弐
昼休みが終了し、午後の授業が開始された。
祐二は席から窓の外をぼんやりと眺めながら、考えていた。
学校を終えてからすべきことを。
田辺との勝負、いや、剣術の稽古である。
一度だけと田辺は言っていたが、祐二には確信があった。
田辺は祐二の力がつくまで指導してくれると。
しかし、黄泉をまた一人で留守番させることになるということを思うと、胸が締め付けられる。
黄泉に田辺から剣術指南をしてもらうと話そうとも思ったが、気恥ずかしさからか、言うことができない。
大事なもの――即ち、黄泉を守る為だと言ったからだろうか。
そんな時、良いタイミングでゲーム機を借りれたのはせめてもの救いだった。
いつも鬱陶しく感じる山田でも役に立つことがあるものだと祐二は思い、山田に感謝した。
空は晴れ渡り、眩しいほどの青が広がっている。
例え雨でも、いや、台風だったとしても祐二はあの場所に向かうであろう。
強くなりたいが為に。
田辺もまたその場に現れるであろう。
その気持ちに応える為に。
祐二は田辺と誓ったあの場所に想いを馳せていた。
学校から帰宅した祐二は、竹刀袋に木刀を入れ、肩にひっかけた。
「祐二、出かけるのか?」
「あぁ、黄泉はおとなしくゲームでもしながら留守番していてくれ」
木刀を持って出かけるとは尋常ではない。
なぜかあいつに任せても大丈夫な気がした。なぜかそんな説得力があるような奴だ――高田の言葉が脳裏によぎる。
そしてなにより、祐二の晴れ渡るような表情は、黄泉の不安を払拭させるには十分であったからだ。
黄泉はさほど不振がる素振りもみせずにこくりと頷いた。
祐二が玄関のドアを閉めでかけるのを見送ると、黄泉は鞄から携帯ゲームを取り出した。
「これを……こうであるな?」
確認するように呟くと、黄泉は携帯ゲームの横にある電源スイッチをスライドさせた。
効果音とともに、携帯ゲームのメーカーのロゴが画面に表示され、小気味の良い音をあげながらゲームのローディングが開始される。
黄泉は期待に満ちた眼差しで、携帯ゲームの画面を見つめ続けている。
と、そこで重大な問題が発生した。
「げいすかーと? かんてぬう?」
えげれすの文字とは違う横文字が、押して、押してといわんばかりに点滅しているのである。
寺子屋で見る、えんぐりっしゅといわれる言葉に似ておるなと、黄泉は呟いた。
えんぐりっしゅという学問の時間は、眠気との戦いで必死である黄泉は、その文字の意味が理解できよう筈もない。
黄泉は正座したまま携帯ゲームを床に起き、腕を組んで唸った。
このままでは一向に埒があかないことに業を煮やした黄泉は、適当にボタン押してみようかと思い立ったときだった。
このゲーム機には、絵里子のプレイデータが入ってるから空きスロットに必ず、ぜえええったい、セーブするんだぞ――祐二の警告が脳裏を掠めた。
その言葉は、まるで南蛮の呪文のように意味不明であったが、絵里子にとって大事なものであることはなんとなく感じ取れた。
下手に触って、絵里子の大事なものを台無しにしてしまっては目も当てられない。
「それは些か困る――」
黄泉は慌てて携帯ゲームを床に置いた。
黄泉が、げえむとやらを一人でするには、まだまだ早すぎるようだ。
黄泉はデモ画面を繰り返す携帯ゲームの画面をじっと見つめた。
「……暇だ」




