参
「ただいま」
「祐二か、飯の支度はできておるぞ」
ドアを開けると、黄泉の弾むような声が祐二を迎えた。
黄泉のほうが帰宅が早いので、自動的に夕飯の支度は黄泉に任せっきりになっていた。
いつも悪いと思いつつ、祐二は鞄を置き、ちゃぶ台に向かう。
「お、今日はハンバーグか」
黄泉は嬉しそうに、頷いて見せた。
「絵里子に作り方を教わったのだがこれで良いか?」
白い皿の上に、こんがりと焦げ目のついたハンバーグが二つ乗っている。ちゃんとつけあわせには、茹でた人参と、ブロッコリーが添えてあった。
香ばしい香りが祐二の鼻腔をくすぐり、食欲を促す。
「すっげーな黄泉! うまそう」
「では飯を盛るぞ」
ちゃぶ台を囲み、夕食がはじまる。
「これが肉であるか……うまいな」
あぁ、そういや江戸時代に肉を食べる習慣はなかったんだなと、祐二は黄泉の反応に納得する。
祐二は箸でハンバーグを切ると、中から肉汁がじわりと流れ出る。
しかし、初めて作ってこれだけできたら上出来だと、祐二は関心した。
絵里子の指導が良いのか、黄泉の料理の腕が良いのかは定かではないことであるが。
祐二は箸で手頃な大きさに切ったハンバーグの欠片を口に運んだ。
噛んだ瞬間、肉のうま味が口の中いっぱいに広がった。
うまい――しかしと、祐二は釈然としない想いを抱えながら黙々と箸を進めた。
おもむろに黄泉が口を開く。
「いかがした? うまくなかったか?」
いや、そうじゃないと、黄泉の言葉を否定し、祐二は動かしていた箸を止める。
「田辺が全く姿を現さない。最近は学校にすら来ていないみたいで、副部長が心配している」
なんか放っておけなくてなと、祐二は軽く肩を竦めた。
「田辺――」
その名を聞いて黄泉の箸が止まった。
剣道とはどのようなものかもよくわからなかったこともあるが、黄泉は果たし合いさながらの組太刀で田辺を打ち負かした。
それが原因で田辺は部活に来なくなったのではないか。
鬼に魅入られたのもそれが原因なのかもと。そう、自分を責めていた。
黄泉は叩きつけるように箸をちゃぶ台に置いた。
「祐二、人探しだ」
「人探しって、黄泉、まさか田辺を」
黄泉はこくりと頷いた。
「わしも詫びの一言を言いたい」
部に戻せるかどうかは別として、高田の力になれたらと、祐二は思っていた矢先なだけに、黄泉の言葉に大きく頷き返す。
祐二は残りのご飯を口にかき込むと、立ち上がった。
「よし、いっちょやるか」




