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World×World  作者: シクル
超会!
49/123

World6-5「絶対脅威」

「まさかこれ……全部コイツがやったってのかよ……!?」

 周囲に広がる惨状を見回し、信じられない、と言った表情でそう呟くと、刹那はそれを肯定するかのように笑みを浮かべた。

「……どうしてここに?」

「意外な話だけど、彼女が私達を連れてきてくれたのよ」

 そう言って由愛が目を向けたのは、依然として銃を構えたまま刹那を睨みつけている美奈子だった。

「次元歪曲システムを使いました。複数人を同時に移動させることは世界に対して負荷をかけるためみだりに使用してはならない規則ですが、時は一刻を争います。やむを得ない状況と判断したが故の行動です」

 まるで自分に対して、判断は正しかったと言い聞かせているような口ぶりで美奈子は言った後、チラリと永久の方へ視線を向ける。

「今まで命を狙っていた私から申し出るのは差し出がましいことかとは思われますが、あのクイーンによる被害を最小限に留めるためにもどうか、協力を」

 いつもと変わらぬ淡々とした口ぶりではあるものの、どこか申し訳無さそうな様子が伺える。数瞬永久は唖然とした表情で美奈子を見つめていたが、やがてニコリと微笑んだ。

「ううん、ありがとう。頼もしいよ」

「感謝します」

 ゆっくりと立ち上がり、永久は刹那を見据える。同じようにして、由愛が、英輔が、美奈子が、刹那へ視線を据える。

「雁首そろえて仲良しこよしね。蟻は象を倒すのに何万匹も群がって倒すって聞いたけど、貴女達は()を倒すのに何匹必要なのかしらねぇ」

 嘲るように笑みをこぼす刹那を、馬鹿にされているのが気に入らないのか英輔が一際強く睨みつける。

「言ってろよ……! 行くぜ永久、こんな奴はココにいさせちゃいけねぇ!」

 英輔の言葉に、永久はコクリと頷いた。

「いちゃ、いけない……?」

 ピクリと。刹那の眉が動く。

「ココに? 私が?」

 初めて刹那の視線に、殺意が込められた。

「誰が、どう決めるの、どういう基準で、私を、ココに、どうして、いけない、私を」

 先程まで流れるように紡がれていた言葉が、唐突に途切れ途切れになる。余裕に満ち満ちていた刹那の表情は歪められており、小刻みではあるものの震えているようにさえ見える。

「……刹那……?」

 永久が訝しげな表情を見せた時には既に、刹那の足は一歩前へ踏み込まれていた。

「――ッ!?」

 突如として英輔の方へ凄まじい速度で接近する刹那へまともに反応出来ず、英輔は表情を驚愕に染めたままその場に立ち尽くしてしまう。

「馬鹿! 何してんのよ!」

 そんな英輔へ咄嗟に飛びつき、由愛が英輔をその場へ押し倒した時には既に、英輔の背後でコンクリートで塗装された道路に穴が穿たれていた。

「な……ッ……あッ……ッッ!?」

 地面にめり込んだ大剣を抜きながら、ユラリと刹那がこちらを振り向く。

「やだ、トローい……そんな小さな女の子に助けてもらわないと避けられないなんてぇ……あはははははははははははははは」

 顎を斜め上に向けて、英輔に対して上から見下すような視線を向けたまま、刹那は狂ったように笑い声を上げる。あからさまな嘲笑ではあったものの、それに対して怒りを露わにしているような余裕は今の英輔にはなく、ただただ反応出来なかった自分を悔いながら、目の前の脅威と自分との力の差を噛み締めることしか出来なかった。

「クイーン……いえ、坂崎永久。今この空間は隔離フィールドです。周囲の建物や人は、あのクイーンによってフィールドが破られない限り安全です」

「ありがとう、美奈子さん」

 美奈子にそう答えて、永久は再び刹那を強く睨みつける。

「……刹那……」

 未だに笑い声を上げ続ける刹那に対してそう呟くが、答えは帰ってこない。もうとっくの昔にわかっていたことだったが、視線の先にある刹那はもう、永久の知っている刹那とは変わってしまっているのだということが嫌というほどわかってしまう。

