六
その頃、黄泉は後楽園付近の公園にいた。
広大な公園には、芝生が植えられ、植林された木々は緑が映え、訪れた人の心を和ませてくれる。
大都会の中の休息にはうってつけな場所であろう。
黄泉はせっかくの景色には目もくれず、ひたすら周囲に気を配っていた。
神経を研ぎ澄ませ、周囲に視線を向ける。
「探し物か?」
その聞き覚えのある声にはっとして、黄泉は声の主に目を向けた。
「犬だ。ところで、トキオとか言ったな。そこで何をしておる」
トキオは悠然と足を組んでベンチに座っていた。
「何をって――心を和ませているのだが?」
「気に食わぬな」
黄泉は嘲笑するように、鼻を鳴らした。
「して、何用だ?」
トキオは呆れた様子で肩を竦めると、興味深い事を話し始める。
「悪鬼――について」
「なん――だと?」
黄泉が見下ろすように向き合うと、トキオはその態度を鼻で笑う。
まぁいいだろうと言わんばかりに視線を落とすと、トキオは静かに語りだした。
「悪鬼は人間に住処を追われ姿を消した」
それ以来、鬼は古来より人目につかぬよう、密かに生息していたという。
肉体を持たぬ悪鬼は人間に乗り移り、闇に暗躍し、人に紛れ生きながらえている精神体であると、トキオは語った。
「爆弾や近代兵器など通用しない。唯一悪鬼に勝てる武器は精神でできた武器――妖術刀」
昔悪鬼と戦った人物がいたという。
トキオは続ける。その者が手にしていた太刀。それこそ妖術刀である――と。
自分達を歴史の隅に追いやった妖術刀を持つ者。悪鬼はその子孫まで恨み、根絶やしにすべく、探し回っていたという。
どんなに時は流れようとも、乗り移る人間を取り替えながら生きながらえて。
そして江戸時代に妖術刀を持つ人間が生まれた。
「それが黄泉――あなたです」
しかし、享保十年、黄泉の自宅は火事となり、妖術刀を持つ人物が焼死し、悪鬼が恐れる元凶は絶えたこととなった。
表向きはねと、トキオは付け加える。
悪鬼は人の悪心を力とし、生命を維持する。
人の悪心は時代を追うごとに増長し、ついに現代、極限に達した。
妖術刀を持つ者も絶え、益々悪鬼の活動は活発になり、人の心は悪鬼に奪われつつあるという。
そこでトキオは黄泉を江戸時代から現代に連れてきたということだった。
悪鬼に対抗する為に。
「妖術刀を持つあなたが現代にいることは、まだ悪鬼達は知らない」
黄泉はその言葉に嘲笑する。
「悪鬼が今の話を聞いておれば別であるがな」
トキオはそれを鼻で笑い返した。
「鬼と接触したことがある、あなたならわかるでしょう? 鬼の気配というやつが」
トキオは顔色を改めてつづける。
「悪鬼と接触したら必ず息の根を止めることだ。仲間に感づかれる前に」
有無を言わさぬ言葉に、黄泉は憤慨していた。
「わしはそのようなことは望んでおらん――と言ったら?」
話を一方的に打ち切るようにして、トキオは立ち上がった。
「望もうと望むまいと、すでに巻き込まれている」
トキオが言い捨てると同時、黄泉の懐から、なにかの音が鳴った。
音の原因は祐二から預かった携帯だった。
黄泉はトキオを睨んだまま、携帯を取り出し、ボタンを押す。
携帯からせっぱ詰まったような祐二の声が響いた。
黄泉は携帯を耳に押し当てる。
「黄泉か! どこにいる? 今プリンを見つけた」
「まことか!?」
内容は本郷通りでプリンを見つけたとのことだった。
本郷通りに入ったら祐二の携帯に電話をし、そこから祐二が道案内するということになった。
「あいわかった」
黄泉は通話を切ると、携帯を懐にしまう。
「――!?」
トキオの謎めいた言葉の意味を問いただそうと黄泉は周囲を見渡すが、すでにトキオの姿はなかった。




