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World×World  作者: シクル
The end of journey
118/123

World15-1「その絆」

 全ての世界の中心であり中核であるコア。そのコアの存在する世界へ降り立ち、永久達はゴクリと生唾を飲み込んだ。

 大地は荒れ果てており生命の気配は感じ取れない。空は晴れているものの、どこかこの場所全体が乾いているように見える。この世界にコアが存在する、と言われてもあまり実感は沸かないが、刹那を警戒しているせいか全員の中に言いようのない緊張感が満ちている。

「……!」

 不意に永久が表情をピクリと動かすと同時に、前方に空間の歪みが発生する。慌てて全員が身構えると予想通り歪みの中からは刹那が姿を現した。

「刹那っ!」

 すぐに永久は刹那の元へ駆け出すが、刹那は永久に目もくれずに背を向け、そのまま指を鳴らす。その見覚えのある動作を由愛達が永久の後ろで凝視していると、凄まじい数の魔法陣が上空に出現する。

「あれってビショップの……!」

 無数の魔法陣から地面へ降り立ったのは、夥しい数の蝿怪人達だった。ここに来る前に永久達が予想した通り、やはり蝿怪人を足止めとして使ってくるらしい。数は多いもののこの程度を突破出来ない永久達ではないため、どちらかというと永久の消耗が主目的だろうか。

「ちょっと待てよ! 何でアイツが……!」

「永久、もしかして……」

 憶測を口にしようとした鏡子に、永久は小さく頷いて見せる。

「多分、ビショップのコアを取り込んでる」

 元々刹那と他のアンリミテッドは味方同士だったわけではない。封じられていた他のアンリミテッドを解放したのも、そのコアをいずれ奪うためだったのだろう。

 怪人達は早足でこちらへと歩み寄って来る。最早まともに数えることもかなわなさそうなこの数なら、すぐに永久達を取り囲んでしまいかねない。

「クソッ……行くぞ!」

 英輔の言葉をゴングに、四人は一斉に怪人へ襲いかかる。一体一体はやはり大した力を持っていないが、この数が相手では少し油断しただけでも命取りになる。

 それに、永久は今から刹那との最終決戦を控えているのだ。なるべく温存しておきたい、というのが永久の本音だったし、他の三人もそのつもりでいる。

 英輔の身体はかなり回復しており、全快とは言えないものの魔術もある程度は使えるくらいにはなっている。しかし永久、鏡子、由愛、英輔の四人で応戦してもこの人数を全員で突破するのはまず不可能だ。ここに美奈子が合流してくると考えても、やはり永久達にとって不利であることには全く変わりがない。

「おい……永久!」

 怪人を殴り倒しつつ英輔はそう叫ぶと、そのまま永久の反応を待たずに言葉を続ける。

「ここは俺らでどうにかする、お前は刹那と決着つけてこい!」

「で、でも皆をおいてなんて……!」

「私達でなんとか持ちこたえるから、永久は早く!」

 英輔や由愛の言う通り、永久はこんなところで足止めを食っている場合ではない。しかしだからと言って三人をおいてそのまま進むのは憚られる。本当に三人で対処出来るのならまだしも、この数が相手だと無事ではすまない。

 そうして永久が戸惑っている内に、永久の背後から二体の怪人が迫り来る。

「永久っ!」

 鏡子の言葉でハッと我に返り、永久が後ろを振り向いた――――その時だった。

「――――っ!?」

 二体の怪人が、二本の刀と二人分の人影によって斬り裂かれる。突然のことに目を見開く永久の方へ、突如乱入した人影が……二人の少女が振り返る。

「よう、借りを返しに来てやったぜ」

 紺のブレザーに青いチェック柄のスカート、長い黒髪を舞わせたその少女の名は、美奈。

「お久しぶりです、坂崎さん」

 どこか銀色にも似た美しい白髪でセーラー服の少女……彼女の名は、城谷月乃。

「そんな、どうして……!」

 夢幻世界と呼ばれる世界で、元の世界へ戻りたいという願いが欠片を暴走させていた美奈。大切な人の死を受け止めきれず、必死に強がっていた月乃。二人共、永久が旅の中で出会った人物だった。

 本来異なる世界同士が交わることはない。永久のような存在や、次元管理局のような技術を使わない以上別の世界へ移動することは不可能である。そのことから考えるとこの二人は――――

「すいません、遅くなりました」

「美奈子さん!」

 空間の歪みから現れた女性、下美奈子はポニーテールを揺らしながら静かに微笑む。

「次元歪曲システムで世界を巡り、あなたと関わりのある人達に応援を頼んで来ました。他にも数人、既にこの世界に来ているハズです」

「美奈子さん……!」

 そう、美奈子はこの大量の蝿怪人との戦闘を見越して、様々な世界へ救援要請を出していたのだ。アンリミテッドからの襲撃を受けて人員が不足している局からはあまり人を呼べなかったものの、永久と今まで関わった人達、永久に助けられた人達は美奈子の要請を快く受け入れたのだ。

 美奈と月乃だけではない、周囲では次元管理局から来たと思しき男女が蝿怪人達と戦っている。更に英輔のいる世界から来たのであろう霧島雅やアクネス、アルビーが応援に来ており、既に怪人達との戦いに身を投じていた。

