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World×World  作者: シクル
十番目の世界
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World10-8「石を穿て」

 遠距離攻撃を得意とする由愛が後方支援を行い、英輔が前衛で鬼羅と直接戦闘を行う。その分担自体には何一つ問題はなかったが、問題なのは鬼羅の恐ろしいまでのタフネスだった。

 先日と同様、由愛の放つ黒弾では鬼羅にほとんどダメージを与えることは出来ず、いくら英輔が鬼羅の動きに隙を作ったところで、由愛の攻撃では鬼羅にほとんどダメージを与えることが出来ないでいた。

「ガッハッハッ! 嬢ちゃんの豆鉄砲、相変わらず生温いったらありゃしねェ! やる気あんのかィ!?」

 豪快に笑いながらそんなことをのたまう鬼羅に、由愛は言い返すことさえ出来ない。事実、由愛の攻撃は鬼羅に対して全く効いていないと言っても過言ではないせいだ。

「……なんでっ……!」

 由愛の黒弾は、超能力による念動弾だ。由愛は元々超能力者であったため、念力を用いて物体を浮遊させたり、スプーンやフォークなど、素手では折り曲げることの出来ない棒状の物体を折り曲げたりすることが出来た。その念力が具現化し、相手に向かって放つボール状の念動弾になったのが所謂「黒弾」である。

 念動力は文字通り念の力。つまり由愛の念じる力、精神力が直接影響する力だ。元々永久や英輔に比べると由愛の攻撃は火力不足だと本人も自覚していたが、鬼羅との戦いによって改めて由愛はそれを認識する。

 いくら鬼羅がタフな相手だからと言って、ここまでダメージがないとなると由愛も情けなくなってくる。前回もありったけの一撃をぶつけて無傷だったことを考えると、由愛の力不足は火を見るよりも明らかだった。

「こンッ……のォッ!」

 雷の魔力が迸る英輔の拳が、鬼羅目掛けて突き出されるが、鬼羅は即座にそれを回避し、ガラ空きになった英輔の腹部へ勢い良く膝蹴りを叩き込む。

「がッ……ァ……!」

「英輔っ!」

 由愛の黒弾はまるで相手にしない鬼羅だが、英輔の攻撃はそのまま受けたりせず回避するようにしている。そんな鬼羅の態度がまた、由愛を焦らせた。さっきから鬼羅とまともに戦っているのは英輔だけで、由愛は何一つ貢献出来ていない。むしろ後ろを気にしながら戦っている英輔の足手まといになっている可能性すらある。

「来るな……由愛ッ……!」

 ややよろめきながらも後退し、なんとか態勢を立て直しつつ、英輔は由愛を制止するように右手を広げる。

「泣けるじゃねェか。嬢ちゃんのために身体張るたァよォ」

 ゆっくりと歩み寄りつつ、鬼羅はそんなことを言いながらニヤリと笑みを浮かべる。もう既に勝ちを確信しているのか、鬼羅の態度にはかなりの余裕があった。

「こ、この……っ!」

 由愛は黒弾を複数自身の周囲に停滞させ、それらを一気に鬼羅へとホーミング弾の如く発射するが、やはりどれも鬼羅にダメージを与えたようには思わない。それどころか、怯むような様子さえ見せないのだ。

「なんでィ、昨日より弱くなってんじゃあねェか?」

「なんですって……!!」

「昨日のはもうちっと気合入ってたぜ、嬢ちゃん」

「う……うるさい……っ!」

 涙混じりに叫びながら、由愛は再び鬼羅へ黒弾を放つが、やはり怯む様子も見せない。

「――由愛ッ!」

 次の瞬間、英輔を無視して由愛へ接近した鬼羅は、由愛を頭から片手で掴みあげていた。

「離してっ……離しなさいよっ!」

 バタバタともがく由愛だったが、鬼羅の怪力にはかなわない。手や足を振り回して抵抗するものの、鬼羅は由愛の頭を潰さんばかりの勢いで握り込んでいく。

「こんなつまんねェののためにクイーンを逃したかと思うとよォ……流石の儂もイライラしてくるってモンだのォ……ッ!」

「由愛ェェェッ!」

 どこか絶叫じみた声を上げながら、英輔は鬼羅目掛けて勢い良く突進する。不意の突進で鬼羅が多少よろめいた瞬間に、英輔は由愛の頭を掴む鬼羅の腕へ魔力のこもったアッパーを叩き込んだ。

