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World×World  作者: シクル
落ちていた魔導書。
26/123

World3-7「父の背中。」

 この世界の魔術には系統があり、火、水、風、土、雷の五つの属性が存在する。これらの属性は初めて魔術を使用した際に判明し、特殊な例を除けば一人の魔術師に一つの属性しか与えられないため、二つ以上の属性を駆使することは出来ない。

 魔術師は体内に存在する魔力を、自分の属性に変化させることで魔術として扱う。例えば火の魔術師なら、魔力を火へ変換し、それを自在に操って戦うのだ。

「洗いざらい吐いてもらうぜ……お前らが起こした事件についてなッ」

 目の前の女を睨みつけ、英輔がそう言うと同時に英輔の周囲で静電気の弾けるような音が鳴り響き始めた。

「意外とやりそうなのね、貴方って」

 英輔の周囲で鳴り響く音は次第に大きくなっていき、やがて英輔の身体が光を帯び始めると、英輔は静かに身構える。

 英輔の纏う光は素早く英輔の右腕へと集中し、やがてそれらは手の平へと集約する。英輔が女へと手をかざした頃には、光は剣のような形状へと変化し、英輔の右手に握られていた。

「電流の剣、ねぇ」

 英輔の魔術属性は、雷だった。

「行くぞッ!」

 そう言うやいなや、英輔は駆け出して女目がけて剣を振るが、女はひらりと身をかわしてその剣を避ける。続け様に英輔は剣を振り回すが、女は必要最低限の動作でそれを回避し続け、徐々に焦りを見せ始める英輔を涼しげに眺めていた。

