表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
World×World  作者: シクル
十番目の世界
73/123

World10-1「坂崎」

 これまで、永久はプチ鏡子や由愛、英輔と共に欠片を探して様々な世界を巡ってきた。そこには沢山の出会いがあり、戦いがあり、別れがあった。そんな旅の中で、永久はいくつもの絆を繋いできたように思う。気がつけば、永久の周りは各世界でもらった様々な思い出の品に溢れてしまっていた。

 学生証はポケットに、白いリボンは長い髪を結い、ロケットペンダントは胸にかけ、貝殻の腕輪は腕に、そしてソフト帽をかぶって本と写真を手提げ鞄に収め、思い出の品々を全て身に付けてて歩く永久だったが、その姿はどう見ても珍妙だった。

 というかセーラー服にソフト帽がどうもイマイチ噛み合ってなかった。

「……あの、永久……せめてソフト帽くらいは外したら……?」

「え? そうかなぁ……。折角みんなから記念にもらったんだし身につけたいなって」

「だからって全部一気に身に付けることないでしょ!」

 龍の言う「アンリミテッドを倒すための武器」のある世界へ旅立つ際、いざ行くかと意気込んだ矢先、急にちょっと待って! と言い出して客室に戻った永久が次に路地裏へ顔を出した時には、既に今の珍妙な姿になってしまっていた。

 今まで袴、ビキニアーマー、甲冑、ロングドレス、黒いローブと様々な姿を見せてきた永久だったが、こればかりは珍妙と言わざるを得ない。

 呆れる由愛の隣では、満足気にソフト帽をかぶり直しながら笑みを浮かべる永久の姿があった。

「それは置いといて、ここってホントにあの龍の言う武器なんかあるのか? 俺には普通の町にしか見えねぇけど……」

 永久達があるいているのはかなり一般的な住宅街で、それ以上でも、それ以下でもない。微々たるものだが龍の言う「武器」の気配は感じられなくもないが、それ以外は特に何も感じない。欠片の気配や、他のアンリミテッドのような濃い気配はこの世界からは感じられないのだ。

 それよりも気になるのは、この町の風景そのものだった。

 この住宅街に並ぶ家々や、塀の色、外で飼われている犬の種類、どこか見覚えがあるような気がしてならない。それは他のアンリミテッドを見た時のような遠い記憶ではなく、どちらかというと坂崎永久として生きてきた中での記憶で、この景色もつい最近見たように感じている。これまで様々な世界を旅してきたのだから、似たような風景なんていくらでもあったかも知れない。しかしこの懐かしさは旅の途中で見たようなものではなく、何かとても馴染みのある……日常生活の中にあった景色のように思えて仕方がなかった。

「確かこの先にラブラドールレトリバーを飼ってる三田さんの家がある……と、思う」

「三田さん? 知り合いか?」

「うーん……知り合いじゃないけど……」

 そんな会話をかわしつつ歩いて行くと、確かにそこには表札に「三田」と書かれた家があり、庭の犬小屋では大型のラブラドールレトリバーが気持ち良さそうに昼寝をしていた。

「もしかしてここが永久がアンリミテッドクイーンだった時にいた世界……ってこと?」

 由愛のその問いに、永久は静かにかぶりを振る。

「そうじゃなくて、多分ここは――」

 永久がそう言いかけた瞬間、前方の曲がり角の向こうで悲鳴が上がる。慌てて永久が曲がり角を曲がると、そこには奇怪な生物に襲われる主婦と思しき中年女性の姿があった。

「な、何アレ……!?」

 一見人のような姿をしているが、所々に蜘蛛のような特徴がある。腕は六本、黒く毛むくじゃらのソレが、主婦に襲いかからんとして蠢いている。身体中は黒く細々とした毛で覆われており、蜘蛛のような複眼がギョロリと主婦を睨みつけている。臀部からは蜘蛛の腹が突き出しており、主婦を捕らえんとしてそこから糸が出ていた。

「た、助けて……っ!」

 恐怖で足が竦んでしまっているのか、へたり込んだまま動けないでいる主婦と蜘蛛の間に、永久は凄まじい速度で割って入る。その姿は既に、二本のショーテルを持つビキニアーマー姿へと転じていた。

 すぐさまショーテルで蜘蛛男に斬りかかる永久だったが、蜘蛛男は素早い動きで身を交わし、永久のショーテルを回避する。

「あ、あなた……!」

「逃げて! 早く!」

 振り返ってそう言った永久を見て、主婦は更に驚くような様子を見せた。

「と、ときちゃん……?」

「えっ……?」

「永久、前見ろ!」

 主婦の言葉に困惑する永久に、英輔が叫ぶ。慌てて永久が前を向くと、既に蜘蛛男が眼前まで迫ってきており、その六本の腕で永久に掴みかかろうとしていた。

「この……っ!」

 蜘蛛男の腕目掛けて、永久は二本のショーテルを勢い良く同時に振り下ろす。六本の腕が同時にその場で切り裂かれ、異形の体液をまき散らしながら地面へボタボタと落ちていく。

