四
屋上に対峙する二人の男子生徒。
両方が黒髪。
一方は肩まで伸ばされた黒の長髪――山田 光輝。
祐二より頭一つ分低い背丈であるが、がっしりとした体付きから、なにかしらスポーツなどをやっていそうな雰囲気である。
対する男子生徒――祐二は、一見ひょろっとした体つきだった。
にらみ合いの後、山田が祐二に噛みついてく。
「お前のような目立たねえ奴はおとなしくしていろ。目立ちやがって、気にいらねぇんだよ」
「俺だって目立ちたくない」
だって面倒くせえしと、祐二は内心で続けた。
その言葉に、山田の眉間に皺がまた一つ増える。
山田は凄みをきかせながら祐二に詰め寄った。
「勝負だ」
言いながら山田は右手を上げる。
このポーズに祐二は戦慄を覚えた。
プロレスで見られる手四つに誘う構えである。
この男、何かやっている――腹の中で呟き、祐二は油断なく構える。
祐二が左手を上げた。
山田の右手をがっちりと握り、続いて残りの手も組み合った。
二人の腕が小刻みに震える。
山田のが体つきの良さはハッタリではなく、力は祐二の想像とほぼ一致していた。
体力が残っているうちに畳み込んだほうが良策だと判断する。
そろそろ本気でいくかと、祐二は腹の中で呟き、思い切り力を入れる。
祐二の指がぎりぎりと山田の手を締め付けた。
顎を山田の肩につけ、全身に力を込める。
このまま一気に押し倒してやる――祐二がそう思った瞬間だった。
不意に山田が悲鳴を上げた。
「いててて! ギブアップ! ギブだってば!」
「は?」
手を離してやると、山田は痛そうに手を振っていた。
「仕方ない、見逃してやる」
涙ぐみながら言う山田に、説得力は微塵もない。
お前、ギブアップしたんだろと、祐二は内心で突っ込んでいた。
「なかなかやるな。わかっていたぜ。お前の秘められた力」
山田は殴られたわけでもないのに、腕で口元をぐっと拭った。
「今日から俺達は堅い友情で結ばれた」
そう言いながら、山田は右手を差し出した。
祐二は山田の尻に蹴りを叩き込んでやりたい衝動を必死に押さえ、笑顔で山田の手を握り返す。
面倒なのは嫌だったから。
お前、女を大切にしろよと、言いながら山田は去っていった。
まさに口だけで世間を渡っていくような典型だ。
祐二は小さくなっていく山田の背中に向かって呟いた。
「チキンが――」