「かわいいのね」

 そう言って女が英輔から距離を取ると、女の目の前で円を描くようにして五つの火の玉が出現する。それに気づいて英輔が身構えると、女はニヤリと笑みを浮かべた。

「頑張って避けてね」

 ピン、と。女が火の玉の一つを、指で弾くような動作を見せると同時に、五つの火の玉は勢いよく英輔目がけて飛来する。

「おおおおおおッ!!」

 雄叫びを上げ、英輔が剣で自分の前に円を描くと、その軌跡は電流の円となり、やがてそれは壁となって五つの火の玉を防ぐ。

 それを見て女が感心したように声を漏らしていると、すぐさま英輔は女との距離を詰め、剣を薙いだ。

「せっかちね」

「――ッ!?」

 英輔の剣は、すんでの所で止められていた。

 英輔の剣は雷に、電流に変換された高密度の魔力の塊だ。それこそ英輔以外が素手で触れば無事ではすまないような代物である。それを、その剣を――

「焦った顔、かわいいのね」

 女は右手一つで止めていた。

 いや、正確には右手の一点に集中させた魔力の炎……それで英輔の剣を止めていたのだ。

「こ……ッ……のッ!」

 無理にそのまま剣を振り抜こうとするが、女は涼しい顔を見せたまま微動だにしない。

「遊びは終わりにするのとまだ遊ぶの……どっちが良い?」

「ふざけ――」

 英輔が言葉を言い切るよりも、女の前蹴りが英輔の身体を後方へ吹っ飛ばす方が早かった。

 派手に吹っ飛び、英輔は背中から地面に倒れ、小さく呻き声を漏らす。すぐに英輔は立ち上がったが、その表情は焦燥と困惑で埋め尽くされていた。

 圧倒的実力差。

 想定の範囲を大幅に越えた戦力差に、英輔は動揺を少しも隠すことが出来なかった。

 そんな英輔に、女は冷たい視線を向ける。

「聞いといて悪いんだけど、私飽きちゃったから遊びは終わりの方向でお願い。ごめんね、お姉さん自分勝手で」

 おどけたような口調で喋るが、その表情は冷たい。彼女の手の上で燃え盛る炎でさえも凍てついてしまいそうなその表情に、英輔は恐怖を覚えずにはいられなかった。

「貴方が動けなくなったら、吸ってあげる」

 小さく女が舌なめずりすると、女の目の前に炎の刃が形成される。霧島雅が使っていた風の刃と、属性こそ違うものの同じものである。

「最後に教えてあげる。私はキルエラ。史上最強最大の悪魔、ルシファー様の誇り高き眷属よ」

 名乗り、女……キルエラの目の前の刃が英輔目がけて飛ばされた――――その時だった。

「英輔ッッ!」

 背後から突然聞こえた声に驚く間もなく、英輔の身体は横に吹っ飛ばされた。

「な――ッ!」

 そして次の瞬間、英輔の前に男が踊り出ると、持っていた刀で火の刃を勢いよく切り裂いた。

「あら……」

 やや残念そうな表情のキルエラの前には、刀を持った男が一人、英輔を守るようにして立っていた。

「テメ……何しにきやがったッ!」

 背中から怒声を浴びせられながらも、男は――桧山晃は振り返って微笑んで見せた。

「待たせたな……英輔」

「待ってねえよ!」

 そう言いながらも、安堵で緩んでいく自分の表情に、英輔は気づかない。

「親らしいとこ……そろそろ見せてやるよ」

 そう言ってキルエラへ視線を戻す晃の背中を、英輔は呆然と見つめる。

 逞しく、強く、大きな背中。まるで壁のように目の前にあるソレに、英輔は目を離せない。

 ――――親父の背中……こんなにデカかったのかよ……。

 思わず緩みかける涙腺にハッとなり、英輔は慌てて首を左右に振ると、晃の隣へそっと立ち、剣を構えた。

「親父なんかに任せられっかよ」

「もっと信用してくれても良いんだぜ?」

「へっ……誰が」

 憎まれ口を叩きながらも綻ぶ英輔の表情に、晃は思わず笑みを浮かべた。

「英輔! 晃さん!」

 そうこうしている内に、プチ鏡子を肩に乗せた永久と、由愛が英輔達の元へ駆け寄ってくる。

「あら困ったわね……四対一はちょっと無理だわ」

 キルエラがそう言った――その時だった。

「――っ!?」

 突如吹いた風に、永久と由愛の二人だけが数メートルその場から吹っ飛ばされる。

「何よこれ!」

 由愛が悪態を吐いたのと、二人の目の前に一人の女が降り立ったのはほとんど同時だった。

 お下げに結われた長い髪を揺らしながら降り立ったその女は、余裕のある表情で永久と由愛の二人へ視線を向ける。

「多勢に無勢……卑怯なんじゃなぁい?」

「新手……っ!?」

 身構える永久と由愛とは対照的に、腕を組んだまま永久達を見つめるその女の態度は正に余裕綽々、と言った様子だった。

「あら、プリセラじゃない」

「加勢、させてもらうわ」

「じゃ、お願いしようかしら」

 キルエラのその言葉に、プリセラと呼ばれたその女は不敵に笑みを浮かべた。



 瞬時に永久はショートソードを出現させ、プリセラを見据えて身構える。

「見せてあげるわ私の魔術……最高最速超高速の世界でまるで自分だけ時が止まったかのように――」

 プリセラの周囲に強い風が吹き始め、やがてその風はプリセラの身体を覆っていく。

「死ぬが良いわっ!」

 そして風を纏ったプリセラは、永久達の視界から姿を消した。

「えっ――」

 永久が戸惑いの声を上げた瞬間には、永久の腹部にプリセラの拳が直撃していた。

「か……はっ……っ……!?」

 激痛に声をもらしながらも、何とか目を凝らす。早過ぎてブレて見えてしまうが、確かにそこにプリセラは存在た。

 プリセラは消えたのではなく、風の魔術による加速で絶え間なく移動することで、永久達にとって視認しにくい状態になっていたのだ。

「ちょっと、こんなの目で追えないわよ!」

「風が目で追えるわけないじゃない! 私はよっ!」

 高速で周囲を飛び回るプリセラを、永久も由愛も目で追うことが出来ない。いつ来るかわからない攻撃に怯え、ただただ身構えるだけだった。

「だったら……!」

 グッとショートソードの柄を握り、永久がそう言うと同時に永久の身体を眩い光が包む。

「これならどうだっ!」

 白い胴衣、紺の袴。ポニーテールを揺らしながら、永久は素早くを構えた。

 途端に永久の雰囲気が張り詰める。

 ――――集中……集中……。

 心の中でそう繰り返し、プリセラの動きを見極めるために意識を視覚に集中させる。夢幻世界で由愛の黒弾を見切ったこの姿なら、プリセラの動きを見切ることだって出来るかも知れない。由愛の黒弾よりプリセラの方がやや早いかも知れないが、今はこれしか方法がない。

「集中。集中――」

 瞬間、永久の目がプリセラを捕える。

「そこっ!」

 まるで居合抜きのように、永久はプリセラ目がけて刀を薙いだ――が、返ってきた感触は永久の予想とは全く別の感触だった。

「な……っ!?」

「風を切れるとでも思ったのぉ?」

 永久の刀は、プリセラの纏う風によって防がれていたのだ。

 刀によってややプリセラの風に亀裂が入っていたものの、プリセラが永久から距離を取った頃には既に元の傷一つない状態へと戻っていた。

「私は風っ! 風よ! 現象なの!」

「嘘……じゃあどうしろってのよ……」

 永久の隣でそんな言葉を漏らしたのは、驚愕で表情を歪めた由愛だった。

「貴女に私は見切れない」

 プリセラの挑発的なその言葉に、永久は歯噛みすることしか出来ずにいた。


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