参
祐二は何回か依頼者とメールをやりとりし、やっとのことでディスプレイから目を離した。
仕事の依頼者は近所に住んでいるらしく、それなら、こちらからお伺いしますということだった。
「これから依頼者が家に来るそうだ――っておい!」
黄泉はベッドで寝息を立てていた。
祐二は忍び足で近寄ると、気持ちよさそうに寝入っている黄泉の頬を摘み、思い切りひねり上げた。
「いだだだ! わしは美味くないぞ!」
叫びながら黄泉は目を覚ました。
「犬に食われるところだった」
痛そうに頬をさする黄泉に、祐二は呆れかえる。
「あのな、これから仕事の依頼者が家にくるぞ」
「まことか!?」
黄泉は、がばっと起きあがると、きゅうすに茶葉を入れ始める。
これが本当の現金な奴かと、祐二は肩をすくめた。
数十分が経過した頃だろうか。不意に部屋の呼び鈴が鳴り響いた。
「空いておる――」
「こらこらこら、お客様にたいして!」
はいはい、ちょっと待ってねと、言いながら祐二は悠長に玄関のドアを開けた。
「コスプレ探偵事務所はこちらでよろしかったですか?」
玄関に立つ女性は、四十代くらいのぽっちゃりとした婦人だった。
濃い目の化粧で、いかにも高級そうなバッグを腕にかけ、首や腕にたくさんの装飾品をつけていた。
お金持ちでございますと言わんばかりの婦人に、祐二の腰は一瞬にしてへこっと折れた。
「はいはい、左様でございます」
手を揉みながら、ニヘラーと、愛想笑いをする祐二に、黄泉はぼそりと呟いた。
「――あきんど」




