表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
World×World  作者: シクル
十番目の世界
82/123

World10-10「無限破七刀」

 ゆらりと刀を構えた篝の雰囲気に、艶羅は思わず顔をしかめる。まるで別人とまではいかないが、今の篝からはこれまでの怯えるような様子や、どこかびくついた感じはあまり感じられない。その視線は真っ直ぐに鋭く艶羅を見据えていたし、薄っすらとではあるものの殺気も放っている。構えているのは変わらず錆刀だが、放つオーラはこれまでとは段違いだ。

 これまで完全に篝のことをなめきっていた艶羅だったが、ここで初めて艶羅は篝に対して警戒心を抱いた。

「いき、ます……!」

 小さく息を吐いた後、篝は素早く艶羅へと接近する。錆刀とはいえ、殺傷力がまるでないわけではない、肉薄した篝が両手で振り下ろした錆刀を回避し、篝の腹部目掛けて膝蹴りを放つ。

「――っ!」

 しかし篝は瞬時に反応し、艶羅の膝蹴りを右肘で受けると左手に持ち替えた錆刀を艶羅目掛けて突き出した。

「うっざ……!」

 すんでのところで刀を回避し、艶羅は一度篝から距離を取る。

「何? パパが倒れたから本気モードってワケ?」

「許さないって言いました」

「はぁ?」

「私は! あなたを許さないって言ったんです! だから必ず倒します……っ!」

 力強く篝が声を荒げると、艶羅は今までの不愉快そうな表情を崩してケタケタと声を上げて笑い始めた。

「やだなぁにそれ! うっすら寒いったらありゃしないわ!」

 艶羅は笑い続けるが、篝の方は動揺する様子を見せない。ただ真剣に、怒りのこもった視線で艶羅を射抜き続けるだけだった。

 そんな篝の態度が気に障ったのか、艶羅は不意に笑うのをやめてギロリと篝を睨みつける。

「ホントムカつく。アンタのことちょっと好きだったけど今は嫌い」

 言葉を言い切るやいなや、艶羅が篝へ右手をかざすと、そこから蒼い炎が発せられる。思わず横っ飛びに回避行動を取る篝だったが、炎は一向に篝の元へ向かって来ない。困惑しつつ篝が艶羅の方へ再び視線を向けると、そこに艶羅の姿はなかった。

「……えっ……?」

 いつの間にか周囲から人が消えており、倒れていた十郎も、近くで戦っていた永久とルークの姿も見えない。キョロキョロと辺りを見回していると、背後から足音が聞こえてきた。

「え、嘘……」

 背後にいたのは、長い黒髪を揺らめかせながら篝の方へ歩み寄って来る、篝にそっくりな少女だった。

 篝と同じく巫女装束に身を包み、抜き身の刀を片手に歩み寄って来るその姿に、篝は見覚えがある。忘れるハズのない、常に脳裏に焼き付いていたその姿に、篝は思わず恐怖した。

 いるハズのない、あり得ないその存在の名は――

「刻、姉……」

 既に亡くなったハズの姉、坂崎刻だった。

「刻姉……どうして、ねえ!」

 篝の声に、刻は答えない。ただ静かに歩み寄って来ると、篝に対してその刀を振り上げた。

「やめて……!」

 振り下ろされた刻の刀を、篝は錆刀で受け止める。しかしそのままつばぜり合いにはならず、刻は素早く次の一太刀を篝へ振るう。

「と、刻姉っ!」

 凄まじい速度で繰り出される刻の刀を、篝はなんとか錆刀で受け続ける。しかし隙のない刻の刀捌きには付け入ることが出来ず、防戦一方のまま刻の刀を受け続けることになってしまう。

 この鋭い太刀筋は間違いなく篝の知る刻のものだ。刻が生きている頃に何度か手合わせしてもらった時と全く同じ感覚に、篝は戸惑っていた。

「これって……艶羅の……!」

 いるハズのない姉、消えている周囲の人間。それらの状況から考えて、篝はこの刻が艶羅の幻術なのではないかと推測した。恐らくあの蒼い炎がきっかけなのだろうが、艶羅は篝に対して何かしら幻術をかけている。それにまんまと引っかかった結果が今の状況だろう。幻術は一度かかってしまった場合、己の精神力で打ち破るしかない。言葉で言うのは簡単だが、今目の前にある幻術は篝にとって「最も勝てない相手」である坂崎刻だった。