「お、お前らッ!」

「悪かったな、リンカさんじゃなくって」

 悪態を吐きながらも、雅は怪人を風の魔術で切り裂きながら笑みを浮かべる。

「英輔様! この戦いが終わったら、わたくし達……結婚を前提にしたお付き合いを……!」

「姫様、お言葉ですが状況をお弁えください」

「お黙りなさいアルビー、正論だけどお黙りなさい」

 そんなことをピシャリとのたまうアクネスだったが、アルビーは満足気に微笑んでいる。明らかに場違いなやり取りではあったものの、好転した状況もあいまって二人のやり取りは全員の士気を上げる形になった。

「ありがとよ……! っし、行くぜ、お前らァッ!」

 英輔の掛け声で高揚した一同が一気に畳み掛けるようにして怪人達をなぎ倒していく。この様子なら、任せて行っても大丈夫だろう。そう判断して、永久は強く拳を握りしめた。

「お願い……皆。ありがとう!」

「……任せといて!」

 永久の言葉に笑顔で応え、怪人達と戦おうとする由愛だったが、英輔はそれを右手で制止する。

「いや、お前は永久と行って来い」

「えっ……?」

「見届けてやってくれ、アイツの戦いを」

 英輔の言葉に戸惑う由愛の背中を押すように、今度は鏡子が微笑みかける。

「お願い、支えてあげて」

 鏡子のその言葉でついに意を決したのか、由愛は力強く頷くと、ありがとう、とだけ一言残して永久と共に怪人を蹴散らしながら前へ進んでいく。そんな背中を見送って、英輔は安堵の溜息を吐いた。

 そんな英輔の背後から、怪人が襲いかかる。数瞬遅れて反応する英輔だったが、英輔が対応するよりも素早く英輔の背後に現れた美奈が怪人を斬り伏せる。

「危なっかしいな。背中がら空きだぜ」

「おう、悪いな」

「なーんかよくわかんねーけどさ、ほっとけねーよお前。背中、任せてくれ」

「……ああ、勝手にしろ」

 振り返って英輔は美奈と顔を見合わせて微笑んだ後、すぐに眼前まで迫ってきた怪人達との戦いへ意識を集中させた。





 刹那の向かって行った方向へ進んで行くと、そこには閉じられていない空間の歪みが存在した。刹那が開いてそのままにしておいたものなのか、それとも元々ここにあったものなのかは判断出来ないが、恐らく刹那が向かったのはこの向こうだろう。

「ねえ待って、これ罠じゃ……」

「ううん、違う。わかるんだ、この先に刹那がいること」

 この歪みの向こうは別世界ではない。永久にはそれをハッキリと感じ取ることが出来たし、何よりこの向こうには刹那の気配がある。恐らくコアは今永久達がいる世界とは少しだけズレた場所にある。あの路地裏の境界のような空間に近い場所だろう。

 すぐに永久は歪みへと向かったが、次の瞬間には地面に無数の魔法陣が出現し、再び怪人の大群が姿を現した。

「嘘……まだこんなに!」

 数は先程の怪人達とそれ程差はないように見える。この数を二人で相手するのは厳しいが、永久の扱うあの大剣の力で一旦道を作ってその間に駆け込むことは可能だ。

 しかしその策はそれなりの消耗を伴う。刹那との戦いはなるべく万全の状態で臨みたいことを考えると、何か別の策はないものかと思わず思索してしまうが、案は浮かばない。

「……私、ここに残る!」

「由愛! 無茶だよこんな数……!」

「でも、でも私が残るしかっ……!」

 それはただの囮でしかない。この数を相手に由愛一人で戦えるわけがないし、仮に永久がここを最低限の消耗で突破出来たとしても、由愛は数分と経たない内に怪人の餌食になってしまうだろう。

「こうするしか……!」

 やむを得ず大剣を出現させ、永久は振り上げる。この一撃で道を開き、由愛と一緒に突破するしかない。

「待ちな」

 しかし大剣を振り上げた永久の右肩を、背後から叩く者があった。

「えっ……?」

 声の主は”ソフト帽”を抑えながらキュッと胸のネクタイを締め上げる。丈の長いロングコートをなびかせて、その男は永久の前へ立つ。

「探偵業……っつーには荒事過ぎるがな。ま、出張サービスってことで」

 そこに立っていたのは、七重探偵事務所の探偵――七重家綱だった。

 そして家綱より少しだけ遅れて姿を現し、由愛の傍まで近寄ってきた怪人を”大剣”でなぎ払う少年の姿がある。ボサボサの白髪をしたその少年は、力強く大剣を振り回して怪人達を次々に撃破していく。

「う、嘘っ……アンタ……!」

「行って来いよ。きっとアイツはテメエの”居場所”……なんだろ?」

 その少年を由愛は、永久は知っている。数瞬驚いたような表情を見せた後、由愛はいつになく素直に表情を明るくさせてその名を呼んだ。

「チリー!」

 言葉では応えずとも、怪人と戦うチリーの背中が由愛に応えた。


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