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World×World  作者: シクル
超会!
46/123

World6-2「ひきこさん(会議編)」

 超常現象解決委員会とは。

 現実では本来起こり得ないとされる超常現象を解決するために有志によって立ち上げられた非公式団体(厳密には委員会ではない)であり、その活動目的はこの蝶上町ちょうじょうちょうで頻繁に起こる超常現象、怪奇現象を解決し、町民の平和と安全を守ることである。

 超常現象解決委員会――通称、超会ちょうかい。神社にて永久達を包囲していたのは、そういう団体のメンバーで、女性の方は藤堂鞘子とうどうさやこ、少年の方は久々津弘人くぐつひろとと名乗っていた。

 各々の自己紹介を済ませ、永久達が連れてこられたのは蝶上町第三集会所という施設で、二人が言うには「超会本部」らしい。

 中心に置かれた机を囲むようにして、五人で畳の上に座った。

「つまるところ、貴女達は本当に異世界から来た人間で、この世界にあるかも知れない『欠片』とかいうこれまた異世界の物を探しにきたってわけね」

「うん、まあ、そんなところ……」

 どうやらこの超会なる団体の人達は超常現象の類には慣れているらしく、永久達の話にも然程驚いた様子は見せなかった。むしろ興味津々と言った感じで永久達の話に聞き入っており、今までとは違い過ぎるその反応に、永久の方が困惑してしまう程だった。

「なるほどね……。じゃあ、ここ最近この町で起きてる『異次元事件』は貴女達と関係ある、と見て良いのね」

 そう言って、永久の正面側で鞘子は考え込むような表情を見せる。

「その『異次元事件』って……?」

 永久が問うと、鞘子は真っ赤なシャギーボブを右手でかきあげてからああ、と答えてそのまま言葉を続けた。

「ここ最近、この町で突然人や物が現れては消えたり、ちょっと不可解なことが続いてるのよ。何だか異次元を行き来してるみたいで、私達は『異次元事件』って呼んでるわ」

「その『突然現れた人』の話って、聞けないの?」

 話に割り込むようにして永久の右隣りの由愛がそう問うと、鞘子は首を左右に振る。

「異次元から来たっぽい人は皆すぐ消えてしまってて、話なんてとても聞けないわ。そもそも、私達がまともに話が出来た異次元の人って貴女達が初めてよ」

 そう言って鞘子は、どうしたものかしら、と小さく溜息を吐いた。

「そういや、神社で俺達のこと包囲してるみたいに言ってたけど、人数こんだけなのか?」

「超会のメンバーはまだいるけど、とりあえず神社の周りにいたのは私と久々津君だけよ」

「包囲してたんじゃなかったのかよ!?」

「いやだってアレ、ハッタリだし」

 ハァ? とでも言いたげに永久の左斜め前で眉を寄せる英輔だったが、鞘子の方はどこ吹く風と言った様子だった。

「……話戻すんだけど、今回の『異次元事件』って、アンタ達の探してる『欠片』とかいうのの仕業なのか?」

「多分……そうだと思うんだけど……」

 鞘子の左斜め前からそう問うた弘人に答えつつ、永久は訝しげな表情で考え込むようにして口元に手を当てる。

 この世界で異変が起こっている以上、その原因は恐らく欠片にあるのだと考えるのが妥当ではあるのだが、これまでの事件から考えるとどうしても今回の件は規模が大き過ぎるように永久は感じていた。これはあくまで永久の憶測に過ぎないが、その「異次元事件」と呼ばれている現象が世界の境界が歪むことによって起きているのであるとすれば、その規模の大きさはこれまでの比ではない。この世界に来る前に見た入り口のあのひび割れた景色のことも考えると、どうにもただの「欠片による事件」とは思えない。

 何か嫌な感じがする、というのが永久の直感的な感想だった。

 ――――刹那……!