 後戻りは出来ない。出来ようハズもない。

 ――――動くって、決めたから。

 ショートソードを出現させ、強く柄を握り締めると、永久は勢い良く刹那へと駈け出した。

「刹那ぁぁぁぁっ!」

「……あはっ」

 短く笑い声を上げる刹那に、永久は容赦なくショートソードを振り下ろす。いつの間にか大剣から切り替わっていたショートソードで永久の攻撃を受けながらも、刹那は笑顔を絶やしはしなかった。

「良いわよ永久ぁ……わかるわ貴女の中のコアの力が……強くたぎる貴女の力が!」

 刹那の言葉には取り合わず、上下左右様々な方向から永久はショートソードを振るが、そのどれもを刹那は容易く受けてしまう。

「永久……ッ!」

 そんな様子を目にしながら、英輔は右手に雷の魔術で剣を形成していた。出来上がった剣の柄を確かめるように握り込んだ後、英輔は力強く剣を刹那目掛けて薙いだ。

「こッ……のォッ!」

 すると、英輔の剣の軌道を描くように高密度に圧縮された球状の雷の塊が数個出現し、一斉に刹那へと飛来する。

「あら」

 受け流すだけだった永久のショートソードを弾いて永久のバランスを崩すと、刹那はすかさず永久の腹部へ右足で前蹴りを叩き込む。その不意打ちにたたらを踏んだ永久を尻目に、刹那が飛来する魔力の塊に対してショートソードを一閃すると、それだけで魔力の塊はその場から跡形もなく姿を消してしまっていた。

「なッ……!」

「はーい残念」

 刹那の手に握られていたのは、先程までのショートソードではなくまるで燃え盛る炎のような形の刀身を持った、奇妙な剣だった。

「これならどうよっ!」

 すかさず、由愛の放った黒弾が刹那へと飛来するがそれらもまた、英輔の魔力の塊を消し去った時と同じように、刹那がその剣で一閃するだけでかき消されてしまう。

「嘘っ……!」

「アンリミテッドですらないただの人間に、どうにか出来るわけないじゃない!」

 ケタケタと笑いながら由愛と英輔の元へ駆け出そうとする刹那を止めるかのように、再び永久が刹那へ切りかかる。

「しつこいのね」

「ここまでしつこく追いかけてきたんだもん。諦めるなんて出来ないよ、刹那!」

 永久のショートソードを奇妙な剣で受け止める刹那だったが、やがて永久の剣を弾いて距離を置くと、奇妙な剣を二本のショーテルへと変化させて両手に持ち、永久に切りかかる。その頃には既に永久の身体は光に包まれており、刹那のショーテルを光が収まると同時に永久が受け止めた時には、永久の手にはショーテルが握られていた。

「刹那っ!」

 掛け声のように名前を呼んで、永久はツインテールを揺らしながら凄まじい速度で刹那に対してショーテルを繰り出すと、それに応じて刹那もまた、凄まじい速度を持ってして永久のショーテルを受け止める。

 既に常人では視認が難しい程の速度で動く二人の姿は、由愛や英輔には二つの影のようものにしか見えていなかった。


 固唾を飲んでその影を見つめる英輔や由愛の後ろでは、美奈子が寝そべるような態勢――所謂伏射の姿勢でライフルを構え、ジッとスコープを覗き込んでいた。

 ハッキリと見えるわけではないが、由愛や英輔のように何一つ視認出来ない、というわけではない。微かではあるが永久や刹那の姿を、美奈子はスコープ越しに凝視していた。

 いつまでもこの速度のまま戦い続けるとは思えない。美奈子が狙っているのは、高速の戦いが終わるその瞬間だ。ハッキリと視認出来、かつこちらを警戒する余裕のないその瞬間――そこを、美奈子は狙っていた。

