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 展望室の窓から望む景色は夜の闇に包まれていた。

「地面に星がはりついておる」

 ネオン、マンションの明かり――文明が作りだした色とりどりな光。

 その光は生活の暖かさを感じさせる色だった。

 黄泉は今だ目にしたことがない幻想的な景色に、感嘆の声を上げていた。

「どうだ。気に入ったか?」

 黄泉は祐二に向かって嬉しそうに頷いた。

 すると黄泉は急に顔色を改める。

「似ている」

「は? なにが?」

 祐二が聞き返すと、黄泉は微笑した。

「わしが惚れた男――」

 その一言に、祐二は胸をえぐられるような感覚を覚えた。

 黄泉に決まった人がいるなら俺の出る幕はないな――祐二はそう自嘲した。

「会いたいのか?」

 祐二の問いに黄泉は顔を振った。

「わからぬ。しかし――」

 黄泉は祐二に柔らかな笑顔を向ける。

 長いストレートの黒髪が、さらりと肩に流れる。

「今は祐二がおる」

 言いながら黄泉は流れた髪を耳に掛ける。

 その仕草に、祐二の胸はどくんと高鳴った。

「よ、黄泉、俺は――」

 祐二の手が黄泉の手を握ろうとする。

 しかし、寸前で祐二は大きくため息を吐き出し、手を引っ込めた。

「お前が帰れる方法を必ず見つけてやる」

 黄泉は一瞬悲しげに視線を落とすが、いつもの笑顔で祐二をみやった。

「別に――良い」

 心にもないことを口走ってしまったことに気づき、祐二はハッとする。

 俺はなんでいつもこうなんだと、祐二が堅く眼を伏せた。

 その時だった。

「いやー、綺麗だ」

 祐二の隣からわざとらしく呟く男がいた。

「江戸の時代じゃ絶対見れない景色だ。実にミラクル」

「!?」

 その言葉に黄泉と祐二は言葉を失った。

「お主は!」

 スキーのゴーグルをファッションサングラスのように額へ乗せた茶髪。

 まだ幼さの残る顔立ち。

 見た目から祐二とそう年齢は違わないと思える。

 黒のTシャツの胸に赤字でfireファイアーという文字。

 下は黒のジーンズ。

 黄泉から聞いた「突き飛ばした男」の特徴と似ていることに祐二は気がついた。

 祐二は自分の弾きだした推理が正しかったと確信する。

 と、同時に思った。

 こいつなら黄泉を江戸時代に戻すことができるのではないかと。

 気がつけば体が勝手に動いていた。

「てめぇが黄泉を連れてきたんかよ! 戻す方法しってんだろ! 早く戻しやがれぇぇぇ!」

 祐二は男のシャツが破れんばかりに胸ぐらを掴んでいた。

「放してくれないか――」

 男は祐二の右手首を掴むと、捻り上げた。

「――民間人が」

「ぐあぁぁぁ!」

 祐二の顔は苦痛に歪み、額からは脂汗が滲み、捕まれた右手はミシミシと悲鳴を上げる。

「貴様!?」

 黄泉は男に向き合うと、腕を突きだし、構えた。

「その力はまだ使う時ではない」

 男は黄泉を制するように手を振った。

「勝手な事、ほざくんじゃねぇぇ!」

「民間人は黙っていてくれ」

 男はそういうと、祐二の腕を突き放した。

 祐二は勢いでよろけながらも、なんとか踏ん張り、転倒を免れた。

「なんだ、喧嘩か?」

 がやがやと、いつの間にか三人の周囲には野次馬が集まり始めていた。

 それを見た男が舌打ちをする。

「これでいいか?」

 男は呆れたように肩をすくめてみせる。

 それを見た黄泉は、構えを解き、祐二に駆け寄った。

 祐二は苦痛に顔を歪めながら、手首を押さえていた。

「お主、一体何者だ!」

 男の口元が薄気味悪く歪む。

「運命の道先案内人」

「てめぇ、ふざけんな!」

 男は祐二を一瞥すると、踵を返した。

「トキオ――とでも呼んでくれ」

 言い捨てると、トキオは下り階段にむかって歩いていった。


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