八
人通りの少ない薄暗い公園。
そこで高田と黄泉はブランコに乗りながら祐二を待っていた。
今この公園には高田と黄泉の姿しかなかった。
倒れていた不良達の姿はすでになかった。
大した怪我ではなさそうだったが一応と、高田が病院へ連れていこうとしたのだが、彼らは高田の顔を見るや、逃げるように去っていったのだ。
高田はまだまだ夜の有名人であるようだ。
ざわざわと風が木々の葉を鳴らし終えると、辺りは静けさに包まれていた。
静寂を破るように黄泉がぽつりと漏らす。
「すまぬ。わしが田辺を怒らせたばかりに」
黄泉の言葉に首を振り、高田は遠くを見つめた。
「しかし、わからんでもない……」
高田は遠くに見えるビルの影を見つめたまま語りだす。
「あいつはプライドの高い男だ。自分の弱さを他人には見せたくないんだろう」
高田はそれが好きだった。
どんなにがんばっても越えることのできない、田辺の大きな背中が。
そして、思っていた。その背中をいつか越えてやると。
大きく息を吐き、高田は話題を変える。
「しかし、祐二。あいつは不思議な奴だ」
高田の座るブランコが小さな音を立てた。
「祐二が――か?」
「なぜかあいつに任せても大丈夫な気がした。なぜかそんな説得力があるような奴だ」
小難しい話しに、黄泉は首を傾げながら、ふーむと小さく唸る。
「よくわからぬが、良い奴だ」
違いないと、高田は笑った。
空気が幾分和らいだところで、黄泉が口を開く。
「しかし、ただ待つというのも暇であるな」
「そ、そうですね」
辿々しい口調で返事を返すも、すぐに俯いてしまう高田。
女子とあまり話したことのない自称硬派な高田は、会話のネタなど持ち合わせてはいなかった。
「しかし、座りにくいイスだ」
黄泉はブランコの座る部分を馬に跨るようにして座り直す。スカートであれば非常に危険なアングルである。
白のショートパンツを履いていて、下着の見える心配はないのだが、はたからみたら子供と思える行動だ。
「ふむ、これでマシになった」
なぜこのように座りにくいのだと、ぼやきながら、黄泉はブランコを縦ではなく、横に揺らし始めた。
緊張で頭の中が真っ白になっている高田には、もちろん、黄泉のそんな行動は目に入っていない。
高田は必死に会話のネタを探りだし、そういえばと切り出した。
「あなたが田辺と試合をしたときのあの剣さばきは剣道ではないように――」
高田は顔を上げると、黄泉の顔がすぐ目の前にあった。
「!?」
大きな目はとても愛らしく、長いまつげが上を向き、艶やかな口元。後ろに結んだポニーテール――高田の胸は高鳴った。
赤面しながら俯く高田を、黄泉は不思議そうに見つめる。
「あぁ、わしは剣道ではなく新陰流を父から教わった」
なるほど、おかしなしゃべり方もそのせいかと、高田は納得する。そして黄泉の家系は厳しい形式ばった家柄なのだと勝手に結論づけた。
もちろん、厳しい家柄で黄泉のような話し方をする変わり者はいないだろう。
「新陰流……いつか手合わせしてもらいたいものだ」
「承知した。今度は剣道のルールとやらで相手つかまつる」
気持ちよく返事を返すと、黄泉は再びブランコを横に揺らした。
そんな和んだ空気をかき消すかのように、茂みの葉が大きな音を立てた。
「祐二!」
黄泉は叫び、ブランコから立ち上がる。
うめき声と共に、公園の茂みから足を引きずるようにして、祐二が姿を現した。
黄泉は茂みに駆け寄ると、祐二に肩を貸した。
所々痣のようなものがあるが、出血も骨折もなく、大した怪我ではないとわかる。
「田辺は」
ブランコから立ち上がり、高田がストレートに問う。
「すまん、だめだった」
祐二が答えると、高田は残念そうに肩を落とした。
「でも、大丈夫だ。あいつは……大丈夫だ」
いうと、祐二は高田の肩を叩く。
「てことで、俺は今日から幽霊部員になるからよろしく」
祐二は黄泉に行くぞと促し、高田に背を向けた。
背中越しに、高田に向かって右手をヒラヒラと振る祐二の姿は、なぜか頼もしく感じられた。
「関川……不思議な奴だ」
高田はそんな祐二の背中を見えなくなるまで見送っていた。




