表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/90

 都内大学病院。

 個室の名前には、須藤 里奈と書かれていた。

 ベッドで寝息を立てる少女の腕には点滴が施されている。

 その傍らで母親らしき人物が、少女の左手を強く握っていた。

 いすに座る母親の背後には、髭の剃り跡が濃いスーツ姿の壮年の姿。

 少女の父親と思われる。

 父親らしき壮年が妻の肩に、優しく手を置いた。

「美枝子、きっとこの子は目を覚ます。信じて待とう」

 母親は壮年の言葉に緊張の尾が切れたのか、顔を少女の布団に埋め、嗚咽を漏らした。

「行方不明になって、やっと帰ってきたと思ったら脳死だなんて――どうしてこんな惨いことに」

 壮年はそうだなと、妻を抱きしめた。

「お前は昨晩から寝ていないだろ。少し体を休めたほうがいい」

 壮年が促すと、妻は目頭を押さえ、腰を上げた。

 少女の母、父親が部屋から退出していく。

 その瞬間を狙っていたごとく、部屋の窓から中を伺っている目があった。

「この体」

 壁をすり抜け、姿を現したのは女性のように体が丸みを帯びた鬼だった。

 長い黒髪の頭頂部に突き出た二本の赤い突起。口は裂けてはおらず、唇は黒ずんでいる。

 赤い体にはきわどい部分を隠すように、胸から下半身にわたってサラシのようなもの巻き付けられていた。

 そしてその鬼の右目には、刀の鍔を象った眼帯があった。

 遠くで足音が聞こえた事に気づくと、鬼は少女の体に身を重ねた。

 徐々に鬼の体の色が透けていき、ついに少女の体にとけ込んだ。

 少女はゆっくりと瞼を開く。

「やはり右目は見えぬか」

 右目に映る景色はまるでもやがかかったように、白く霞んでいた。

「許せん、人間め!」

 呟き、腕に突き刺さる点滴の針を引き抜いた。

 右目を奪った男。

 新陰流の使い手。

 妖術刀の持ち主。

 単語を並べるだけで彼女の内に復讐の炎が燃え上がった。


 五の巻 愛しの眠り姫


 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