 そう、最も勝てない相手である。事実、刻の振るう刀を篝は受けるのでいっぱいいっぱいで反撃もままならない。こうして思考を続けている間にも刻の鋭すぎる刃が篝を切り刻まんとして振るわれるのだ。

「っ……!」

 次の瞬間、刻の振るう刀が篝の錆刀を叩き落とす。篝がそれに気を取られた瞬間に、刻の蹴りが篝へ直撃した。

「きゃあっ!」

 悲鳴を上げながら蹴り飛ばされた篝に、刻は容赦なく接近し、刀を振り下ろす。なんとか転がりながら回避する篝だったが、刻は追撃の手をまったく緩めない。

 目の前の刻は幻術で、決して本物ではない。篝の記憶か、はたまた艶羅のイメージか、どちらにせよ本来の刻ではないのだ。故にこの強さも、太刀筋も、全てが偽りに過ぎない。そう頭では理解出来ていても、あの刻が刃を持って自分へ迫ってきているこの光景が、篝にとっては恐ろしくて仕方がない。

 ちょっと嫉妬してはいたものの、頼もしくて大好きな、自慢の姉だった刻。一生越えられない壁として、届かない目標として篝のなかにあり続けた刻に、自分が勝てるイメージが全く湧いてこない。ただ淡々と刃を振るう刻の姿は、篝には十羅やアンリミテッドよりもよっぽど恐ろしい存在に見えてならない。

 顔目掛けて突き出された刀を、篝はすんでのところで顔をそらして回避する。完全には避けきれなかったせいで、篝の頬を一筋の血が流れた。

 刻に表情はない。戦う刻はいつだってそうだった。どんな妖魔が相手でも、例え実戦型の鍛錬で父と戦う時でさえ、刻は一切表情を変えないでただ淡々と戦っていた。

 どちらかというと落ち着きのない篝とは違う。どんな状況下でも、常に冷静な判断を下せる刻は、それ故に強かった。

「……そうだ、私、刻姉みたいになりたいって、思ってた」

 思わずそんな言葉を発した篝に、刻は答えない。

「だけど私、刻姉みたいな才能がないから、刻姉にはなれないよね……」

 刻は、黙っているだけだった。篝の話を聞くわけでもなく、ただ地面に突き刺さった刀を抜いて、もう一度篝へ向けて振り上げた。

「だから、私は――」

 そう言って篝はそっと目を閉じる。しかし不思議と、そこに諦めた様子はない。

「私は……っ!」

 そして刻の刀が振り下ろされる瞬間、篝は勢い良く目を開いた。そして刻の刀が――篝の顔の直前でピタリと動きを止めた。

「っ……!」

 苦痛に表情を歪めながらも、篝はそのまま刻の刀を受け止め続けた……その、真っ白な両手でだ。

 所謂、真剣白刃取りである。しかし篝はそんな訓練を受けたことはなかったし、実戦で使うのはこれが初めてだ。当然完全な白刃取りになるハズもなく、篝の両手からは血が流れていた。

「だから私は、私を目指すね……!」

 それは姉への決別か、それとも姉を目標にし続けた己への決別か。

 篝は刻の刀を放してすぐに立ち上がると、刻から距離を取る。そして先程刻へ弾き飛ばされた錆刀を拾い上げると、改めて刻へ向き合った。

「私には、刻姉みたいな才能はないけど……きっと、私には私にしかなれない『私』があるハズだから。だって私は――」

 篝の意思に応えるかのように、手にした錆刀が輝きを放つ。まるでがらくた同然だった宝刀が、ついに篝の意思に応えたのだ。最早それは、錆刀ではない。

 ――――お前が私の、娘だからだ。

「私は、坂崎十郎の娘だからっ!」

 次の瞬間、篝の持つ錆刀は新品同然の輝きを放っていた。数多の妖魔を屠り去り、その血を吸い続けた妖刀。意思を持ち、所有者を自ら選ぶその刀の名は――

「無双刀乱月」

 そう呟くと同時に、篝は刻目掛けて駆け出していた。刻もまた同じように、刀を構えて篝へと駆けて行く。

「さよなら、刻姉」

 二人が同時に刀を振り抜く。互いに背を向けあったまま、刀を振り抜いた態勢でしばらく静止していた。

 倒れたのは、刻だ。その様を見ることもせず、篝は静かに乱月を構え直す。それと同時に景色は歪んでいく。そして一秒と経たない内に、艶羅によってかけられた幻術は解除される。