「おォッ……!」

 タフな鬼羅も流石に少しはダメージがあったのか、思わず由愛から手を離し、由愛はその場にドサリと倒れ込んだ。

「無事かッ!」

 すぐさま英輔は由愛を抱きかかえると、左手を地面に目掛けてかざし、魔力の塊を数発地面へ撃ち込む。するとその衝撃で地面が抉れて砂埃が舞い上がり、英輔達の姿を鬼羅から隠した。

「一旦離れるぞ!」

 そう言って英輔は由愛を抱えたまま全速力で木陰に隠れると、そこで一度息を吐いた。

「こ、こんなのすぐ見つかっちゃうじゃない!」

「いいから、とりあえずここで一呼吸置け!」

 英輔に肩を掴まれ、やや納得いかなさそうな様子を見せる由愛だったが、やがて渋々とわかったわよ、と答えた。

「……悔しいがこのままじゃ勝てねえ。そんでアイツの言う通り……お前は気合が入ってねえ!」

「なっ……アンタこういう時そういうこと言う!? ふざけんじゃないわよ英輔の癖に!」

「ビビってんだろお前! わかんだよ俺にもそれくらい!」

「ハァ!? 私が!? ビビってる!? どの口が言うのよこの馬鹿!」

 英輔の言葉に、声を荒らげて怒り散らす由愛の様子を見て、英輔は少しだけ間を置いた後小さく笑みを浮かべた。

「よし、それで良い。そんくれェ言い返す余裕がある方が由愛らしいぜ」

「あ、アンタ……」

 言い方こそ丁寧ではなかったものの、今のは英輔なりに由愛を元気づけようとしての言葉だったらしい。先程までは自身の無力感と、目の前で暴れる鬼羅に対する恐怖で縮こまっていた由愛だったが、今ではすっかり肩の力が抜けてしまっている。

「アイツはタフだが無敵じゃねえ。効いてねえように見えてもほんとにゼロってわけじゃない」

「……そっか……!」

 元々頭の回転が早く、察しの良い由愛にはすぐに英輔が何を言おうとしているのかが理解出来た。

「『雨垂れ石を穿つ』……っ!」

 例えわずかな水滴だとしても、同じ場所に落ち続ければいずれは石をも穿つ。どんな小さな力でも同じ場所に与え続ければいずれはダメージを与え続けることが出来る。恐らく英輔が言いたいことはそういうことだ。

「なんだ、耳垂れがなんだ……!? っつーかまだ俺何も言ってねえけどわかったのか!?」

「いや、いい。アンタ思ったより馬鹿ね」

「なッ……お前な!」

 顔をムッとさせる英輔だったが、由愛はニヤリと笑みを浮かべる。

「おォいオメェさん達よォ……時間稼ぎはその辺にしとけや、儂もいい加減イライラしててのォ……!」

 既に砂埃は消えており、鬼羅はキョロキョロと辺りを見回しながら英輔達を捜している。パワーはかなりのものだが、相手の気配を察知したりする能力には長けていないのか、木陰に隠れているだけの英輔達を見つけ出すことが出来ないでいる。

「英輔、アンタにしちゃあ上出来よ」

「お前な、もっと言い方選べねーのかよ」

「無理ね」

「だろーな」

 そう言ってお互いに顔を見合わせて笑い合うと、すぐに英輔と由愛は木陰から飛び出し、鬼羅の方へ視線を向けた。

「お、隠れんぼはやっとおしまいかィ」

「ま、そういうことね。覚悟しなさいよデカブツ!」

 不敵な表情でそう言った由愛を見て、鬼羅もまた不敵に笑みを浮かべる。先程まではどこか苛ついた様子を見せていた鬼羅だが、今は楽しそうな顔つきで由愛と英輔を見つめていた。

