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 テレビのニュースに聞き耳を立てる祐二と黄泉。

 祐二はベッドに腰かけ、黄泉は畳の床にぺたんと坐っていた。

 ニュースの内容は、新陰流の東京道場の稽古場である小学校体育館で、その場に居合わせていた全員が意識不明になるというものだった。

 そしてニュースは、新陰流相伝会会長の記者会見の模様に切り替わった。

 スーツを着た壮年が画面に映った。頭は白髪をオールバックで固めている。カメラが寄ると顔に深い皺を確認できるが、精悍さと威厳を感じさせる顔立ちだった。

「新陰流相伝会会長、柳生 源一郎……」

 祐二はテレビに表示されたテロップを読み上げた。

「この者が新陰流の道場を束ねておるのか」

 記者達は次々と柳生 源一郎に質問を浴びせていった。

『今回の事件は新陰流に恨みを持つ者の犯行でしょうか?』

『組織的テロの可能性は無いでしょうか?』

『春季合宿を目前にしての事件ですが関連性は?』

 なんだこいつらは――祐二は我先にと質問を浴びせるマスコミの態度に反感を覚えた。

 と、そのとき、玄関のチャイムがピンポンと鳴った。

「ん、来客か?」

 いいながら祐二はベッドから立ち上がり、玄関へ向かう。

「はい、新聞なら間に合ってま――」

 ドアを開けた祐二の目に飛び込んできたのは、白髪。

 オールバックの白髪だった。

「失礼ですが、コスプレ探偵事務所はこちらですか?」

 聞き覚えのあるしゃがれた声に、祐二は視線を下に降ろしていった。

「あああ!? あなたは、し、し、しんかげのかかか、いちょ?」

 振り向き、テレビの画面と玄関に立つ人物と交互に見比べる。

「はい、わたくしが新陰流相伝会会長、柳生 源一郎です」

 源一郎は祐二に向かって頭を下げた。

 祐二が慌てて会釈を返す。

「な、な、なんで会長さんが家なんかに……」

「僕がアポイントメントを取ったからさ」

 その聞き覚えのある喋り方に、祐二は嫌悪感を露わにした。

 案の定、トキオが源一郎の背後に姿を現す。

「なんでお前がアポイントメントなんか――って、先輩まで」

 トキオの横には、ギターケースを背負った皮ジャンの男が立っていた。

「いかがした……騒がしいようであるが」

 何事かと、玄関に様子を見に来た黄泉が、驚きで顔色を失う。

「ひ、人が二人おる……」

 黄泉は驚愕の表情で、テレビと源一郎の顔を交互に見比べていた。



「何もないですがどうぞ」

 祐二はちゃぶ台に御茶の入った湯飲みを置いた。

「これはこれは。いただきます」

 源一郎はそういうと、御茶をすすった。

 正座をして御茶をすする源一郎から一般の人とは異なる風格、威厳のようなものが感じられた。

 隙を感じさせないその様に、黄泉は源一郎がただ人ならない剣客であることを直感した。 

 源一郎と向き合う形で、祐二と黄泉が坐り、田辺は部屋隅の壁に寄りかかるようにして坐り、トキオはキッチンの柱に背を預け立っていた。

 トキオの手には何時の間に入れたのか、コーヒーの入ったカップが握られていた。

 まるで自分の家のように、勝手にコーヒーを作るトキオに、祐二は一瞬なんだこいつの視線をトキオに向ける。

 しかし、当のトキオは祐二の視線に気づかないのか、優雅にコーヒーの香りを楽しんでいる。

 祐二はこのままでは埒があかないと思ったのか、本題を切り出そうとする。

「今回の事件のことですが――」

 源一郎は湯飲みを置くと、神妙な顔つきで口を開いた。

「今回起きた事件は本当に痛ましい限りです。我が新陰流道場の稽古中、突然参加者と見学に来ていた父兄が意識不明で倒れたということです」

 源一郎は目を閉じ、苦渋の中に奥歯を噛みしめる。

「巻き込まれた者の中には、体験入門をしていた年端もいかぬ子供もいたというのに……」

 源一郎の硬く握られた拳が震えていた。会長である自分の至らなさを責めるかのような嘆き、犯人に対する憤りが、祐二と黄泉の胸にひしひしと伝わってきた。

「被害者の方々は本当にお気の毒でした……」

 慰めにもならないと思いながらも、祐二は源一郎に言葉をかける。

 会長という立場は祐二にはよくわからなかったが、今回の事件の被害がいかに深刻だったかは理解できる。

 そして、その痛ましい事件を起こした犯人は――おそらく悪鬼である。

「悪鬼め――許せん」

 黄泉はおとなしく正座をしているように見えるが、膝に置かれた拳は怒りで震えていた。

 祐二も黄泉と同じ、悪鬼に対して堪えきれないほどの憤りを感じていた。

「その現場に居た全員が意識不明になる――なにか不振な人物の目撃などなかったのだろうか?」

 黄泉が冷静を装い、源一郎に問うた。

 犯人が悪鬼であることの確証を固める為だ。