「……ハァ!? あり得ないあり得ないあり得ない! 普通そうはなんねーわよざっけんなバーカ! なんで死なねーのよ!?」

 そこにいたのは憤懣やるかたない、といった様子の艶羅だった。

 既にその美しい顔は醜く歪んでおり、口元はまるで狐か何かのように突き出てしまっている。元々艶羅は狐の類だったのだろうか、恐らく今の姿こそが本性だろう。

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!」

 激昂して牙を剥き出しにする艶羅に、篝はもうほんの少しも恐怖を感じない。悠然と乱月を構え、篝は静かに艶羅を見据えていた。

「私言ったよね。許さないって」

 飛びかかる艶羅に一言、ただそれだけ言うと、篝は乱月を一閃した。

「きっ……っ……!」

 上半身と下半身で真っ二つに両断された艶羅は、言葉にならないうめき声を上げながら、ボトリと音を立ててその場に落下する。まだ何か言いたげに篝を睨みつける艶羅だったが、言葉を発する前に篝によってとどめを刺された。

「さて、浄化ですね」

 落ち着いた様子でそう言って、篝は艶羅の浄化を始めた。





 状況は依然として鬼羅の優勢、という様相を呈していたものの、英輔と由愛の勢いは一向に衰えない。相変わらず由愛の黒弾は鬼羅に対してダメージを与えられていないのか、鬼羅は由愛の攻撃をまるで気に留めていない。それでも由愛は構わず撃ち続けていたし、表情も先程までとは打って変わって怯えた様子がまるでない。

 英輔の方はかなり身体に無理をさせてはいるものの、魔力障壁等を駆使して鬼羅の攻撃をのらりくらりとしのぎつつ、由愛と同じく小回りの効く攻撃で応戦している。

 一方、鬼羅の方は明らかに優勢ではあったものの、その表情には勝ち誇った様子はない。どちらかというと勝負を決め切れないことに苛立っているのか、攻撃も単調かつ乱暴になっている。

「つまらねェ戦いに付き合わせてんじゃァねェぞォーーーッ!」

 激昂しながら振り下ろされた鬼羅の拳は、英輔に当たるすれすれのところで地面へ直撃する。鬼羅の拳によって地面が抉れたのは、これで何回目だろうか。英輔も由愛ももう数えていない。ただ、英輔達の回りが穴だらけになっていることから考えて、恐らく相当な数の一撃が地面に叩き込まれたのであろうことが想像出来る。


 こうして鬼羅が苛立つことさえ、英輔と由愛の作戦の内である。

 鬼羅のタフネスは尋常ではない。由愛の黒弾だけでなく、英輔の攻撃さえもちょっとやそっとでは気にも留めない程だ。当然、正面からぶつかって勝てる相手ではないし、万全の状態であったとしても一対一では絶対に戦いたくない相手だと言っても良い。そんな鬼羅を相手取るのであれば、正面からぶつかるのは愚か以外の何物でもない。

 英輔と由愛が仕掛けたのは、消耗戦だ。鬼羅が音を上げるまで、小賢しく立ち回り続けることが、打倒鬼羅への活路だと判断したのだ。

 特に由愛の攻撃は火力が低く、与えられるダメージが乏しい。そのため、鬼羅への決定打にはなり得ない。フィニッシャーの役目を担えるのは英輔だけだったが、英輔とて先日の戦いのダメージがあるため、万全とは言えない。先日と同じ一撃を放てるのであれば短期決戦も考えられたがそうはいかない。英輔の一撃で確実に鬼羅をダウンさせられる段階まで、英輔の魔力は温存しておく必要がある。