「ほォう……良い顔になったじゃねェか」









 大剣と大剣が激しくぶつかり合う。ルークのその巨躯から繰り出される大剣は、刹那の攻撃以上に重い。永久もなんとか大剣で対応してはいるもののやや押され気味だ。その証拠にどこか余裕のなさそうな永久の表情とは裏腹に、ルークは表情一つ変えずに淡々と大剣を振り回している。

「どうした、昨日の勢いが感じられないが」

「……っ!」

 ルークが薙いだ大剣を大剣で防ぎながら永久は歯噛みする。このままでは防戦一方だし、いずれはルークに押し切られてしまうだろう。

「お返しだ、受け取れ」

「な――っ」

 次の瞬間、ルークが強引に大剣を振り切ろうとすると同時に、大剣から衝撃波が発せられる。どうにか大剣でガードしていたおかげで直撃こそ免れたものの、その凄まじいパワーを受けて永久は大剣ごとその場からふっ飛ばされてしまう。

「お説教も出来ない程傷めつけるのではなかったのか」

「……意外と根に持つんだね」

 やや茶化した風に笑いつつ、永久は起き上がって口元についた土を拭う。

 昨日目を覚ました時こそ自身が暴走していた時のことを覚えていなかった永久だが、今では薄ぼんやりとだが思い出すことが出来る。

 ――――あは、だらだらと御託並べてお説教だなんて、とーっても立派な騎士様ねぇ。

 永久自身にわかには信じ難かったが、確かにあの時永久はまるで刹那のように振る舞っていた。何がどうなってそうなってしまったのかは永久自身にもよくわからないが、ただ一つだけハッキリと言えるのは、永久と刹那が同一の存在である、ということだけだ。アンリミテッドクイーンは本来一つの存在。むしろ今二つに分かれていることの方がおかしいのだ。あまり認めたくはないが、永久の中に刹那と同じ性質があったとしてもおかしな話ではない。

「……貴公の用いていたこの腕輪、どうやら私だけでは使えんようだ」

 不意に、ルークは右手にはめていた腕輪を外すと、素っ気なく永久の方へ放って見せる。

「何のつもり……?」

「使って見せよ。以前のように」

 罠であることを警戒してか、永久は地に落ちた腕輪を拾わずにただ視線だけを向けた。見た目こそ何の変哲もないただの腕輪だが、そこから発せられるエネルギーは計り知れない。今まで何度もアンリミテッドや、それに準ずる脅威と対峙してきた永久だったが、それらと比べても引けをとらない程の力をその腕輪から感じることが出来る。

「舐められてる……ってことかな」

「私の記憶が正しければ、その腕輪には七つの宝玉がハマっていた」

「宝玉……?」

「左様。貴公の感情の結晶だ」

「感情の……結晶? 待って、どうしてそんなことを私に教えるの!?」

 腕輪には七つの窪みがあり、そこに小さな宝玉が1つずつ入っていた、というのはあながち嘘ではないらしい。

「それは貴公の生み出したものだ。貴公でなければ起動出来ぬ」

「……起動した後の『武器』が欲しい……ってわけだね」

「話が早い」

 淡々とそうのたまったルークを、永久は強く睨みつける。明らかにルークは永久のことを侮っているが、現状完全なコアを持つアンリミテッドであるルークとコアの不完全な永久では力に大きな開きがある。恐らくルークは、永久が腕輪を起動し“武器”を用いても尚ルークにはかなわないと高をくくっているのだろう。狙うなら、その僅かな油断だ。

 永久が腕輪を拾い上げると同時に、ルークは再び大剣を構えて永久へと接近する。永久は腕輪を右手へ装着してすぐにルークの大剣を大剣で受け止めた。

「怒り、悲しみ、憎しみ、高ぶった貴公の負の感情……その結晶!」

「それが昔の私だって言うの!?」

「怒れ、憎め、悲しみが足らぬなら貴公の大切なものを1つずつ破壊してみせようッ!」

「そんなことはさせない……ここで食い止めるっ!」

「その力なしでそれは叶わぬと知れッ!」

 凄まじい勢いで繰り出される大剣を、永久はなんとか持ちこたえながら受け続ける。ルークには全く隙がない、互いに同じ武器を用いている以上、勝敗を分かつのは相性よりも実力の差だ。重たい攻撃を受け続けるには大剣しかないと思っていたが、逆にその選択が永久を窮地に立たせている。

