七
文京区の本郷通り。学生寮が多く、人通りの少ない通りである。
昔ながらの情緒を感じさせる通りであるが、今の黄泉には、風景を楽しんでいる余裕などなかった。
祐二の電話での誘導に従い黄泉は本郷通りを駆けていた。
気になった建物をみやり、携帯を耳に当てる。
「質屋があった」
「その通りをまっすぐ行った二軒目、路地裏だ」
黄泉は頷くと、携帯を握りしめ、路地裏を目指して走った。
「祐二!」
狭く薄暗い路地裏。
そこに祐二の背中が見えた。
黄泉が駆け寄ると、祐二が手で制した。
「なにをする!?」
路地の先を見ると、犬がしきりに吠えていた。
「プリン!」
プリンの前には一人の女性の姿があった。
赤のスーツに身を包み、背中まである長い黒髪。
なんとも言えぬ冷たさを感じさせる美しさであった。妖麗な赤い唇がゆっくりと動いた。
「よもや犬などに正体を悟られるとはな」
瞬間、女の顔に無数のヒビが走った。
パリパリと皮膚が剥がれ落ち、頭部が破れる。
「うううわぁぁぁぁ!」
女は顔面を押さえ、絶叫した。
もはや女性の声ではない。低くおぞましい、この世の者が発する声とは思えなかった。
その声が祐二、黄泉の神経を逆撫でする。
「なんだこれは!?」
祐二が狼狽した声を漏らす。
女の頭からは大きな上半身が生えていた。
赤い肌、頭部の二本の角。
はちきれんばかりの筋肉の盛り上がり。
まさしく黄泉が江戸時代に遭遇した悪鬼だった。
「悪鬼か!?」
黄泉は女性に向かってしきりに吠え続けるプリンに駆け寄ると、素早く抱き上げた。
「祐二! プリンを頼む!」
「黄泉!? お前どうする気だ!」
黄泉は鬼に向かって歩み寄る。
「討つ」
こんな化け物相手に、か細い黄泉がかなうとは、到底思えない。
「馬鹿やろう! 一緒に逃げろ!」
叫び、祐二は黄泉の手を取るが、振り払われる。
「黄泉――」
黄泉は険しい顔で鬼を睨み据えていた。
不意に黄泉の腕が動き、なにかの構えを取った。
「祐二、わしを信じろ――」
鬼から目を反らすことなく祐二に言った。
刹那、黄泉の両手が目映いほどの光に包まれた。
「な!?」
祐二は眼に突き刺さるような強烈な光に、右手で顔をかばう。
「――必ず戻る」
黄泉の言葉と同時に光が納まった。
「な!? 黄泉!」
気がつけば黄泉は刀を持ち、剣道でいう中段に構えていた。
真剣をどこから出したのかわからない。
黄泉があの薄着で隠し持っていたとは考えにくい。
祐二は、まるで手品でもみているような感覚だった。
「行け!」
悪鬼をわしに引きつけねば――黄泉は悪鬼に向かって踏み込み、慎重に距離を詰めて行く。
「わかった!」
祐二は後ろ髪を引かれる思いで、身を返した。