 雨垂れ石を穿つ。例え由愛の黒弾がほとんどダメージを与えられずとも、決してそのダメージはゼロではない。苛立って頭に血が昇った鬼羅は気づいていないのだろうが、由愛の黒弾は常に鬼羅の右足・・にのみ集中している。それをカモフラージュするために、他の部位も英輔と共に攻撃してはいるものの、攻撃する比率は圧倒的に右足へ集中している。

 蓄積されたダメージは、どんな頑強な岩でも穿つ。鬼羅の足は、知らず知らずの内にふらつき始めていた。

「オメェさん達……時間稼ぎも大概にしねェと……ッ……ッ!」

 瞬間、鬼羅の右膝がガクンと曲がる。それに対して鬼羅が驚いた表情を見せた隙に、由愛はありったけの念動力を両手に込めた。

「そうね……時間稼ぎは――もうお終いよっ!」

 由愛の両手から放たれた巨大な黒弾が、真っ直ぐに鬼羅の右足へと飛来する。流石にまずいと悟ったのか逃げようともがくが、追い打ちをかけるように英輔が放った雷の魔力の塊が、鬼羅の右足を攻め立てた。

「ヌゥゥゥゥゥッッッ!」

 唸る鬼羅の右足に黒弾が直撃し、鬼羅の巨体が後ろへよろめいていく。顔面に黒弾を喰らってもピンピンしていられる鬼羅だが、ダメージの蓄積した右足に黒弾を喰らえば流石に堪えたのだろう。

 その鬼羅目掛けて、英輔は勢い良く飛び上がる。

「くッらいやがれェェェェッ!」

 今の英輔の全身全霊を込めた魔力が右腕に集中する。雷の魔力で形成された電流の虎が、吠えるような動作を見せた。鳴き声の代わりに、電流の弾ける音が周囲に響き渡る。

「――やァるじゃねェか……ッッッ!」

 絶体絶命のピンチではあったが、鬼羅はここで笑みを浮かべた。突破する手段があるから微笑んだのではない。単純に英輔と由愛を強敵と認め、彼らと戦えたことに満足しただけだ。

 倒れこむ巨体は既に電流の虎を避けようとすらしない。英輔の全身全霊の一撃を、鬼羅は両腕を広げて受ける構えを取った。

「認めるぜッッ! 馬鹿にして悪かったなァ……オメェさん達は、儂を倒すに足る強敵じゃァッ!」

 それが鬼羅の最後の言葉だった。

 電流の虎が直撃し、爆音と共にその場へ倒れ伏した鬼羅からは黒い煙が上がっている。もうまともに動くことが出来ないのか、ピクピクと指を動かすことしか出来ないでいる。妖魔である以上このまま放っておけば鬼羅は復活することが出来るのだろうが、勝負自体は英輔達の勝利だ。それを認めているのか、鬼羅の表情は安らかだった。

「ハァ……ッハァ……!」

 英輔も由愛も満身創痍、と言った様子で、肩で息をしながら倒れた鬼羅を見つめている。

「……ねえ、英輔……!」

「……あァ? 何だ!」

 振り向いた英輔に、由愛は少しだけ微笑んだ後やや気恥ずかしげに右手を上げた。その様子に英輔はしばらく戸惑うような様子を見せたが、やがて意味がわかったのか屈託のない笑みを浮かべる。

「ナイスコンビネーション」

「誰がコンビよ……バーカ」

 憎まれ口を叩きながらも、由愛はどこか嬉しそうに英輔とハイタッチした。

「さて、後は退魔師の誰かに浄化してもらわねえと、な……」

 ややふらついてはいるが、倒れ込む程ではないのだろう。少し由愛に支えられながら、英輔は由愛と共に鬼羅を浄化出来る退魔師を探して正中を歩き始めた。





 永久の持つ巨大な七支刀、無限破七刀アンリミテッドブレイカーから放たれる威圧感は常軌を逸していた。永久のコアは不完全で、完全なコアを持つルークからすれば取るに足らない存在と言っても過言ではなく、それ故にこれまでの戦いは圧倒的にルークが優位だった。しかしあの七支刀、無限破七刀の放つ威圧感はこれまでの永久を凌駕している。それこそ、先日暴走して見せた永久の威圧感とは桁違いである。