「ヌンッ」

 掛け声と共に突き出されたルークの前蹴りに、永久は対応出来ずに怯む。その一瞬の隙を見逃さず、ルークは大剣を振り下ろした。

「――ッ!」

 しかし、次の瞬間永久は眩い光を放つと同時に姿を消しており、大剣は地面に振り下ろされた。

 大剣が振り下ろされる直前で姿を変え、甲冑から解き放たれて身軽になった永久は二本のショーテルを振り上げ、ルークの上空から急降下を始めていた。

「軽さが仇となるッ!」

 その永久の落下速度に合わせて、ルークは勢い良く大剣を振り上げる。しかしその瞬間、永久の身体は再び眩い光に包まれた。

「はぁぁっ!」

 そして次の瞬間、永久の振り下ろした日本刀が、その尋常ならざる切れ味を持ってしてルークの大剣を真っ二つに切り裂いた。

「ッ……ッッ……ッ!?」

 これには流石のルークも驚きを隠せず、切り落とされた大剣の片割れと永久を交互に見、表情を歪めている。

「そこっ!」

 しかし永久は追撃の手を緩めない。ポニーテールを揺らめかせ、怯んだルーク目掛けて距離を詰めると素早く刀を薙いだ。

「なっ……!?」

 手応えはあった。今ので確実にルークに深手を与えたつもりだった。だがルークは永久の刀をすんでのところで回避し、永久から少し距離を取ってやや感心したかのように永久の方を見つめていた。

「不完全とは言え流石はクイーン。貴公を見直したぞ」

 ルークの甲冑の腹部には切り裂かれた痕があり、もう少し深く切り裂かれていれば確実にダメージを与えることが出来ていたであろうことがわかる。ルークが甲冑分の厚みと、咄嗟の判断による回避に救われた証拠だ。

「さて、続けるか」

 そう言うやいなや、ルークは両断された大剣の柄を投げ捨てると、自身の背後に空間の歪みを発生させる。ルークはそこから先程と同じサイズの大剣を引きずり出すと、永久を見据えて改めて身構えた。

「そう安々とはいかないみたいだね……っ」

 少しだけ大剣を睨みつけ、永久はそう呟くと刀を構え直した。





 十郎の放つ弓矢を、艶羅は特に苦でもなさそうに回避し続けていた。先日戦った風羅もかなりスピードはある方だったが、どちらかというと艶羅の方が身軽なのかも知れない。

 艶羅からは攻撃せず、ただただ十郎の放つ弓矢を回避し続けているため、十郎の方はかなり苛立ちが募っているのか、どこか焦った様子で矢を放っていた。

「もうぜぇ~んぜん当たんなぁ~い! ちゃんと狙えばぁ?」

「……ちょこまかとッ!」

 用意してきた矢は減る一方で、その度に十郎の中に焦りが募る。

「お、お父さん……!」

「下がっていなさい、篝!」

 そう言って十郎が篝を制止した――その瞬間を艶羅は見逃さない。瞬時にその場から姿を消し、艶羅は十郎の眼前まで接近した。

「――ッ!」

「はぁい、コンニチハ」

 十郎が驚く暇もないままに、艶羅は錆刀で十郎を突き刺した。

「お父さんっ!」

 咄嗟に回避行動を取ったおかげで致命傷こそ免れたものの、刀は横腹に深く刺さっており、その傷の深さは火を見るよりも明らかだった。

「かッ……はッ……!」

「馬鹿娘のこと気にし過ぎでさぁ、全然集中してないんだもん! 笑っちゃうよねぇ~~~~っ!」

 ゆっくりと倒れ伏す十郎の後ろで震える篝を、艶羅はケラケラと嘲笑う。

「じゃあ次は今度こそ篝ちゃんの番だねぇ」

 じりじりとにじりよる艶羅に、篝はただ震えながら後ずさることしか出来ないでいた。


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