弐
「ただいまーっと」
祐二は帰宅するなり、機嫌良く声を張り上げた。
しかし、部屋には誰もいるはずもない。
黄泉が祐二に続いて玄関で靴を脱ぐ。
田辺との稽古が打ち切りとなったことで、二人はここ数日、学校からまっすぐ帰宅していた。
剣道大会の一件は黄泉に話はしていたので、二人は悪鬼の動きに注目していた。
しかし、ここ数日はなんら動きもみせないことに、祐二は肩すかしを食らった感じだった。
祐二が和室で着替えを始めると、黄泉は脱衣所に向かった。
ふと疾しい考えが首をもたげるが、ぐっと堪える。
下はジャージ、上はTシャツ姿に着替えたところで、祐二はベッドに腰かけ一息ついた。
暫くしてガチャリとドアが開き、黄泉が脱衣所から出てきた。
黄泉は黒のタンクトップの上に、首元がゆったりとしたTシャツを着、下はスパッツに着替えていた。
黄泉はハンガーを手に取り、制服を掛けていく。
「今日の飯はいかがいたすか?」
「うーん、冷蔵庫に総菜が残ってるはずだから、それですませるか」
「あいわかった」
剣術の稽古をしていないので、あまりお腹が減らないのだ。
稽古がないと時間を弄んでしまう。
何気なくテレビのリモコンを手にとり、テレビをつける。
「はう!?」
いきなり流れたテレビの音に驚き、黄泉は肩を跳ね上がらせた。
その仕草を祐二はかわいらしいと思い、ついニヤけてしまった。
「額縁に人が入っておる……」
黄泉は珍しそうにテレビに近づき、つんつんと画面を触った。
よくもこんな狭い場所に人が入れるものだと、黄泉は感心した様子だ。
「そういえば黄泉が来てからテレビなんてつけてなかったな」
黄泉が来てからというもの、忙しい毎日でテレビを観る余裕などなかったのだ。
「これはテレビという物で、簡単に言うと写真を動かしているって感じだ」
「て、るび? 写真が動く? そのようなことはなかろう」
黄泉は腕を組み、ばかにしては困るといった風に、ジト目で祐二を見やる。
しょうがねぇなと言った感じで祐二はノートを開くと、端っこに棒人間を書き始めた。
「いいか、みてろよ――」
黄泉がノートを覗き込んだところを見計らい、ページを勢い良くめくる。
バラバラと小気味の良い音と共に、棒人間が踊りだした。
「おお、動いておる!」
ほほぉー、と感嘆した様子で、黄泉は食い入るようにノートを見つめていた。
「この原理で撮影した写真を素早く何枚も表示させているわけだ」
黄泉は腕を組みながらふむふむと頷く。
「ということは、このてルビとやらに入っている者は、すこぶる魂を吸い取られておるのだな」
「あ、あぁ……って、お前、いつの時代の人間だ!」
素早く突っ込みを入れるが。
「江戸時代であるが?」
素早く返されてしまった。
俺が悪かった、もういいよと、祐二は力無く肩を落とす。
と、そのとき、テレビの番組が臨時ニュースに切り替わった。
『臨時ニュースをお伝えします。ついさきほど都内の新陰流体験教室で、参加者が意識不明で病院に搬送されるという……』
「黄泉! 奴等が動いた!」
祐二の言葉に、黄泉は素早くテレビを見やる。
「新陰流を狙っておる……」
室内に緊張が走った。