 これがかつて、アンリミテッド達を封印まで追い込んだ武器、無限破七刀である。

「存分に奮うが良いクイーン。それが貴公の力だと言うのであれば!」

「望むところだよ。あなたは絶対ここで止める……!」

 記憶を失った永久にとって、この無限破七刀を手にするのは初めての経験だが、どう使えば良いのか、どんな力を持っているのかはなんとなく理解出来る。理屈でわかっているというよりは、本能で覚えているような感覚がある。何をどうすれば目の前のアンリミテッドを破壊出来るのか、深く考えなくても永久には理解出来た。

 ルークと対峙しつつ、永久は無限破七刀の柄についたレバーを右手で操作する。すると、柄の部分から白い光のラインが出現し、七つに分かれた刃の一つ目へと流れていく。

『Charge one.』

 無限破七刀から流れた電子音声に、永久は少し驚いて目を丸くする。これは遥か昔の武器ではなかったか。

 そもそもレバーがついているというのも不思議な話だし、外観も七支刀のような形ではあるものの、どこか機械じみている。昔の無限破七刀がどんな形だったかなど永久は覚えているハズもないが、間違いなくこんな感じではなかった。

 過去の永久クイーンと現在の永久。きっとそこに違いがあるからこそ、この力にも変化が起きたのだろう。ルークの言う通り、怒りや憎しみのような負の感情の結晶だった無限破七刀と、今の永久の持つ、今まで繋いだ絆の結晶の無限破七刀。そこに大きな差があるのは至極当然とも言える。武器を変える際に永久の姿が変わるように、この無限破七刀もまた、現在の永久のイメージを受けて大きく変化したのかも知れない。それはきっと悪いことじゃない。何故ならこの力は、負の感情にとらわれていない、今の永久だからこそ奮える力なのだから。

「行くよ……!」

 永久が無限破七刀を構えて駆け出すと同時に、ルークもまた駆け出して行く。互いが肉薄し、無限破七刀と大剣が激しく火花を散らした。

 先程まではルークにパワー負けしていた永久だが、今は無限破七刀のおかげか拮抗しているように感じる。

 ――――行ける……!

 強くそう感じ、永久は勢い良く無限破七刀を振り抜いた。

「ヌン……ッ!」

 その威力故か、ルークは何とか持ちこたえながらも後ろへ弾かれてしまう。その隙に永久は、再びレバーを操作した。

『Charge two.』

 光のラインが、二つ目の刃へと流れて行く。レバー操作を行うごとに、無限破七刀にエネルギーが充填されているように感じる。一度レバー操作を行うと、次の操作を行うのに数十秒のラグがあるため、連続して行うことが出来ない。時間としては僅かなラグだが、戦闘中の数十秒は普通の数十秒とは意味が違う。その少しのラグが勝敗を分かつため、悠長にレバー操作を行なっている余裕はない。

 現に、レバー操作を行わせることを危険だと判断したルークは、凄まじい速度で永久の方へと接近し始めている。ルーク程の手練を相手に、レバー操作を行いながら戦うのは至難の業だが、半端な力ではルークは倒せない。今までのアンリミテッドのように撃退するのではなく、今ここで破壊する、永久がそう決めている以上、無限破七刀の力は最大限まで引き出したい。そのためには、レバー操作によるチャージは全開まで行う必要がある。

 接近してきたルークの大剣が、無限破七刀を構えた永久へ振り下ろされる。無限破七刀によって大剣を受ける永久だったが、ルークは先程のように鍔迫り合いをせず、すぐさま次の攻撃へと転じた。

 隙を与えないためだろう、ルークはその巨体をフルに動かし、大剣による連撃を永久へ浴びせ続けた。

「もしかして焦ってる?」

「戯言をッ……!」

 余裕を見せた永久に、ルークは顔をしかめて大剣を薙ぐ。永久は大剣を受け止めるやいなや、無限破七刀を地面に突き刺して固定すると、それを軸にその場から高く跳躍した。軽々と頭上を越えていく永久に、ルークはやや呆気に取られて静止する。その瞬間に永久はその場で光に包まれ、着地する頃には甲冑に身を包んでいた。

