兄貴は意外と頼もしかった!
「まあ、それで、学校で事情を知ってる人が何人か欲しい訳よ、てことで、直矢たちを入れて欲しいんだ。」
「いいんじゃない? 頼んでみるわねー」
またお袋が電話をとって、
「あ、もしもし? 冬士兄さん? 陽子なんだけど、何回もごめんね~、で、用事なんだけど、入れて欲しい子がいるの、え? 何か事情があるのかって? 楓の女体化の犯人よ、あ、いい? ありがと、じゃね~」
「大丈夫だって。」
絶対俺の研究目的だ……
「そういえば、どこに住むの?」
「決めてねえ……」と直矢、
「僕もあてはないよ?」と澄也、
「僕があてなんてあるわけないじゃないですか。」とエディ、
「どうしたもんか……」
「家に住めばいいじゃない! 空き部屋はあるし、歓迎するわよ?」
おお、その手があったか!……って、家に住ませるのかよ!? 確かにこの家、地価の安いうちにに爺ちゃんが建てたから、無駄に広いけどさ!
「え……いいんですか?」
「ええ、むしろこっちからお願いしたいくらいよ! 人が増えるのはいいことだしね!」
「そうですか……家賃とかって払った方が?」
「家賃? いいわよ、そんなの。」
「いや、ただ何もせずに住ましてもらうっていうのは悪いんで、何かしますよ。」
「そう? なら……よし、楓のことを面倒見てもらうお礼ってことでどう?」
「それの根本の原因は俺たちですし……家事させてもらえませんか? 普通の主婦以上の腕は持っているつもりです。」
「そうね~、まず、本当に腕がいいか確かめるけど、言った通りならお願いするわ。じゃあ、とりあえず昼ご飯でも作ってくれないかしら?」
「分かりました。エディ、澄也、少し手伝え。」
「ええ?! 俺はやるなんて言ってないし、下手だぜ? 別にやってもいいけどさ……」
「僕の料理の下手さは直矢さんも知ってるじゃないですか! 手伝ったら駄目になっちゃいますよ!」
「大丈夫だ、基本的に作業は俺がやる、お前らは補助をしてくれ。」
「まあ、それくらいならできるけどよ……」
「僕はそれすらも失敗しそうです……」
「エディ、お前はこれで練習しろ、それに、最悪失敗しても具現化でカバーできる。」
「……分かりました。」
「じゃあ、台所借りていいですか?」
「いいわよ、あっちにあるから。」
「ありがとうございます。……ほら、行くぞ!」
「へいへい……」
「分かりましたー!」
台所に向かって行く直矢たち、ところで、俺は何故囲まれているんだ?
姉貴と幸、お袋に囲まれているんだけど……何で? あ、兄貴が加わろうとして姉貴に吹き飛ばされた。
「……どうしたのかな?」
「いやー、そろそろ楓ちゃんの言葉遣いを直そうと思って。」
「……拒否権は?」
「「「無いよ!
わよ!」」」
……諦めよう。やっぱり、人生諦めが肝心だってことをね、悟ったんだよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
で、担がれて姉貴の部屋へ連行されました。……スグえもんが近くにいないのはきついな……代理を呼ぼう。
「兄貴も呼んだ方がよくねえ? てか、呼んで来て。そしたらあんま抵抗しないから。」
兄貴なら代理になりそうだし。戦闘能力は(神の力使ってない状態の)直矢並みだし、頼みも聞いてくれそう。
でも、ただの提案じゃ連れてきてもらえるか分かんねえから、抵抗しないって条件をつけた。
「……いいわよ、幸? 呼んできてくれる?」
「分かったー!」
とてとてー、と部屋を出て行く幸、何回も思うんだけど、俺を抑えてた人物なのか?
「そういえば、なんで勇牙がいたほうがいいと思うの?」
……どうやって言い訳するかな……?
「えーと、そのー、俺以外にも男がいたほうがいいかなー、なんて。男目線で見ると女目線では見えない部分が見えるかもしんないし。」
よし、我ながらもっともらしい言い訳を言った!
「……まあ、いいわ、来たみたいよ。」
確かに足音が聞こえてきた。
「呼んで来たよー!」
「楓~、俺の事呼んだのか~?」
……滅茶苦茶にやけてる。
「呼んだ。」
「何で何で?」
「……ちょっとこっち寄って。」
「ん? なになに?」
(何されるか分からないからさ、守って欲しいんだよ。)
(なるほどな! お兄ちゃんに任せとけ!)
