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 文京区の本郷通り。学生寮が多く、人通りの少ない通りである。

 昔ながらの情緒を感じさせる通りであるが、今の黄泉には、風景を楽しんでいる余裕などなかった。

 祐二の電話での誘導に従い黄泉は本郷通りを駆けていた。

 気になった建物をみやり、携帯を耳に当てる。

「質屋があった」

「その通りをまっすぐ行った二軒目、路地裏だ」

 黄泉は頷くと、携帯を握りしめ、路地裏を目指して走った。

「祐二!」

 狭く薄暗い路地裏。

 そこに祐二の背中が見えた。

 黄泉が駆け寄ると、祐二が手で制した。

「なにをする!?」

 路地の先を見ると、犬がしきりに吠えていた。

「プリン!」

 プリンの前には一人の女性の姿があった。

 赤のスーツに身を包み、背中まである長い黒髪。

 なんとも言えぬ冷たさを感じさせる美しさであった。妖麗な赤い唇がゆっくりと動いた。

「よもや犬などに正体を悟られるとはな」

 瞬間、女の顔に無数のヒビが走った。

 パリパリと皮膚が剥がれ落ち、頭部が破れる。

「うううわぁぁぁぁ!」

 女は顔面を押さえ、絶叫した。

 もはや女性の声ではない。低くおぞましい、この世の者が発する声とは思えなかった。

 その声が祐二、黄泉の神経を逆撫でする。

「なんだこれは!?」

 祐二が狼狽ろうばいした声を漏らす。

 女の頭からは大きな上半身が生えていた。

 赤い肌、頭部の二本の角。

 はちきれんばかりの筋肉の盛り上がり。

 まさしく黄泉が江戸時代に遭遇した悪鬼だった。

「悪鬼か!?」

 黄泉は女性に向かってしきりに吠え続けるプリンに駆け寄ると、素早く抱き上げた。

「祐二! プリンを頼む!」

「黄泉!? お前どうする気だ!」

 黄泉は鬼に向かって歩み寄る。

「討つ」

 こんな化け物相手に、か細い黄泉がかなうとは、到底思えない。

「馬鹿やろう! 一緒に逃げろ!」

 叫び、祐二は黄泉の手を取るが、振り払われる。

「黄泉――」

 黄泉は険しい顔で鬼を睨み据えていた。

 不意に黄泉の腕が動き、なにかの構えを取った。

「祐二、わしを信じろ――」

 鬼から目を反らすことなく祐二に言った。

 刹那、黄泉の両手が目映いほどの光に包まれた。

「な!?」

 祐二は眼に突き刺さるような強烈な光に、右手で顔をかばう。

「――必ず戻る」

 黄泉の言葉と同時に光が納まった。

「な!? 黄泉!」

 気がつけば黄泉は刀を持ち、剣道でいう中段に構えていた。

 真剣をどこから出したのかわからない。

 黄泉があの薄着で隠し持っていたとは考えにくい。

 祐二は、まるで手品でもみているような感覚だった。

「行け!」

 悪鬼をわしに引きつけねば――黄泉は悪鬼に向かって踏み込み、慎重に距離を詰めて行く。

「わかった!」

 祐二は後ろ髪を引かれる思いで、身を返した。


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