「おおおおおっ!」

 掛け声と共に横に薙がれた永久の大剣から、衝撃波が放たれる。ルークは避けることが出来ず、どうにか大剣で防いだもののその衝撃で横に押し飛ばされてしまう。

 その隙に永久は再び無限破七刀を手に取ると、すぐにレバーを操作した。

『Charge three.』

 光のラインは、三つ目の刃へと流れて行く。限界までチャージするには、後四回の操作が必要だった。

 再び無限破七刀を永久が構えると、永久の姿はセーラー服姿へと戻った。他の力を使いながら無限破七刀を使うことは不可能ではなさそうだが、今の永久では扱い切れない。先程のような連携も、もう一度出来るかと言われれば怪しいところだ。

「少々貴公を侮っていた」

「そう」

「これまでの無礼を詫びよう」

 言いつつ、ルークはゆっくりと身構えた。その隙に永久はもう一度レバーを操作する。

『Charge for.』

 光のラインが四つめの刃へと流れて行く。それと同時に、ルークは動きを見せた。

「果てるが良い」

 次の瞬間、ルークが勢い良く大剣を振ると同時に巨大な衝撃波が放たれた。永久が放つものとは桁が違う、一撃で大木を何本も薙ぎ倒すような巨大な衝撃波だ。

「――っ!」

 避けようにも巨大過ぎて間に合わない。すぐに永久は無限破七刀の影に隠れ、その身体を縮こまらせた。

 まるで台風が如き轟音。永久の背後が木々だったから良かったものの、もし神社の方角を背に戦っていれば間違いなく坂崎神社はこの一撃で壊滅しかねなかっただろう。今までこれを放たなかったのは、力を温存するためだろうか。

「……くっ……!」

 無限破七刀で受け切れなかった衝撃波が、永久の身体を痛めつける。衝撃波が収まった頃には、永久の周囲の地面は大きく抉られており、背後の木々も後方数メートル分は消し飛んでしまっていた。

 辛うじて無限破七刀で受け止めたものの、受けたダメージは尋常ではない。セーラー服は所々が破けており、露出した柔肌からは血が流れている。直撃を受けたわけではないものの、深いダメージを受けていることだけは間違いなかった。

「はぁっ……はぁっ……」

 何とか立ち上がって見せた永久に、ルークはほう、と感心したように声を上げる。

『Charge five.』

 再びレバーが操作され、光のラインが五つ目の刃へ到達する。

「これを受けて生き延びた相手は、やはり今も昔も貴公だけだ」

「そうなんだ? でもあなたは、無限破七刀を受け切れない」

 危機的な状況ではあったが、永久は不敵に笑みを作って見せる。実際あまり余裕はないが、余裕なく振る舞えば本当に余裕がなくなってしまう。

「――ならば受けて見せよ……もう一度だッッッ!」

 そう言ってルークが大剣を振り上げた瞬間、永久が光に包まれたかと思うと、その場から姿を消した。

 そしてルークが大剣を振り下ろそうとした瞬間、目の前に現れた永久は、二本のショーテルで強引にルークの大剣を止めた。

「撃たせなければっ!」

 黒いツインテールを揺らし、必死に大剣を受け止める永久に対して、ルークは強引に大剣を振り下ろさんとして力を込める。

「撃たねばならぬッ!」

「撃たせないっていってんでしょっ!」

 次の瞬間、再び永久は姿を変える。袴姿へ転じた永久は、ショーテルから切り替わった日本刀で、勢い良くルークの大剣を両断した。

「ッ……ッ!」

 そしてその直後、すぐさま永久は刀をルークの腹部へ思い切り突き刺した。

 甲冑を貫通して突き刺さる日本刀に、ルークは呻き声を上げながらよろめく。そんなルークに日本刀を突き刺したまま、永久はルークを蹴り飛ばすと、すぐに後方へ置き去りにしたままの無限破七刀の元へ駆け寄って行く。

『Charge six.』

 光のラインは、ついに六つ目の刃へと向かって行く。残るチャージは、後一度だけだ。

「クイィィィィィィィンッッ!!!」

 もう既にルークにも余裕はない。再び取り出した大剣を振り、永久へと衝撃波を放つ。当然先程放ったものに比べればかなり小規模なものだが、それでもまともに受ければ大きなダメージになり得る衝撃波だ。

