壱
竹川高校、旧体育館に竹刀を打ち合う激しい音が響きわたっている。
体育館の隅っこ。
そこに、新人と混ざるようにして、竹刀を振るう祐二の姿があった。
中段の構えから、上段に竹刀を振り上げ、振り降ろす。
左手で持つようにして、右手は添えるだけ。
振り降ろす瞬間、雑巾を絞るように両手に力を込める。
単純なようであって、最初はなかなかコツを飲み込めない。
数十回で腕の筋肉が悲鳴を上げ始める。
祐二が素振り五十本をなんとかこなした時だった。
「今日の稽古は終了」
その号令とともに、部員が雑巾を持って集まり始める。
祐二も清掃道具置き場から雑巾を持ち出す。
部員が横一列に並び、雑巾を床に着けたまま走り始める。
足腰、精神の鍛錬も兼ねているということだった。
雑巾を片づけ、部員が顧問である先生の前に正座をした。
「ありがとうございました」
唱和し、深々と頭を垂れる。
男女の部員達は更衣室に向かい、帰り自宅を始めた。
祐二は絵里子の姿を見定めるや、声を掛けて呼び止めた。
「絵里子、主将は今日も来ないのか?」
祐二の問いに、絵里子は頷く。
「うん、黄泉が見学に来た日以来、部には顔をだしていないよ」
祐二は唸りながら腕を組む。
「わかった、サンキュー」
立ち去ろうとする祐二に、絵里子は話を続けた。
「で、どう? 剣道は」
「腕はいてぇし、足の裏の皮はめくれるし散々だ」
絵里香はくすっと、小さく笑った。
「足の裏の皮はそのうち厚くなるから大丈夫」
その言葉に、祐二は絵里香の足下を見た。
「足の裏の皮っていうか――」
足自体が太いと言いそうになり、祐二は言葉をあわてて飲み込んだ。
絵里子はなんのことかと首を傾げる。
「そういえば黄泉は先に帰っているの?」
「ああ」
せっかくいいものを持っているのにと、絵里子が残念そうに呟いた。
黄泉には立派な流派があるし、無理だろうなと、祐二は思った。
それよりも、祐二は剣道をやっている所を黄泉には見られたくなかった。
なぜかはわからない。恥ずかしさなのか。
そぶりからして、黄泉は祐二が剣道をしていうと感づいているようである。
だからバレてもいいはずなのに。
そんな感情を胸に押し込み、祐二は笑顔をつくった。
「こんど黄泉のアドレス教えるから一緒に遊んでやってくれ」
その言葉に絵里子は笑顔で頷いた。
「うん、わかった」