「ぐ、軍人かよ……」

 そんな美奈子をチラリと見て、驚きの声を上げる英輔に対して少しも反応を見せず、美奈子はジッとスコープを見つめる。

「チャンスは、一瞬です」

 瞬間、黒い影が動きを止めた。

 瓜二つなあの二人は、顔や体型では区別がつきにくいが、幸い髪型が違う。美奈子が狙えば良いのは、髪の短い方だ。

 全神経がスコープの向こうの視界と引き金にかけられた指に集中する。汗が滲む。

 本能が、つい先日の記憶を呼び起こし、警告する。アレに関わってはならないと。アレは危険なもので、美奈子ではかなわない超常の化け物だと。

 しかしそれでも、美奈子の指は躊躇うことなくその引き金を引いた。

 逃げることは、美奈子にとって自身の存在を否定することと同義である。アンリミテッドを殺すために育てられ、そのための訓練に人生のほとんどを費やし、今日を迎えた。そこに後悔はないと美奈子は思っていたし、迷うこともなかった。きっとこれからもそうなのだと、思う、思い込む。でなければ、意味などない。今日までの日々を無意味とするくらいなら――

 ――――私は、引き金を引こう。

 発砲音と同時に刹那がこちらへ視線を向けた時には、25mmの弾丸が刹那の右足を貫いていた。

「やったか!」

 歓喜する英輔の声。刹那は右足から血を吹き出しながらその場でよろめいている。

「まだですっ」

 元より一撃で仕留める気などない。美奈子が足を狙ったのは動きを一瞬止めるためだ。

 ぐらりと崩れかけた刹那へ追い打ちをかけるように、美奈子は刹那の左足へ再びライフルの弾を撃ち込むと、すぐに右手の機器を操作して隣に空間の裂け目を出現させ、投げるようにしてライフルを地面に置きながら立ち上がり、裂け目の中に手を突っ込む。

「どいて下さい、坂崎永久っ!」

「えっ……?」

 困惑の声を上げながらも、すぐに刹那から距離を取る永久だったが、その視線は美奈子の手にするソレに釘付けになっていた。

「嘘だろ! なんで持ち上がるんだよ!?」

 本体重量だけでも約十八キロを越え、更に給弾ベルトに加えて起動時の電力供給を行うための大容量バッテリー、それらを考えればおよそ成人女性が両手で軽々と持ち上げられるようなものではないのだが現実、ソレは美奈子によって持ち上げられ、鈍重な音と共に地面に置かれている。

無痛ペインレスガン――耐えられますかっ!」

 美奈子が両手で持ちながらも一体となっている三脚によって支えられたソレは、世間一般的に言うところの「ガトリング砲」だった。通称ミニガンと呼ばれるそれを、美奈子は容赦なく刹那目掛けて連射し始める。

 射出されている弾丸の実に六割以上をその身に受け、糸の切れた人形のように弾を受けた反動だけで動く姿は、これまで残虐な殺戮を行なっていた者と言えども哀れに見える。やがて弾が切れたのかガトリングが弾の射出を止めると、刹那はその場にバタリと仰向けに倒れ込んだ。

「や、やったの……?」

 恐る恐る問う由愛に、美奈子は恐らく、と短く答えながらも硝煙の向こうを凝視する。

「せ、刹那……」

 どこか不安げな永久の声に、答える者はいない。

 やがて立ち込めていた硝煙が完全に消え、美奈子達の視界にクッキリと仰向けに倒れた刹那の姿が映った。

「や、やった……!」

 思わず英輔がそう呟いた……その時だった。


「今のはかったわ……死んじゃうかと思った」


 ゾクリと。寒気。

 M134、通称ミニガン、またの名を無痛ペインレスガン……その通称の由来は“痛みを感じる前に死んでしまうことから”だ。ミニガンによって仕留めることが出来るのであれば「今のは痛かった」……その発言は本来あり得ない。

「やだ、制服ボロボロじゃない。気に入ってるのよこれ……。買い直さなきゃ……」

 ゆっくりと立ち上がったその影は、ニヤリと笑みを浮かべていた。

「弁償、して下さらない?」

 全員の表情が、恐怖に引きつった。

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