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World×World  作者: シクル
十番目の世界
83/123

World10-11「その名はキング」

 アンリミテッドルーク、そして十羅との戦いから、既に十日間が経過していた。

 無限破七刀でルークを破壊した永久は、その場で倒れてから十日間、一度も目を覚ますことなく眠り続けていた。そもそも永久はアンリミテッドとしては不完全で、完全なアンリミテッドであるルークを破壊する程の力を使って平気でいられるわけがない。過去に刹那と戦った時もかなり疲弊していたが、今回はそれ以上に消耗しているようだった。

 永久だけではなく十羅との戦いで傷ついた人は多く、坂崎家の当主である十郎も例外ではない。英輔や由愛の疲労もかなりのもので、全員が回復するには十日ではむしろ足りないくらいであった。

 上位妖魔集団、十羅の内二体、鬼羅と艶羅は退魔師によって完全に浄化が行われたが、坂崎神社を襲ったもう一体の十羅、風羅は行方をくらましている。この十日間、退魔師達によって捜索が行われたが未だに発見されていない。

 宝物庫の中は乱月と腕輪以外は特に手をつけられておらず、周囲が焼け野原と化してしまったこと以外は特に問題はなかったため、後日十郎達によって結界が貼り直された。

 艶羅に騙されて坂崎神社全体を危機に陥れた篝については、奇跡的に死傷者が出ていなかったことと、十羅の一体である艶羅を撃破した功績もあるため、本来なら厳罰もののところをかなり軽めに内々で収められる形になった。

 結果的に腕輪は永久が回収する形になったが、神社を守りながら戦った永久なら正しく扱えると判断したためか十郎は腕輪を永久が持つことを快く受け入れた。

 腕輪を手に入れてアンリミテッドの一体を撃破した、という事実の意味は永久一行にとっても大きい。少し安心したせいか、ある程度穏やかな日々が坂崎神社で過ぎて行った。



 そして永久が十日目に目覚めたその翌日、永久は旅立つことを決めた。

「もう少しゆっくりして行ってもらっても大丈夫ですよ」

「私も出来ればそうしたいけど、ずっとそうしているわけにもいかないから」

 そう言って篝に苦笑しつつ、永久は由愛、英輔と共に社務所の玄関から出たが、すぐに名残惜しそうに振り向いた。

「……ありがとうございました」

「いや、礼を言うのは我々の方だ。君がいなければ坂崎神社はどうなっていたかわからん……。この子もな」

 そう言って十郎が篝の頭にポンと手を乗せると、篝は気恥ずかしそうに顔をそむけた。

「……これ以上は名残惜しくなっちゃうね」

 寂しそうに目を伏せて、永久は篝達に背を向ける。

 十郎が生きていて、仲の良かった姉妹がいて、平和な坂崎神社がそこにあって。それを守れただけでも、永久は本当に良かったと思う。永久の願った日々はもう決して戻らないけれど、それでも永久と同じように誰かが失わずにすんだのなら、それで良いのかも知れない。

 強がりだと思う。そう思えば、自分が何かを成し遂げたんだと思えば、寂しさが紛れるだろう、そう思わなかったと言えば嘘になる。本当はずっとここにいたかったし、篝や十郎と平和に暮らしていたい。けれどそれは叶わない願いで、十郎は永久の親代わりだった十郎ではないし、篝だって永久の妹じゃない。どうしたってこの坂崎神社に自分の居場所なんてないのだ。

 それでも、永久は前に進むしかない。刹那を止めるためにも、アンリミテッドを止めるためにも進み続けるしかない。この先に待ち受けるものが何であれ、永久の進む先は最早前にしか存在しない。

「さよなら」

 静かにそう告げて、永久はゆっくりと歩いて行く。永久の心境を察してか、篝も十郎もさよなら、としか返さなかった。

 さようなら。左様ならば。必然の別れを、永久は受け入れた。





 坂崎神社を後にして、永久達はすぐに次の世界へと旅立った。刹那側もルークが撃破されたことを重く受け止めたのか、しばらくは動きを見せなかったため、永久達はこれまで通り様々な世界を巡って欠片を集めていた。刹那や次元調停官が干渉することはほとんどなく、永久は着々と欠片を集めて旅を続けていた。

 そんな日々が続き、とある世界で欠片を回収した後、次の世界へ旅立とうとした永久達の前に突如現れたのは、しばらく姿を見せなかった下美奈子だった。

 場所は町中だったが、次元歪曲システムが使用されているらしく、簡易的に永久達と美奈子のいる空間は隔離されていた。

「あ、美奈子さん久しぶりー!」

 どこか暗い面持ちの美奈子だったが、永久の方はまるで緊張感がないままややはしゃぎ気味に手を振る。しかし美奈子は、表情を強張らせたまま答えなかった。

「……待って永久、様子がおかしいわ」

「え……?」

 プチ鏡子の言葉に驚きつつ、永久が美奈子へ改めて視線を向けると――

「アンリミテッドクイーン、坂崎永久」

 美奈子は、静かに銃を永久へ突きつけた。

「……!? どうして!?」

「これは局の決定です。坂崎永久、貴女は危険な存在であるとみなされました」

「ちょっと待てよ! お前、こないだまで味方だったじゃねえか!」

 思わず声を荒らげる英輔だったが、美奈子はそれに取り合わない。

「何なのよアンタ達! 敵なのか味方なのかハッキリしなさいよ!」

 英輔と同じように由愛も声を荒らげるが、美奈子はやはり取り合わない。そもそも英輔や由愛と会話する気は毛頭ない、とでも言わんばかりの態度だった。

「……こんなのおかしいよ!」

「おかしくありません。それが局の決定ですから」

 局の決定、美奈子は自分に言い聞かせるかのようにその言葉を繰り返している。前に美奈子が永久に銃を向けた時は淡々とした様子だったが、今はどこか浮かない表情のまま手を震わせている。

