弐
一限、二限と授業が進み、最初は真剣に授業なるものを受けていた黄泉であったが、じわり、じわりと睡魔が襲ってくる。
現代のことですらまだわからないことが多いのに、さらにわけがわからない数式やら、南蛮語やらを聞かされるわけだ。
まるでお経のようだと思いながら、黄泉は大きな欠伸をした。
祐二はどうしているのだろう――左隣の祐二に視線を走らせる。
祐二は黒板に書かれた文字を、せっせとノートに書き写していた。
寺子屋とは暇な所だなと黄泉が呟くと、不意に肩を叩かれた。
「ねぇ、あなた、この間の歴女でしょ?」
小さく囁くような声は黄泉の席の右隣からだった。
栗色の髪を肩の辺りできっちりと切りそろえた女子が、黄泉に向かって微笑んでいた。
黄泉はその女子に向かってこくりと頷いてみせる。
「あたしは、小倉 絵里子。お昼一緒しない?」
突然の申し出に、黄泉は戸惑いながらも再びこくりと頷いた。
その様子をみて、絵里子はくすっと笑みを漏らした。
「ちゃんと書いてるのかよ」
不意に黄泉へ声を投げかけたのは、祐二だった。
祐二は黄泉の机の上に並べられた教科書、ノートをのぞき込んだ。
「おま、それ国語の教科書じゃねえか!」
祐二が声を荒げ、猛烈に突っ込むが、はっとしてすぐさま口を噤む。
しかし、時すでに遅し。
教室内を失笑が支配する。
ちなみに現在の授業は英語である。
「ほう?」
黄泉はわけがわからないといった表情で小首を傾げていた。
「はーい、静かに!」
玲子がそれを見かねた様子で、生徒達に静粛を促した。
チョークを持ったまま腕を組むと、祐二と黄泉を交互に見やる。
「うちの学校は男女の交友を禁止していませんが――」
玲子は野球のピッチャーよろしく右手を振りかぶる。
「今は授業中です!」
風を切る音と共に、チョークが手から放たれた。
白い矢と化したチョークが祐二の顔面に迫る。
玲子ちゃんもベタだなと、祐二はチョークをかわそうとする。
刹那、チョークは祐二の眼前で停止した。
「な!?」
チョークを止めたのは二本の鉛筆。
祐二は視線を横に走らせる。
そこには二本の鉛筆を箸のように持ち、チョークを挟む黄泉の姿があった。
静寂が教室内を支配した。
やがて、割れんばかりの歓声が響きわたった。
なに、この子と、呆気にとられる玲子。
鳴り響く歴女コール。
それを横目で見ていた少女がいた。
やっぱりあたしの目に狂いはないわ――絵里子はくすっと微笑んだ。