「――はっ!」

 しかし永久は、その衝撃波を無限破七刀の一振りで消し飛ばす。既に六段階目までチャージの終了した無限破七刀は、最初よりも更に力を増している。

 無限破七刀が衝撃波を消し飛ばすのを読んでいたのか、ルークは既に永久へと肉薄しており、勢い良くその大剣を永久へ振り下ろす。

「ヌゥァッ!」

 ルークの一撃を受け止めると、永久はその場でレバーを操作し始める。

「させぬぞッ!」

 ルークの大剣に弾かれる永久だったが、すぐに態勢を立て直し、再びレバーへと手を伸ばす。

「邪魔しないでっ!」

 レバーへ左手を添えたまま、永久は向かってくるルークへ強く無限破七刀を突き出す。

「ぐゥおォァッ!」

 無限破七刀が突き刺さり、血を吐き出すルークへは目もくれず、永久はそのままレバーを操作した。

『Unlimited charge.』

 光のラインは最後の刃、七つ目の刃へと到達する、そしてそれと同時に、無限破七刀は白い光に包まれた。

「うおおおおおォォォォォォッ!」

 絶叫と共に、ルークは無限破七刀から無理矢理自分の身体を引き抜くと、永久から距離を取って大剣を振り上げた。

「ならば来るが良い……このアンリミテッドルーク……渾身の力でお相手しようッッ!!」

『Unlimited burst!』

 レバーを素早く二回操作すると、力を放つ準備が完了したことを示す電子音声が無限破七刀から流れる。それと同時に、永久は両手で強く無限破七刀を握りしめ、ルークを見据えて身構えた。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 力強く振り上げられるは、無限を破る宝剣。集いし光が、無限破七刀だけではなく永久自身をも包み込んだ。

無限破アンリミテッド――――」

「喰らうが良い……崩落の剣――ッ!」

 互いが互いの全力を剣に込める。振り下ろしたのは、ほぼ同時だった。

七刀ブレイカァァァァァァァァァッッ!!」

 ルークの衝撃波と、永久の放った白い衝撃波が正面からぶつかり合う。どちらも凄まじい轟音を上げ、地面を抉り、木々を消し飛ばす。

 しばらくは拮抗していたが、やがて永久の放った白い衝撃波がルークの衝撃波を飲み込んで行く。

「しかと見届けたぞクイーン! 貴公の力を――ッ!」

 永久の衝撃波は、容赦なくルークの身体をも包み込んで行く。抗うことさえ叶わない圧倒的な破壊力に、ルークは為す術もなく弾けていく。

 これが無限破七刀アンリミテッドブレイカー。唯一、無限アンリミテッドを破壊することの出来るアンリミテッドクイーン最強の武器。

 ――――これを受けるのが、私で良かった。

 どこかでこの光景を見ているであろう主を思い、ルークは心の内でそんなことを呟いた。無限破七刀を奪うことは出来なかったが、主であるアンリミテッドキングに、この無限破七刀の威力を間接的ながら伝えることが出来たのだ。

 これを受けるのが、キングでなくて良かった。ルークは心底そう思い、衝撃波の中で消滅していく。消し飛んだ肉体の中からルークの本体である宝玉、コアが弾き出される。そしてコアもまた、ルークの肉体同様に衝撃波の中で消滅していった。

「やっ……たの……?」

 衝撃波が収まった時、既にそこは焼け野原となっていた。宝物庫は無事だが、その周囲の景色はこれまでの戦いでほとんど崩壊してしまっていた。

「これ、を……私、が……?」

 呟きつつ、永久はふらりと態勢を崩す。

「――永久っ!」

 ポケットから顔を出したプチ鏡子の声が耳に届かないまま、永久はドサリとその場に倒れ込んだ。

「と、永久さんっ!」

 その様子を見て、宝物庫の影に隠れていた篝が永久の元へ駆け寄った。彼女は艶羅との戦闘を終えた後、永久とルークの戦いに巻き込まれることを恐れて、気を失っている十郎を連れて宝物庫の影に隠れていたのだ。

「これが……アンリミテッド……」

 倒れた永久の元へ駆け寄った後、周囲に広がる凄惨過ぎる光景を改めて見渡し、篝は震えた声でそう呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