当に悲しいよ。無理やりやろうとすると二回目くらいですねをぶつけるんだぜ? 勘弁して欲しい……
「それは大変だねー。」
話しているうちに二階に着いたのだけれど、なぜか幸は手を離してくれない。
「何で離してくれないのかな?」
「だって、お姉ちゃんの部屋に行ってもすぐ見つかっちゃうじゃん? だから、光花姉ちゃんの部屋に行くの。」
「何故に姉貴の部屋?」
なんか嫌な予感がするぞ……?
「それはねえ……お姉ちゃんにかわいい服を着せるため!」
「嫌だ!」
全力で逃げる!
なのにすぐに幸に捕まる。
速くなったな……いや、俺が遅くなったのか……悲しい。
「さあ、行こう?」
もういいですよ。もういいですよ、はい。
どうせ逃げても逃げても捕まるんだし。
「……降参します。」
幸に連れられて姉貴の部屋へ行く。
姉貴は色々な(俺が絶対着たくない)服を広げてる……
こんなん着るのか……
「光花姉ちゃん! 連れてきたよ!」
「本当?! よくやったわね、いい子いい子。」
「へへへー、どんなの着せるの?」
幸、騙されるんじゃない、こいつはお前が熟すのを待って襲うつもりだぞ! 危険だぞ!
「そうねえ、これなんかどう? ちょっと時期早いけど。」
そう言って姉貴が出したのはひらひらしたワンピースだ。
白の無地で、ノースリーブだ。
「そんなの嫌だ!」
「楓はなんでも嫌じゃない、何か着ないと。」
「だからこれ着てるじゃん!」
胸を張りながら言う。
ジャージなら女が着てても変じゃないし、これでいい!
「やっぱり胸、結構あるわよねー……」
姉貴がジーっと見てくる。
怖い……
「やめろ姉貴!? 揉むなよ!?」
お袋によると刺激が強いらしいぞ!? ちなみに振りじゃないぞ!?
「幸、どうする?」
「どうしよっかー……」
幸がニヤニヤし始める。
ま、まさか幸もあの属性が……!?
「よし、幸、腕を抑えなさい。」
「了解!」
「え!? ちょっ! 幸!?」
腕を幸に抑えられ、抵抗できなくなった。
姉貴が手をワキワキ動かしながら近寄ってくる。
……なんでさっきからこんな事ばっかなんだよ、泣きたくなってきたよ。
「涙目、いいわねぇ……じゃあ、いくわよー!」
そう言いながら俺の胸へ手を伸ばしてくる姉貴
「や、マジで! マジでやめ、ちょ、あっ! んっ! うぁ、駄っ、やっ!」
言ってる途中で姉貴が胸を揉んできた……確かにお袋の言う通り刺激が強い……なんかもう、気持ちいいとかそういうの超えてる気がするんだけど……てか、姉貴揉むのが上手いんだよ!
「そうねー、確かに私とおんなじくらいかもね。顔真っ赤にしちゃってー、かわいいわー」
開放されたんで抑えられたままで息を整える。
「はぁ、はぁ……」
「幸にも触らせてー!」
やめてくれ、これ以上されると俺の中で何かが壊れそうだから……いや、もう壊れてるけどさ……
「いいわよ、はい。」
姉貴が代わろうとする、マジでやめて欲しい……
「いや、本当に、やめて、着るものに文句言わないから……」
もうここまできたら女物着るくらいなんだって事だよ!
もう開き直るからな!
「よし! じゃあ、早速これを―――」
すごいスピードで反応してさっきのメイド服を持ってくる姉貴
お前はこれを狙ってたのか!?
「それだけは嫌だ!」
「えー、じゃあ……」
姉貴の手が動き出す。
ああ、なんかもう、ワキワキ恐怖症になりそう……
でも、メイド服とか絶対嫌だ!
どうしよう……
「他のなら着るからそれは勘弁して!」
「そう、じゃあこれを着て?」
今度はさっきのひらひらワンピースを出してくる。
……それも嫌だわ。メイド服のほうが嫌だけど。
「ぬうう……それも嫌だって言ったら?」
姉貴は無言で……もうわかるよね?
「分かったよ、どうやって着りゃいいの?」
「そう、こうやってね―――」
聞いて分かったのは要するに上からかぶれば何とかなるってことだけだった。
だって、説明が高度すぎて全く理解できなかったし!
まあ、そんなわけで俺はひらひらを着ました。
「おおー、似合う似合う!」
「お姉ちゃんかわいいよー!」
……全く嬉しくない。
当たり前だけど全く嬉しくないね! むしろ悲しい!
