六
竹川高校では、体育館を二つ有していた。
新館といわれる体育館は、主に室内球技部が使用し、少し小さ目の旧館では、剣道、柔道、空手などの部が使用している。
絵里子が先頭を歩くようにして、三人は旧館へと向かった。
旧館のドアを開けると、激しい気合い、竹刀を打ちつける乾いた音、そして時折床を踏み込む重い音がこだましていた。
剣道部はこの体育館の一角で稽古をしている。
「じゃ、あたしも着替えてくるから」
絵里子は黄泉に軽く手を振ると、更衣室へ向かった。
取り残される形となった祐二と黄泉は、板張りの壁に寄りかかるようにして、剣道部の稽古風景を眺めていた。
体育館の端では、新入部員だろうか、熱心に素振りをしている。
広めのスペースでは、上級生だろう。一対一で試合さながらの稽古に励んでいる。
竹刀と防具をつけての稽古は、新陰流でもあり、黄泉は防具と竹刀については抵抗が無いようだった。
真剣な眼差しで稽古を見つめる黄泉に、祐二がふと声を掛ける。
「どうだ?」
黄泉はため息を吐くと、首を振った。
「打ち込みの速さと、形式を重んじるようだな。これでは人は斬れぬ」
「何も人を斬る為に剣道をするわけじゃないし」
祐二の言葉に、黄泉は大きく頷く。
「左様。我が新陰流では活人剣があるように、人の命を斬るのが剣術ではない。活人には致命傷を与えず勝つという意味もある」
さすがは生きた侍だと、祐二は黄泉の解説に舌を巻いた。
その二人の会話に聞き耳を立てている人物がいた。
「ほう、剣道について心得があるのか? 小倉が見学者を連れてきたというのだが、あなた達のことか?」
二人の目の前に現れた男は、長身で、髪は黒の短髪。
上は剣道用の白胴着、下は袴姿。 左手には竹刀を提刀の状態で携帯している。
男は思いだしたかのように口を開く。
「私は剣道部主将、田辺 明だ」
祐二と黄泉は壁に預けていた背中を離し、田辺に向きなおる。
「関川 祐二です」
「黄泉と申す」
名乗り方が気に食わないのか、田辺は一瞬眉を寄せた。
「そちらの女子は、剣道に詳しいように見えますが」
「剣の稽古なら受けていた」
「そうか、ならば一つ試合を体験しませんか?」
田辺は踵を返すと、部員を集めた。
「今日は顧問の先生が休みだ。よって私が皆の指導をする」
そこでと、田辺は続けた。
「我が剣道部を見学したいという者が来ているので、是非体験してもらおうと思う」
田辺の言葉に部員の男女がざわめいた。
「剣道の素晴らしさを体験してもらう為、私が試合形式で指導する」
言い終えると、田辺は黄泉と祐二を指で示した。
組太刀か――黄泉は歩みを進める。
「是非、手合わせ願いたい」




