神って意外としつこい……
自称天使がどこかに行ってからの10分間、俺は幸せな二度寝タイムに浸っていた。
「お前な、勝手にワープ使うんじゃねえ。」
「いてっ! 蹴るなよ!」
また来たのかよ……
うるさい……
またどっか行かないかな……?
「じゃあ、変えるぞ?」
「今思ったんだけどさ、この子の着てるパジャマ、今もぶかぶかだから、変えて、小さくなったらもっとぶかぶかだろ? 不味くね? そしたら色々とアレな気がするんだけど。まあ、僕的には大歓迎なんだけれども。」
確かに俺の着てるのは、きつくなければいいと俺が言い張って、着心地のいい兄貴のお下がりを着てるからなあ。気に入らないところは兄貴のお下がりって所だけ、それ以外はすごいいい!
でも、不味いって何のことだろ?
聞くために起きるか、面倒臭いな……
くだらない内容だったらぶっ飛ばそう。
「確かに不味い、どうする? 直接的な補助は禁止されてるし。」
「どうしましょうか……」
「誰か説明役に女がいれば一番いいんだけどな…… あ、エディがいるじゃんかよ! エディ、お前、説明役いけるか?」
「ふああ……お前ら、一体何の用だよ? いきなり人の部屋に押しかけてきやがって、こっちは眠いんだよ、天使とか言ってたけど、なんなんだ?」
このとき初めて目を開けたが、いたのは体格のいい男、ひょろっとした眼鏡の男、それと、金髪の美人さんだ。
変なのは、全員、背中から羽が生えてるところだ、自分で天使というからにはそれなりの格好はしているらしい。
「おお、起きた! 僕たちが何かって? 天使さ! この羽を見なさい!」
ひょろっとしたのが反応する。
「……胡散臭。」
「いやいや、証拠を見せてあげよう、何かして欲しいことは?」
「静かにしろ、そして今すぐにここから出てけ。」
それが一番だ。
「……いやあ、そりゃないって。」
苦笑いしながらひょろ眼鏡が言う。
だって俺が一番して欲しいことはこれだし。
寝かせろ! 昨日寝たの遅かったんだよ! 眠いんだよ! 寝かせろ!
「……まあいいよ。で? 天使さんが俺に何の用?」
用事を聞いてさっさと出て行ってもらおう。
質問すると、がたいのいいのが話し始めた。
「それなんだがな、話しても信じられないと思うけど、俺達は天界から来たカミサマと天使なんだ。あ、カミサマは俺で、こいつらが天使な。で、何のために来たかっつうと、俺よりも偉い最高神サマが新しい娯楽を探してるって事で、その願いをかなえるために来たわけだ。その娯楽はなにかっつうと、性転換小説ってやつを本当にやってみよう、ってことで女にするためのやつを探してたってわけだ。」
「ま、要約すると、上司に『TS見たいからちょっと男を女にして来い。』って言われた感じ。」
ひょろっとしたのが捕捉する。
……確かに信じられないな。
てか、趣味悪くないか?
「で、俺がたまたまそれに選ばれたと。趣味悪いのな。」
「考えたのはこいつだけどな。趣味が悪いってのには俺も同意する。」
言いながらひょろっとしたのを指差す。
なるほど、道理でこいつだけ無駄にテンション高いわけだ。
「いやまあそれは置いておいてだね。君は美人になる! しかも銀髪! サラッサラだよ!」
ビシッと効果音の付きそうな勢いでひょろ眼鏡が俺を指差す。
まあ、そういう小説って、主人公が美人でなんぼだもんなー……って銀髪!? 何故!?