 どうしても思い出してしまうのは、欠片探しの旅に旅立つ前に見た、刹那の力によって歪んだ世界だった。

 あの時、確かに世界は歪んでいた。目に見えてわかる程に不安定だったあの光景は、今でも永久の頭に焼き付いている。

 ――――もしかしたら、いるのかも知れない……。

「刹那……っ」

 小さくそう呟いて、永久は拳を握りしめた。

「そういえばボス、詩安達遅くないですか?」

「そうねぇ。いつもならこれくらいの時間には来てるんだけど……」

 鞘子がそう言ったのと、本部こと第三集会所のドアが開いたのはほぼ同時だった。

「あら、お客さん?」

 そう言って永久達へ視線を向けたのは、永久と同じくらいの長さの黒髪ロングヘアの少女だった。その後ろには同じく少女が一人と、小さな女の子を抱いた女性が物珍しそうな表情で永久達を見つめており、恐らく彼女達は全員この超会という団体のメンバーなのだろうとすぐに察することが出来た。



「なるほど、じゃあこの人達は異次元の人ってわけね」

 そう言って英輔の左隣りに座った黒髪の少女――河瀬詩安かわせしあんは納得したようにうんうんと頷いて見せる。

「ふぅん。あんまり異次元の人って感じには見えないけどなー」

 そう言ったのは詩安の正面に座っている茶髪の少女――河瀬理安かわせりあんで、ツインテールの髪を揺らしつつ、様々な角度から永久達の様子を観察している。ちなみに彼女は詩安の妹らしい。

「駄目ですよ理安ちゃん、そんなにジロジロと人のこと見ちゃ」

 め、と人差し指で理安を制する、鞘子の右斜め前に座る女性は日比野美耶ひびのみやで、茶色い髪を一つに縛って左肩に流している。既に成人、と言った風貌で、鞘子を除けばこのメンバーの中では一番落ち着いているように永久には見えた。

 先程まで美耶に抱かれていた小さな女の子は理安の左隣りに座っており、真っ白なセミロングの髪に真っ白なワンピースという出で立ちで、どちらかというと白より銀に近い髪の色をした由愛と並んで座っているため彼女の方が白に近い、ということがよくわかる。彼女がシロ、と呼ばれていることは弘人の説明でわかったが、詩安達のように自己紹介をしてくれず、ずっと黙り込んだままどこか遠くを見ているような様子だった。

「……」

 由愛はしばらくシロをジト目で見つめた後、永久に飛びつくようにしてシロから離れる。

「……由愛?」

「嫌! なんかかぶってんのよコイツ!」

「……かぶってる?」

 首を傾げてキョトンとする永久に、由愛は不満気な表情でシロを指差した。

「髪とか! 服とか! 色々よ!」

 そんな由愛の様子とは対照的に、当のシロの方は由愛を気にも留めていないかのようにボーっと虚空を見つめていた。



「ひきこさん事件?」

 美耶の言葉を繰り返し、鞘子がそう問い返すと美耶ははい、と小さく頷いた。

 詩安達が本部へ中々来なかったのは、異次元事件とは別の事件に関する情報を彼女達だけで集めに行っていたからのようで、その事件が美耶の言う「ひきこさん事件」だった。

「あ、ひきこさんって言うとあの……」

「永久、知ってんのか?」

 何か思い出したかのように両手を叩く永久に英輔がそう問うと、永久はうん、と答えてそのまま言葉を続ける。

「前に都市伝説の本で読んだんだけど、確か子供を捕まえては引きずり回して殺すとかそんな……」

「ひぃっ」

 永久が言葉を言い切らない内に、両耳を抑えて詩安がその場へうずくまる。キョトンとした表情で永久がそれを見ていると、チラと詩安を見て弘人が小さく嘆息した。

「ああ、詩安な、怖い話とかそういうの苦手なんだよ。いつものことだからあんま気にしなくて良いぞ」

 何でこの人自ら超常現象に関わるような団体にいるんだろう、という疑問についてはとりあえず触れないことにした。

「坂崎さん……でしたよね。彼女の言う通り、ひきこさんって言うのは子供を捕まえて肉塊になるまで引きずり回すっていう……まあ、よくある都市伝説の一つです」

「口裂け女とか、そんな感じのと似たようなモンなんだな」

 何度も小さく頷きながら言う英輔に、そんな感じですね、と答えて美耶は更に話を続ける。

「白いぼろぼろの服で、背が高くて、傷だらけの顔で、雨の日に現れて……っていうのが通説みたいですね」

「ま、大体これに書いてあったんだけどねー」

 言いつつ理安が見せびらかすようにこちらへ振って見せたのは、「超絶都市伝説大全」と書かれた本で、コンビニの漫画コーナーにでも置いてありそうな感じの本だった。どうやら図書館か何かで借りてきたもののようで、本全体に薄い保護シールのようなものが貼ってある。