「警察が調べているようですが、こちらにはこれといって情報は入ってきていません」

「左様であるか」

 黄泉は腕を組み、うーんと唸った。

 それを見計らったかのようにトキオが口を挟んだ。

「それを調べるのが探偵の仕事だろ?」

 トキオは言い終えるとカップに口をつけ、んんーと、舌づつみをうった。

 いちいち感に触るトキオを一瞥すると、祐二は今後の対策について考える。

「聞き込みをしているうちに、また次の事件が起こる可能性もあるし、どうしたらいいもんか――」

 それならと、源一郎が祐二に答える。

「道場の稽古なら中止してあります。あのような事件がありましたから。門下生の安全が第一です」

 それなら稽古が再開されるまで、同じ事件が起きる可能性はすくないだろうと、黄泉は納得する。

 しかし、それではこちらから悪鬼を攻められぬ――黄泉が歯がゆさに顔をしかめた。

「いや、会長、稽古を続けてください」

 その声はトキオだった。

「おめぇ、なにいってんだ! また罪の無い人間を悪鬼の餌食にするつもりか!」

 立ち上がりかけた祐二を黄泉が制した。

「な!? 黄泉!?」

 黄泉は祐二に向かって静かに首を振った。

 祐二は不承不承腰をおろす。

 悪鬼にこちらから攻撃できる策、それをトキオが知っている――黄泉はそう勘ぐったのだ。

「トキオ、続けてもらおう」

 トキオは小さく肩をすくめると、話を続ける。

「記者会見で大々的に、稽古を再開すると宣言していただきたい」

 身を乗り出そうとする祐二の腕に手を置き、黄泉が制する。 

「犯人の狙いは僕らだ。犯人が稽古場に現れたなら――」

 トキオは一言も喋っていない田辺をみやる。

「僕と田辺で片づける」

「!?」

 祐二と黄泉は言葉を失った。

 納得できない――その一言だった。

「君達はいわば切り札――奴等に気づかれては厄介だからね」

 トキオはまあ聞きたまえと、話を続ける。

「新陰流の道場を狙う犯人は、悪鬼である可能性がある」

 言うと、トキオはコーヒーを飲み干し、悪鬼について説明を始めた。

「悪鬼というのは肉体を持たない精神生命体。それは闇に暗躍し、組織で活動し、人類を掌握しようとしている」

 源一郎はキッチンのトキオの方を向き、真剣な表情で聞いていた。

「にわかには信じられんが、多数の人間を数時間、いや数分で意識不明にできるとは――その話信じるしかあるまいか」

 源一郎はそういうと半信半疑ながら、トキオの話に同意した。

 大量の睡眠薬を飲ませるにしても、多数の人間に短時間で服用させることは不可能。催涙ガスを使ったとしても、痕跡は残る。

 犯人は一切痕跡を残さず犯行に及んだことを考えると、これも考えにくい。

 祐二は自分なりの推理を口にした。

「可能性として残るのは、多数の人間を意識不明にできるほどの威力を持ったた新種の兵器だが――」

「新陰流の道場をなぜ狙うのか、ということだ」

 祐二の推理に、田辺が所感を述べた。

 テロを起こすのであれば、もっと人が密集している場所を選ぶはずである。

 となると、源一郎はトキオの言葉を受け入れるしかなかったのである。

「となると奴等の狙いはやはり僕ということになる――」

 いうと、トキオは続けた。

「まず、会長に道場の稽古再開を大々的に宣言してもらい、そこに悪鬼をおびき出す」

 トキオは祐二と黄泉を交互にみやる。

「悪鬼が来る前に、君達は生徒、保護者達を安全なところまで避難させてくれたまえ」

 細心の注意を払って被害者を出さない為にねと、付け加える。

「稽古再開は悪鬼をおびき出す為のフェイクか」

 祐二は納得したようにトキオの策略の意を確認する。

 黄泉は大きく頷き、了承の構えを示す。

「では、詳しい打ち合わせをするが――」

 ここで不意に源一郎が話に割って入った。

「稽古当日は、現場にわたくしも立ち会わせていただけないだろうか」

 源一郎の思ってもみない言葉に、全員が驚いた。

「わたくしは会の会長として事件の真相を見極める責任がある。弟子や門下生達が命の危険に脅かされているのに、自分だけのうのうとしているわけにはまいりません」

 源一郎から発せられる不退の決意を感じ、トキオが肩をすくめた。

「僕等は極力危険が及ばないよう注意はするが、覚悟だけはしていただこう」

 源一郎は、大きく頷いた。

「食われた魂が消化される前に悪鬼を倒せば、患者達の意識は回復する筈だ――時間がない」

「わかった。この件でわたくしが見聞きしたことは、他言無用としよう」

 トキオは空になったカップを流し台に置くと、居間にいる全員を見渡した。

「では、打ち合わせを再開しよう」



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