自分のことをお兄ちゃんと言うとか……
もしや……
(俺に呼んで欲しい呼び方とかってあるの?)
(おお! 良くぞ気付いた! お兄ちゃんと呼んでく、呼んでくれ!)
一瞬詰まったのは、俺が思いっきり兄貴の腹を蹴り上げたから。
てか、思いっきり鳩尾蹴って一瞬詰まるだけとか……俺が弱いのか? それとも兄貴が人外すぎるだけ?
(嫌だよ! 気持ち悪い……)
(……いや……お兄ちゃんは待ってるからな!)
(……とりあえず自分のことをお兄ちゃんとか言うの止めろ、キモい。)
(……わかっ……た……)
手を胸にあてながらよろよろとし始める兄貴
……何なんだ?
「どうしたのー?」
幸が不審に思ったのか聞いてくる。
「んー、俺はなんもしてないと思う。」
腹思いっきり蹴ったけどね。
「へー、不思議だねー」
「不思議だなー、で? どうすりゃいいの?」
「そうそう、まず、自分のことを俺って言うのやめようか~? 俺じゃなくて、私にしなさい。」
……嫌過ぎる……
「……なんでよ?」
「そりゃあ、女の子になったんだから、女の子らしい言葉遣いにしないと~」
「だから、俺男だって……」
「体は女の子でしょ?」
「……分かったよ……」
やはり諦めが肝心、ここ重要だよー、テストに出るよー……ある日体が女になった時の対処法のテストに……
「でも、家だったらいいだろ? 外出たらちゃんとするから。」
「うーん……緊急会議!」
またもや緊急会議……
これやった後って毎回ろくでもないことになるんだよな……
よし、兄貴に近づいて……
(兄貴、部屋から脱出させてくれ。)
……反応無し、「き、キモいとか……」とかぶつぶつ言いながら丸くなっている。
うーん……しかたない……
(……お兄ちゃん)
こういえば反応しそうだからな。でも、他に聞こえる声で言うと色々面倒臭そうだし、第一、他に聞かれたくない、
「はい! 何でしょう!」
何なんだろう、ついつい目がジトっとした目になる……
(部屋から脱出させてくれない? このままだと何されるか分からないからさ……)
(なるほどな……)
素早くドアや窓へ目を走らせる兄貴、
頼もしいぜ!
でも、窓も見てたけど、ここ二階だぜ? 兄貴一人とか、俺が男の体なら行けなくもないが、はっきり言って今の俺はお荷物だからな……
(多分、ドアから行くと無理だ、だから、窓からいくぞ。もうちょっとこっち寄れ。)
マジか……
(わ、分かった。)
兄貴に近づくと……
「きゃあ!」
何が起こった?! 何か抱えられてるみたいだけど……これはもしかして……
「よい、しょっと!」
兄貴が俺を抱えたまま足で窓を開けて(鍵はぶっ壊した)窓枠へ飛び乗る。
まさか……まさかのお姫様抱っこかよ!? 何か……恥ずかしい!
「ちょ?! 何してるの?! 楓を降ろしなさい!」
「姉貴、じゃあな! とう!」
「きゃあああ!」
言ってから飛び降りる兄貴、
俺、高いところから飛び降りるのとか余裕だったはずなのに……滅茶苦茶怖かった……涙目。
「つつつ……さすがに靴無いと辛いぜ……さて、どこに逃げようか……」
「怖かった……」
「え? ごめんな! あれしかなかったからよ。あ、降ろすな。」
降ろされたけど、腰が抜けて立てない……
我ながら情けないぜ……
「……立てない。」
「え? どうした?」
「その……腰が抜けちゃって……」
「大丈夫か?」
「……俺が走ってもかなり遅いと思うから、抱えてくれない? あ、それと、立ち上がらせてくれない?」
お姫様抱っこは嫌だけどさ……
てか、俺が軽くなったとはいえ、人抱えて一般人より早く走れるってどんな運動神経だよ?!
……まあ、俺は一般人よりよっぽど遅いと思うけどさ! 仕方ないじゃん! 運動神経が悪くなってるんだよ!