「だったら……だったら何でそんなに辛そうなの……? ねえ、何があったの!」


「簡単よぉ。あなたがぜーんぶ悪いのよ?」


 永久の問いに答えたのは、美奈子ではなかった。

 空間の歪みの中から、ゆっくりと紺色の影が歩み寄って来る。ショートボブの黒髪を揺らしながら、その少女はニヤリと笑みを浮かべた。

「せ、刹那……!」

 美奈子の隣に立っているのは、坂崎刹那だった。

「お久しぶり。この間はどーも。ぶち殺したいくらい感謝してるわ」

 嫌味ったらしく笑みを浮かべる刹那に、永久は何も言い返すことが出来ない。あまりにも予想外の状況に、思考が追いつかない。

「姉妹感動の再会よ? それとも妹を磔にしたお姉ちゃんは合わす顔がないのかしら? って、前にも同じようなこと言ったかしらねぇ」

 クスクスと笑みをこぼす刹那の隣では、美奈子が小さく肩を震わせている。怯えているというよりは、怒りに震えているように見える。

「どういうことなの美奈子さん……どうして刹那と……!」

「だから簡単よ。あなたが全部悪いから、美奈子ちゃんはあなたじゃなくて私のお友達になったってコト」

 ねー、とおどけた様子で笑いながら、刹那は美奈子にわざとらしくすり寄っていく。

「おめでとう永久。あなた有名人よ」

「どういうこと……!?」

「だってすごいのよ! 全世界中で指名手配! SSSトリプルエスクラスの超危険な存在として世界中に名前が知れ渡っちゃったんだから!」

「な……っ!?」

「彼女の言うことは本当です。本日を持って、あなたは次元管理局の要請であらゆる世界で指名手配される形となりました」

 状況を飲み込めていない永久に、美奈子は感情を押し殺した様子で説明を捕捉する。美奈子と刹那の言葉が本当なら、この先永久はあらゆる世界で管理局や刹那達以外からも危険視され、攻撃されることになるのだろう。

「ンだと……!? 危ねえのはテメエの方だろうが! 何で永久が指名手配されなきゃならねえ!?」

「そうよ! こんなの間違ってるわ!」

 今にも殴りかからんばかりの勢いで怒鳴りつける英輔と由愛だったが、そんな二人を刹那は冷めた視線で睨みつける。

「うるせえわね。烏合の衆は黙ってなさいよ」

 そう言い放つ刹那に殴りかからんとして、英輔は身体を前に乗り出したが、刹那の後ろで空間が歪み、何者かが現れたのを見て一度動きを止めた。

「あ、あなた達は……っ!」

 そこに立っていたのは、アンリミテッドポーンにアンリミテッドビショップ、恐らくアンリミテッドであろう、甲冑を身にまとった細身の男、そして黒い派手な甲冑に身を包んだ見たことのない黒髪の男だった。

 否、見たことないハズがない。永久はこの男をずっと昔から知っている。蓋の閉められた記憶のせいでハッキリとはわからないが、永久はこの男を知らないハズがない、そんな確信があった。

「これは……これはこれはこれは久方ぶりですなクイーン殿」

「よォ……今日は良い顔してやがンなァ……」

 フードの下でくぐもった笑みをこぼすビショップと、ニタニタと笑うポーン。細身の男の方は、ただジッと永久を見るだけで何も言おうとはしなかった。

 そんな彼らの言葉に答える暇もなく、黒い甲冑の男は永久の前に歩み寄るとそっと永久の頬へ手を添えた。

「かわいらしいが毒が足らんな。なあ刹那よ」

 男の言葉に、刹那は言葉では答えず、ただ薄く笑みを浮かべる。

「――っ!」

 男に触れられたことに言いようのない不快感を覚え、すぐさま永久は男から距離を取ったが、男は追いかけようともしないでクスリと笑った。

「随分と久しいのだ、もう少し感慨深そうにしたらどうだ?」

「……あなた一体……!」

「知らぬわけがなかろう? 見ればわかるハズだ」

 そんなふざけたことをのたいまいながら、王を名乗る男は己を誇示するように両手を広げる。漆黒の甲冑に包まれたその男は、尊大な態度で再び永久へと歩み寄る。

「始まりにして最初の無限。原初の無限ファーストアンリミテッドと呼べば貴様でも意味がわかろう?」

 原初にして最初の無限。始まりのアンリミテッド。最初に生まれてしまった限りなき者。

 永久はこの男を知っている。かつて永久が、クイーンが最も憎み、そして恐れたこの男を――永久知っている。全てを狂わせた元凶の男を。

「そう、あなたが……!」

 何かを察したかのような永久の口ぶりに、男は満足そうに微笑んだ。


「そうだ、俺がキングだ」


 最初に生まれ、永久の全てを狂わせた原初の無限ファーストアンリミテッド。彼の名は――アンリミテッドキング。


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