「ひきこさん、という名前については諸説ありますね……。ひきこもり、から来てるとか、単純に引きずるからひきこさん、とか」

「引きずるってのはわかりますけど、ひきこもり、っていうのは……?」

 弘人が美耶にそう問うと、同じことが気になっていたのか英輔も美耶の方へ視線を向ける。

「何でも、ひきこさんっていうのは苛烈ないじめを受けた女の子ってのが通説みたいなんです。それでひきこもってひきこ、だとか………酷い話ですよねホント」

 他にも説はあるみたいですけどね、と付け足して、美耶は一息吐いた。

「で、この町でボロボロの肉塊になった死体でも発見されたってわけ?」

 鞘子の問いに、美耶と理安はほぼ同時に首を左右に振る。

「被害者の話はまだ聞いたことないんだけど、なんか理安のクラスで話題になっててね、結構色んな人が目撃したみたいなんだよー」

 写メもあるし、と言いながら理安はポケットから携帯を取り出して操作した後、鞘子へ手渡した。

「ふーん……確かにひきこさんの特徴と合致してるわね……」

 そう言って、鞘子は携帯を順番に回していく。

「あ、ホントだ」

 ややぼやけてはいるが、携帯に写っている女性は確かに長身で、ぼろぼろの白い服を来ているのがわかる。顔が傷だらけかどうかは、髪で顔が隠されているせいでよくわからないが一目で「ひきこさん」だ、と判断出来るような姿だった。

「すごくひきこさん……」

 そんな間の抜けたコメントを残しつつ永久が隣の由愛へ携帯を回そうとしたが、由愛は受け取ろうとせず、それどころかそっぽを向いたまま反応を示そうとしていない。

「……由愛?」

 永久の言葉に、由愛は答えない。

「お前まさか怖いんじゃないだろうな?」

 茶化すように言う英輔に、ギロリと鋭い視線が由愛から英輔へと飛ばされる。

「……そんなわけないでしょ……バカ」

 でもちょっと震え声だった。



 ひきこさんの目撃された場所は理安の話によると三箇所あり、それらは全て理安が学校でクラスメイトから聞いてきた情報のようだった。

「一つ目は、蝶上小学校付近。これは前にひろっちが調査に行ったとこだね」

 理安の言葉に、ひろっちこと弘人が小さく頷く。

「二つ目は住宅街……朱鷺田辺りだね」

 永久達にはわからない地名だったが、町民である超会のメンバーには当然伝わっており、永久達以外には全員どの辺りなのか大方検討はついたらしい。

「それで三つ目が……理安の中学付近」

「そう、そこまでわかってるなら後は地道に調査するだけね」

 腕を組んでそう言った後、鞘子は自分の横に置いているバッグの中からメモ用紙とボールペンを取り出すと、メモ用紙を一枚切り離してその上にサラサラと何かしら書き始める。

「ひきこさん事件がその子達の言う『欠片』が原因の可能性もあるし、先にこっちの事件からどうにかしましょう」

 そう言いつつ、書き終わったメモ用紙を机の中央へと滑らせて、鞘子は小さく息を吐いた。

「今日は臨時メンバーも含めて九人もいるわけだし、全員で三つの目撃場所を三グループに分かれて調査するわ」

「臨時メンバーって俺達のことかよ!?」

 自身を指差しながらそう言った英輔に、鞘子はそうよ、と涼しい顔で答える。

「調査は道連れ世は情け、渡る世間は鬼ばかりって言うでしょ」

「言わねえしそれだと結局世の中鬼ばっかかよ!」

「細かいことは良いから、折角だし一緒に調査しましょ、桧山君」

「……ま、良いか」

 屈託なく笑った鞘子に毒気を抜かれたのか、英輔は小さく溜息を吐いた後、そう答えてメモ用紙へ目を通した。

「ひきこさん事件……調査開始よ!」

 鞘子の掛け声に、何だかんだでほぼ全員が力強く頷いた。


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