「……それで? 有無を言わさず俺を女にするってか?」
「有無を言わさず……まあ、そうなるな。でも、その後に見てるだけ、みたいな無責任な事はしないから安心しろ。色々補助はするつもりだ。」
「補助ってどんな?」
「……どんなだよ?」
「さあ……?」
顔を見合せたあと、首を傾げる二人。
……何も考えてなかったのか。
「たまに会いに来るとかじゃないかな?」
「会いに来てどうするんだよ。」
「会いに来て……話す。」
「なんだよそれ。」
「まあ、決まってないと。」
「そうなるな。いい案あるか? 大体のことはしてやれるけど。」
「あれだろ? もうすぐ高校生っていう条件を入れたのって、知り合いがいなけりゃごたごたがおきにくいってやつだろ? まあ、確かに俺は叔父のやってる私立に入るからそういうのはなんとでもなるけどよ、それでも、クラスに何人か事情を知ってる奴がいないと色々不便だろ。」
てか、そうじゃないと困る。
「なるほど、確かにな。」
「じゃあ、俺達にその学校に入学しろって?」
「そうそう、じゃなきゃキツい。」
「うーん……どうする?」
ひょろいのがごついのに聞く。
「まあ、いいんじゃねえか? どっちにしろ何かするつもりだったんだし。」
「いいですね! 学校! 楽しそう!」
美人さんが目をキラキラさせている。
「楽しむのはいいが、仕事はキチンとしてくれよ。」
ごついのが注意する。
「任せてください!」
敬礼をする美人さん。可愛い。
「まあまあお二人さん、話はそこらへんにして、そろそろ転換しよう!」
手を広げてひょろいのが言う。
「……一応、聞くけど、嫌だって言っても聞いてくれないんだよな?」
「もちろんさ!」
ひょろ眼鏡がグッと親指を立てる。
いやいや、そんなキラキラした目で言われてもな……
「悪いな、あまり気は進まないんだが、命令でな、逆らえないんだ。本当に嫌なら言ってくれ、俺の首が飛ぶ覚悟で逆らってみるから。」
……そこまで言われちゃあ、断れないなぁ。
別に死ぬわけじゃないしなあ。手伝ってくれるって言うし。
「いや、別にそこまで大変ならいいって。嫌だけど、まあ仕方ない。……でもよ、本当かどうかわからねえから、どうにも怪しいしよ。てか、どうやってここに来たんだよ?」
「カミサマ権限でワープしてきた。」
「じゃあ、喉渇いたんで、神様だって証拠に飲み物出してよ。」
喉渇いたけど、取りに行くのはメンドくさいからなー
「お前、仮にも神をパシリにするとはな。どんなのが欲しい? 大体なんでも出せるから。」
苦笑いしながらも出そうとしてくれるがたいのいいの、優しいじゃん。
「えーと、そうだな、じゃあ、目を覚ますためにコーヒーでも貰うかな?」
「あ、そうそう、女になると味覚変わるらしいから、今のうち、っつってもすぐに変わるんだけどよ、まあ、今のうちに好きなもの飲んだ方がいいぜ?」
「そうなの? じゃあ、ブラックを飲もう、後で飲めなかったら嫌だもんな。」
「分かった、ブラックのコーヒーな。あ、でも俺達の力って想像の範囲しか無理だから、美味いコーヒーとか出せねえわ。エディ……は苦いの苦手だから、澄也出せるか?」
そうなんだ、じゃあ、美味いコーヒーの想像ができないって事か?
「すごくおいしい、って言うのは無理だけど、それなりにおいしいのならいけるよ。」
「おお、今日初めて澄也が役に立った気がする。」
「酷いな! じゃあ出すよ?」
澄也(ひょろ眼鏡)が手を前に出すとコーヒーの入ったカップが煙と一緒に出てきた。
すげえなぁ……
「あつっ!」
カップを落としそうになる澄也。
「締まんねえな。ビシッと決めろよ、ビシッと。」
「うるさいなぁ、天才もたまには失敗するんだよ。っつ、どうぞ。」
澄也が膝を突いて気障な仕草で俺に手渡す。
こいつは結構顔が整ってるから結構様になっている。
だが、はっきり言って、キモい。
俺はまだ男だ!
そして体が変わっても精神は男のままだ!
「……ありがとう。でもな、俺はまだ男だから、普通にキモい! だからって、体が変わっても精神は男だから精神的にキモい! やめてくれ!」
「……はっ! 転換したときのビジョンしか見てなかった。でも、本当に美人だよ、エディちゃんとはタイプが違うから、比べられないけど、エディちゃんに並ぶと思う。」
コーヒーを飲みながら考える。
確かにそれならかなり美人だ。
エディ(金髪の美人さん)はかなりレベルが高いと思う。
……小さいけど、胸の形が綺麗だと思うし。
多分、普通にモデルとか出来ると思う。
「まあ、とりあえず転換したら、付き合ってください。」
「ッブ!! っげほげほ……」
思わず噴出しちゃたよ!
「げほげほ、何言ってんだよ!? 本気で気持ち悪いわ! 笑顔で言うな!」
「冗談だって。」
へらへら笑いながら澄也が言う。
なんだこいつ……
「お前、初対面だよな……見境ないのか?」
「いやいや、僕は博愛主義なだけだよ。世の中の女の子全員を愛してるだけだから。」
「気持ち悪っ。」
「辛辣!」
「で? やるんだったらさっさとしてくれる? やんないんだったら帰れ。」
「今やるけど、本当にいいのか?」
「……そういう言い方すると俺からして欲しいって言ったみたいじゃんかよ。どうせ俺が嫌がっても、他の奴のところに行くんだろ? でも、簡単にうなずくような奴だとつまらない、だけど嫌がればやらない、だったら無理じゃん? ならたまには自己犠牲とやらをしてやるかっつう事だよ。その分、美人さを最大限利用してやる。お前らもこき使ってやるからな、覚悟しとけよ。」
思う存分楽しんでやる。なんでもできる神様が俺の言うことを聞いてくれるんだ。楽しまなきゃ損だ。
「恩にきるぜ。でも、実際どこかで無理やり変えないと無理だってのは薄々気が付いてはいたんだよ、でも、とりあえず一人目は意思を尊重しようって事でよ。助かる、ありがとう。じゃあ、やるぞ? いいか?」
「どうぞご自由に。」
「それじゃあ……おらっ!」
この、無駄に気合の入った掛け声で俺の体は変化してしまった……
次は15日です! 評価など、もし良かったらお願いします!