六
祐二が案内したのは大きなビルだった。
それもただのビルではない。
「コケシ人形――」
それが黄泉の率直な感想だった。
「あぁ、たしかに見えるな」
四角い胴体の頂上に、カレー皿のような頭、なるほどなと、祐二は苦笑する。
「これは文京シビックタワーだ。あの頭のような所は展望室になっていて、下の景色を眺めることができる」
でもここは区役所なんだぜと、祐二は得意げに付け加える。
「びしっくたーわ? てん――ぼだ? 幕府の役人がおるのか?」
まるで外人と話してるみたいだと、祐二は額を押さえた。
「ま、そんな感じだ」
どんな感じなのかわからないが、祐二はいくぞと、黄泉の背中を押した。
中に入ると、区役所とは思えないほどの豪華絢爛な造りで、相当な費用がかかっていることが伺える。
「――南蛮」
黄泉のこぼした言葉に、祐二は笑顔で答える。
「だったらいいな」
自分の住んでいた日本では、木造住宅しか見たことがない。黄泉が南蛮と間違うのも仕方がなかった。
エレベーターを使い25階に到着すると、二人は真っ直ぐ展望室の窓を目指す。
しかし。
「エロ、ベートってやつは、気持ちが悪い」
と、黄泉は酔っぱらいのように足をもつれさせながら、展望室の窓に向かう。
世話がやけるとぼやきながら、祐二は黄泉の体を支えた。
口でそうは言っても、祐二は黄泉の世話をやくことがなんとなく嬉しく思えていた。
「なにやら人が多いぞ」
「あぁ――」
展望室にはまるで蟻が餌に群がるように、デジカメや携帯を持ったおじさん達がいた。
夜景がよく見える展望室は、カメラ小僧ならぬカメラ親父で占領されていたのだ。
祐二と黄泉は数分待てども暮らせどもカメラ親父達は一向に立ち去る気配はない。
観光客かよ、全くマナーがなってねぇなと、祐二は中に割ってはいる。
「ちょっとすみませーん」
「なにをする! 写真がブレちまうだろ!」
カメラ親父に小声で祐二は耳打ちをする。
「うちのかわいい純粋無垢な妹が、おじさんのことじーっと見てますよ」
黄泉は指を口元に添えながら首を傾げていた。
まだか、まだかと瞳を潤ませ、順番を待つその表情はとても愛らしい。
「全く、最近のガキは!」
恥ずかしそうに顔を赤くしながら吐き捨てると、壮年はその場から立ち去っていった。
それをみた黄泉は、ぽつりと祐二に向かって呟いた。
「――良い仕事」