五
後楽園。 広大な敷地には東京ドーム、遊園地、公園などが隣接しており、区では最も賑わう地である。
駅を降りてすぐに施設がある為、県内はもちろん、県外の観光客の数も少なくない。
二人は東京ドームに向かって並木の鮮やかな大通りを歩いていた。
歩道は三角形のカラフルな煉瓦を並べたもので、とても手が込んでいる。
「ここはエゲレスか?」
黄泉は目にしたことのない巨大な建物の数々にため息を漏らしていた。
「すげぇだろ? ここは昔江戸だったんだぜ!」
祐二は得意げに黄泉の先頭にたちながら施設内を案内していた。
「祐二、あれはなんであるのだ?」
黄泉が指さした方には、大きな観覧車があった。
「あれは観覧車といって、あの小さな箱のような物の中に入って、景色を楽しむ乗り物だ」
「かんら――」
乗るか? という祐二の問いに、黄泉はブンブンと顔を振った。
初めてあんなでかい物をみたら、誰でもそうなるわなと、祐二は黄泉の姿に苦笑を漏らす。
「そうだ、ちょっと待ってな」
そういうと、祐二は白くとぐろを巻いた看板に向かって走っていった。
なにかの店のようだが、黄泉にはそこが何の店なのか全くわからない。
「待たせたな」
そう言いながら、祐二は白いとぐろを巻いた不気味な物を黄泉に差し出した。
「なんじゃ、このけったいな物は?」
「これはソフトクリームという甘い菓子だ。白い所をゆっくりと舌で――」
「ぶひゃ」
やわらかいとは知らず、一気にかぶりつこうとしたのだろう。黄泉の口には、べっとりとクリームがついていた。
「お前、人の話を聞け!」
しょうがねぇなと言いながら、祐二はポケットからハンカチを取り出すと、黄泉の口元を拭いた。
「うぅ、それくらい己でするぅ」
黄泉は恥じらいながら、祐二の手からハンカチを取ると、口元を拭きだした。
そんな二人に、すれ違う人たちが笑顔を送っている。
はたからみれば、二人は仲の良いカップルか、兄妹のように見えるのだろう。
俺、女の子とデートしてる! と、祐二はなんとも言えぬ優越感に浸っていた。
気がつけば、至る所がライトアップされはじめる。
すっかり日が傾き、東京ドーム、その隣には観覧車、ジェットコースター乗り場がありとあらゆる光で彩られた。
黄泉の顔は無邪気な子供のように笑顔で溢れていた。
「よし、とっておきの場所に連れていってやる」
祐二はこっちだと、黄泉の手を引いた。
「祐二、急がなくてもよいではないか」
黄泉は大きめなサンダルで、パタパタと音をたてながら、祐二の後を追いかけた。