「任せてくれ! ほら。」
兄貴が手を出しくれたので、その手を握ると立ち上がらせてくれた。
……と言っても、まだ力が入らないから、ガードレールに座ってるんだけどね……
「おぶってくんない? ……さっきのは恥ずかしいから……」
思い出して、顔が赤くなって俯く。
だって、今はたまたま人いなかったけど、あんなとこ見られたらもう、外に出られねえよ!
「そうか? 俺は結構楽しかったけどな。まあいいや、靴盗って来るから、ちょっと待ってろ。」
頼もしいな……
靴無いと大変だからな……
よし、ここは一つ応援しよう。
「うん、頑張って!」
これくらいしか俺にできることないしな。
……俺って本当にお荷物だ……
「ああ! 行って来るぜ!」
その後、とんでもない速度で走っていく兄貴、
靴無しでこの速度はおかしい……てか、あってもおかしい……
「よい、しょっと!」
ん?
……姉貴が飛び降りてきたんだけど……
パーカーを羽織って飛び降りてきた……
「楓?! 大丈夫?!」
「え? ……あ、うん。」
「良かった……全く、勇牙はいきなり何をするのかしら……」
……あれ? なんか、兄貴が完全に悪者になってない?
「いや、これは、その―――」
「そうよね、いきなり抱えられてビックリしたわよね、本当に勇牙は……」
どうしよ……よし、もう一回……
「だから、これはさ―――」
「大丈夫、お姉ちゃんが守るからね。」
……駄目だ、全く話を聞かないぞ……こうなったら、とりあえず逃げやすいように……
「あのさ、靴無いから、持ってきてくれない? 冷たくて……」
本当に冷たい!
「分かったわ、でも……離れてるときに連れて行かれないかしら……?」
やっぱりそうなるよな……ならば!
「直矢でも呼んでよ、護衛につけてさ。」
「そうね、分かったわ。」
よし、これで多少楽になるか……
「幸ー? 直矢君呼んでくれない?」
窓に向かって姉貴が言う、
「分かったよー!」
「あ、それと楓の靴も……って、無かったんだった……うーん……色々靴持たせて!」
「分かったー!」
よし、これならいける!
「何ですぐ降りてこなかったんだ?」
「靴とりに行ってたからよ。その点、勇牙は本当に無計画ね……」
今逃げる算段を整えておりますがね。
「うーん……てか寒っ」
風が冷たい……
「半袖だからね、寒いんならこれ着る?」
パーカーを差し出してくる姉貴、ありがたい!
「ありがと、助かる。」
差し出されたパーカーを着ながら言う。
まだ3月だから……寒い!
「とりあえず靴色々持って来ました。」
いつの間にか隣に靴を山ほど抱えた直矢が……
さすがの人外っぷりだな……
てか、うちにこんなに靴あったんだ……
「いつの間に?! 私が察知できないなんて……」
「ありがと、サイズ合う靴無いかな……合わすの面倒だから、直矢の力で探してよ、てか出せばいいじゃん。」
「それもそうだな……」
「……もしかして、今気付いた?」
「そうだな、今まで神の力を使わずにできることは全て自力でやってきたからな……」
何この人!? いや、神だけどさ!
あんな便利な力があるのに最低限しか使わないってなんなの!? バカなの!?
「まあいいや、出してくれない?」
「うーん……俺、女物の靴とかイメージできないんだが……」
「じゃあ……ここにある靴のどれかのサイズを合わせる、ってのは? あ、裸足だから、サンダルっぽいやつでお願い。」
「……分かった。」
靴を床に置いて、手頃なものを探し出す直矢、
あー、寒い寒い……ん? 兄貴が屋根の上からひょっこり顔を覗かせて、手を振っている。
……何であんなとこにいるんだ?
「これいいですか?」
手頃なのが見つかったらしく、姉貴に聞く、
「いい……と思うわ。まあ、戻せるんでしょ? なら問題ないと思うわ。」
直矢が出したのは、ペッタリしたサンダルっぽい靴だ。
まあ、無難な感じだと思う。俺もよく分からないし、いいんじゃね?
「じゃあ、サイズを合わせますね、よいしょっと! これでいいと思う、履いてみてくれ。」
「分かった。」
どれどれ……お、ぴったり。
「ぴったりだよ、さすが神の力ってとこだな。」
これから毎日投稿する分少し短めになるかもしれませんが……すいません。




