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「さすがに効くぜ」

 祐二はベッドにうつ伏せで倒れ込んだ。

 腕は筋肉痛でパンパンになり、全身は打ち身で悲鳴をあげている。

「あまり無理をするな」

 黄泉は祐二を心配そうに見つめ、勉強机の椅子に腰を降ろした。

 しかし、祐二には悠長にしている余裕はなかった。

 黄泉を守れるようにならなくては、元の時代に戻すなんてことは夢の中の夢。

 そうだ、一日でも、一秒でも早く強くならねぇと――そこで祐二は、はたと気になった。

 ゆっくりと体を起こし、ベッドに座ると、黄泉に向き直る。

「トキオは悪鬼と戦わせる為にお前をこの時代に連れてきたと言っていたな」

「そうだが」

 黄泉は椅子から腰を上げると、畳にぺたんと座り込むようにして祐二に向き合った。

「今まで倒してきた悪鬼。プリン捜索の時の悪鬼。田辺に取り憑いた悪鬼。そして出会い系サイトの時の悪鬼――」

 祐二は腕を組み、虚空を睨む。

「悪鬼の数は何体いるかもわからないし、どれだけ倒せばいいかもわからねぇ」

 祐二の言葉に黄泉は大きく頷いた。

 夥しい数の悪鬼がいたとしたら、今のペースで倒していけば何年で殲滅できるか見当もつかない。二人が生きている間に殲滅させることは難しいであろう。

「悪鬼と戦わせ、殲滅を計るために黄泉を江戸時代から連れてきたというにしては、効率が悪すぎる。わざわざ江戸時代から連れて来るには、はなにかしら別の理由ってもんがないと辻褄が合わん」

「その通りだ!」

 不意に相づちをうったのは聞き覚えのある男の声だった。

「だろ――って、お前!?」

 キッチンに目を向けると、柱に背中を預けて立っているトキオの姿があった。

 その手には淹れたてのコーヒーの湯気が立ち上るカップが握られていた。

トキオは優雅にコーヒーの香りを楽しんだ後、カップに口を付ける。

 こいつ、ついに人の部屋に侵入しやがったと、祐二は睨みつける。

 文書偽造といい、不法侵入といい、黄泉を江戸時代へ戻す方法を知っていなければ、今から警察につきだしているだろう。

 そんな祐二の心配をよそに、トキオは驚くべきことを語りだした。

「奴らの目的は人間に代わってこの世界を支配すること」

 トキオはカップに満たさせた黒い液体を見据え、言葉を継ぐ。

「人間は奴らにとって悪心を喰らうだけの食料になる」

 食料――祐二は真剣な面持ちでトキオの話に聞き入る。

「悪鬼に憑かれた人間により、政治、経済、警察は支配され、奴等にとって都合のいい世界を創る。これが奴らの狙いだ」

 そこで今まで黙って話を聞いていた黄泉が口を挟んだ。

「奴等の狙いは承知したが、わしは当てもなく悪鬼を倒し続けるだけなのであろうか?」

 トキオは右人差し指でカップの淵を弾くと、鈴のような澄んだ音色が室内に響いた。

「生物というのは、集団になれば必ずその集団を束ねる長が必要になる」

「何が言いたい」

 確信をなかなか語ろうとしないトキオの態度に、祐二は喰いかからん勢いでベッドからずいっと身を乗り出した。

「悪鬼も精神でできた生物。となると、悪鬼達を束ねる長がいると考えて自然だとおもわないか?」

 話の合点がいったのか、黄泉がぽんと手を叩いた。

「なるほど、悪鬼の長を討てば事は解決であるか」

 組織を崩壊させるには、それを束ねる長を狙う。戦における常套手段である。

「その長の名は――」

 トキオはコーヒーを飲み干すと、カップをテーブルに置いた。

「――村上木三郎。人間であった時のヤツの名前だ」

「!?」

 その言葉に黄泉の目が驚きで大きく見開かれた。

「黄泉、そいつを知っているのか?」

 祐二が黄泉に目を向けると、黄泉は俯き、両の拳を堅く握り肩を震わせていた。

 暫く沈黙の後、黄泉はやっとのことで声を絞り出す。

「村上 木三郎――わしの実の父親だ」

「な、なんだって!?」

 祐二は黄泉の思ってもみない言葉に衝撃を隠せなかった。

 女房を凶刃の手にかけ、黄泉を見世物に売り払った男、その男が――祐二は例え様のない怒りを悪鬼の長、村上に向ける。

「黄泉、話してくれるか? その村上のことを」

 祐二は黄泉に促した。

 どうしてもその村上の事を知りたかったからだ。

 一瞬の迷いを見せた黄泉だったが、意を決して面をあげた。そして祐二に向かって頷くと、静かに語りだした。


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