「……これでもう解放してくれる?」
「まだまだ色々着ようね?」
「そうそう!」
「もう勘弁して……じゃあ、毎日言われたの着るから今日は終わりでいい?」
「そうね……いいわよ。」
よし、じゃあ自分の部屋に行くかなって、あ……どうしよう……
「幸、兄貴がどんな感じか見てきてくれるか?」
「いいよー! 行って来るねー!」
やっぱりさっき俺を抑えていた人物とは思えない……
「さて、二人きりになったところで―――」
「やめて!? 何すんの!? ホントやめて!?」
「うーん……また同じ事をしても芸が無いわね…… 何して欲しい?」
にっこりと笑ってくる姉貴、何も知らないやつが見たらかわいく見えるのかもしれないが、今の俺にとってはかなり怖い!
何して欲しいかって? 決まってんだろ!
「何もしないでくれ!」
「何もしないんじゃつまらないじゃない、そうねえ……」
結局俺に選択肢は無いのか……
「勇牙お兄ちゃんはね、上に探しに来るつもりだってよー! ついでにお姉ちゃんの部屋も見るから、いない事ばれちゃうよ!」
幸が帰ってきた。
……マジか、今兄貴の相手する気力は無いんだけどな……
どうしよう……
「……なあ、姉貴……」
「あ、そうだわ! その言葉遣いを直しましょう。」
「いや、とりあえず兄貴を何とかしてくれ……」
「分かったわ、その代わり後で言葉遣いちゃんと直すのよ?」
「ぬー……あんまり変なのじゃなければ直す。」
「よし、じゃあ何とかして勇牙を追い払いおうね。うーん……どこに隠れる?」
「どこっつわれてもなあ……」
隠れられそうなところは……
とりあえず、選択肢として挙がるのは、ベッドの中、クローゼット、このくらいかな?
選択肢少ないな……
でも、ベッドの中とか却下だし、必然的にクローゼットか……
「よし、ベッドの中にしましょう!」
「いや待てよ、俺に聞いたんじゃなかったか?」
「いやー、よく見たら選択肢二つしかないじゃない? そしたら必然的にベッドに―――」
「何故そうなる?!」
「そんな事言わずに、ベッドの中で仲良くしましょう? 楓、ベッドの中好きでしょう?」
「いや、待てよ! 姉貴が言ってるの違う意味になってるから!」
寝るのは好きだけどさ!
「あまり大きな声で話すとお兄ちゃんが来ちゃうわよ?」
「あんのブラコンめ……でもなんでクローゼットじゃ駄目なんだよ?」
あいつが俺が女になったなんて知ったらどうなることやら……
「だって、中結構ごちゃごちゃしてるから……」
ん? なんだか一瞬表情がぎこちなかったぞ? もしや、中に見られたくない物でも入ってるのか……?
「中に何が入ってるの?」
「えー、それはねえ……」
いやー、姉貴嘘つくの下手だなあ……
お袋の遺伝か?
「何が入ってるのかなあ?」
「えーと、服よ! 服が入ってるの!」
そりゃそうだろ……クローゼットだから。
「どんな服?」
「それは……地球で作られた服よ!」
「そりゃそうだろ! どんなデザインの服なのかな?」
逆に地球以外で作られた服が入ってたらすげえよ!
「それはねえ……目に見える服よ! 裸の王様みたいな服は入ってないわ!」
「当たり前だろ! いい加減、普通に答えてくれ!」
「……じゃあ、答えたらこの中身の服をどれか一着着るって言う条件で。」
「何で交換条件? まあ、そのくらいならいいよ。」
あそこまで隠されると気になるし。
「じゃあ見なさい。」
「どれどれ……」
クローゼットを開けてみると……
なんだか色々な服が入ってた。
コスプレ……ではないのかもしれないけど、さっきのメイド服や、バニーガール的な服、その他もろもろが入っていた。
「えと……マジでこれ着るの?」
「マジで着るの!」
うわあ……
くそ……ハメられた……
あそこまで変な回答をしている時点で気付くべきだったか……
これを着るのはな……
でも約束は守らないと……
「くそう……どれ着て欲しい?」
ここまで来るとなんでも関係ない気がしてきた……
「え? 好きなの着てくれるの? じゃあ、この猫服着て! 幸もこれがいいと思わない?!」
姉貴がネコミミカチューシャと、猫の手みたいな手袋と靴下、それとぴったりした服を出した。
猫服ですか……
「ううん! やっぱりここはメイド服だよ!」
どっちも嫌なんですけど……
「いやいや、やっぱりネコミミははずせない要素よ!」
はずしたい要素です。
「うーん……そうだ! どっちも付ければいいんだよ!」
どっちも?!
「そうね、ネコミミメイド、いいじゃない!」
よくない!
「うん、絶対似合うよね!」
似合わないで欲しい……
「あのー……やっぱり着なきゃ駄目かな?」
「「もちろん!」」
「やっぱりか…… はぁ、着方教えて。」
「とりあえず服を脱いで、それからよ!」
「へいへい……」
ジャージの上を脱いでいるとバタバタ音がしてきて、声が聞こえると同時にドアが開け放たれた。
「姉貴! 入るぞー!」
次は24日です!