「ひぃ……っ!」

 後ろで悲鳴を上げる主婦の方を振り返りもせず、永久は蜘蛛男を蹴り倒すと、その腹部に勢い良く二本のショーテルを突き刺した。

「ギィィィィィッ」

 浴びた返り血を拭いながら永久が振り返ると、主婦は更に悲鳴を上げてその場から逃げ去っていく。

「一体何なんだ、そいつ……」

 訝しげに蜘蛛男の死体を眺めつつ呟いた英輔だが、その疑問に答えられる者はこの場にはいない。永久もどうすれば良いのかわからないまま、元の姿に戻ると死体を眺めつつどうしよう、と小さく呟いた。

「あ、ああ……あーー!」

 そんな永久達の後方から聞こえたのは、どこか間の抜けた少女の声だった。

「よ、妖魔ようまの気配を辿ってきたのに、な、何でもう死んでるんですかぁーーーっ!?」

 そこにいたのは、黒いボブカットの、巫女装束に身を包んだ十代半ばの少女だった。

「え、あ、あの……妖魔って……?」

 困惑しながら永久が振り返ると、少女はまるで幽霊か何かでも見たかのような表情で驚き、永久の顔をまじまじと見つめた。

「と、刻姉ときねえ……?」

 どうやらこの世界にも永久のそっくりさんがいるらしかった。





 しばらく少女は刻姉刻姉と騒いだり泣き出したり喜んだりと中々に忙しかったのだが、何度も主張する内にどうにか永久がその「刻姉」とは別の人物である、ということを理解してもらえたらしく、少女はようやく落ち着いた様子になると、すぐに蜘蛛男の死体へと駆け寄った。

「え、えっと……浄化浄化……」

 小さくそう呟くやいなや、どこかたどたどしい様子で少女は経文に似た呪文を唱え始める。最初は永久達には何をしているのかわからなかったが、やがて蜘蛛男の死体が塵のようになって風に舞っていき、みるみる内に消えていくのを見て、少女の言う「浄化」の意味が永久達にも理解出来た。

「よ、妖魔は、人の邪念の集合体なんです……。だからこうして、倒した後は浄化しないと蘇っちゃうので……」

 一人で勝手にそこまで説明した後、ハッと何かに気づいたかのような表情を見せると、唐突に少女は永久達へごめんなさい! と頭を下げた。

「じ、自己紹介がまだでした! わ、私……」

 上がり症なのか一度言葉に詰まって俯いた後、少女は何とか顔を上げてもう一度口を開く。

「私、坂崎篝さかざきかがりと言います! い、一応、退魔師……です」

 徐々に尻すぼみになっていく退魔師、という言葉よりも、永久達が驚いたのはその「坂崎」という苗字の方だった。

「さ、坂崎……? 坂崎って言うの……?」

「あ、はい……そう、ですけど……」

「私は……永久、坂崎永久だよ」

 そう名乗った永久に、今度は少女――篝の方が驚いて見せる。

「さ、坂崎って言うんですか!? この辺で坂崎って私の家だけだし……どこか遠い所からいらっしゃったんです!?」

「う、うんまあ、遠い所から……」

「すごいです! 別の坂崎さんで、それも刻姉にそっくりだなんて!」

 ――――と、ときちゃん……?

 不意に、先程逃げた主婦が永久を見た時に言った言葉を思い出す。この世界には永久そっくりな坂崎刻という女性がいて、それがこの目の前にいる少女、篝の姉だということはわかった。しかしその坂崎という苗字、姉妹、そして篝が巫女装束を身に纏っているということは、コスプレか何かでない限りは十中八九家は神社なのだろう。となると、その神社の名前は――

「あの、もしかして篝ちゃんって、家が神社だったりする……?」

「えっ、何でわかるんです……?」

 不思議そうにそう言った後、自分の服装を見てあっと小さく声を上げ、どこか恥ずかしそうに篝ははにかんだ。

「そ、そっか、私この格好のまま飛び出しちゃったんですね……えへへ……」

「篝ちゃんの神社の名前って……?」

 照れ隠しに笑う篝に永久がそう問うと、篝ははい、と答えるとすぐにその神社の名前を口にした。

「坂崎神社です!」

「坂崎……神社……」

 あまりにも聞き慣れたその名前を繰り返し、永久は思わぬ偶然に唖然とした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