表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
World×World  作者: シクル
幕間
116/123

「黒き女王」

 キングを撃破した後、プルケーが逮捕されたのを確認し、ダン達に別れを告げた永久達はすぐに客室へと戻った。キングとの戦闘によって受けたダメージと疲労は決して軽くはなく、あまり時間がないとは言えど一時休息を取らざるを得なかった。

 そうしてしばしの休息を取った後、回復した永久はすぐに自分のいる部屋に全員を集めた。

「それで、話って?」

 全員が部屋に集まったのを確認して由愛がそう問うと、永久は小さく頷いてから口を開いた。

「欠片は多分、前回ので最後だと思う。後はビショップと……刹那だけだよ」

 永久の言う通り、世界に散らばった欠片がもう残っていないのであれば、やるべきことは残りのアンリミテッドを倒すことだけだ。キングを撃破出来たのは良かったが、まだ実力が未知数なビショップ、そして永久同様以前より力を増しているであろう刹那……。

「……しかし、居場所が特定出来ないのでは? 何か心当たりが?」

「うん、あるよ」

 短く答えて一度言葉を区切り、永久は一息ついて見せる。

「刹那の目的って、みんなにきちんと話したことあったっけ?」

「話すも何も永久の口から聞いたわよ。世界を壊すんでしょ」

 それは他でもない、永久自身が言ったことだ。この世の何にも意味がない、悲しいだけのこの世界を壊してしまう。それが目的だと。

「けどよ、世界を壊すったって具体的にはどうすンだよ? まさか一つ一つぶっ壊して回るわけじゃねーだろうし」

「あ、そっか。そうよね……」

 英輔の言葉に頷き、由愛は下唇に人差し指をあてる。

「うん、今から話すのはそのことについてなんだ」

 永久がそう言った途端、何かを察したかのように表情を変えたのは鏡子だった。

「桧山鏡子、何か心当たりがあるのですか?」

「……コア」

 小さく呟いた鏡子の言葉に、その場にいた全員が耳を傾けた。





 とある世界の海岸の崖で、刹那は何をするでもなく佇んでいた。

 特に何か目的があったわけではない。ただ一人で海を見たい気分だったからそうしているだけで、後数分もしない内にこの世界から離れるだろう。

 空は薄暗く、雨こそ降っていないものの雨雲に覆われている。まだ時刻は正午くらいだったが、海は夜のように真っ黒に見える。潮風に黒髪をなびかせながら刹那が海を眺めていると、背後で空間の歪みが発生するのを感じた。

「刹那様、坂崎永久の手によって陛下が亡くなられました」

「……そう」

 振り返りもせず、さして興味もなさそうに刹那は現れた男――――ビショップへ短く答える。

「それだけかしら?」

「……失礼ですが、何の感情も抱かれないのですか?」

「べっつに。わざわざそんなことを伝えるために――――」

 言いかけ、刹那は自分の左右に魔法陣が出現していることに気がつく。それがビショップによるものであることは明白で、刹那は小さく舌打ちする。

 魔法陣の中から飛び出したのは炎だ。こんなものでアンリミテッドを倒せるわけがないのはビショップ自身わかっていることだろう。単なる威嚇か、それとも不意打ちで少しでもダメージを与えておこうという魂胆か。どちらにせよ、わざわざ受けてやる理由もない。刹那は高く跳躍して左右の炎を回避すると、ショートソードを出現させてそのままビショップとの距離を詰め、ショートソードで切りかかる。

「フヒッ」

 薄気味悪い笑い声と共に、ショートソードがビショップに当たる直前で食い止められる。ビショップの魔力によって展開された魔力障壁だ。

「何のつもりなのかしらね……?」

「べっつに。陛下亡き今、小娘に付き従う理由もないかと思いまして」

 刹那の先程の言葉をわざとらしく真似たビショップを、刹那は正面から静かに睨みつける。

「ほざいてなさいよ、魔法使い”風情”が!」

 不敵に笑みを作りながらも、刹那の言葉には確かな怒気が込められていた。





 世界が無限に広がっていることは、最早永久達にとっては当然のことであり、わざわざ説明する必要もないくらい周知の事実である。時代も、文明レベルも、何もかもがバラバラで別々の世界が無数に広がっている。それを管理し、調停を保とうとするのが美奈子達次元管理局で、また別の形で世界の境界を管理していたのが鏡子だ。

 しかし世界は、最初からいくつもあったわけではない。

「じゃあ、最初は一個だけだったっつーのか?」

「刹那はそう言ってた。一番最初に生まれた世界、オリジナルが存在するって」

 英輔の言葉に永久がそう答えると、傍で鏡子も首肯する。

「ええ。無限に広がる世界……その中心に位置する最初の世界が存在する。これは昔私があの龍から聞いた話よ」

 刹那だけではなく、あの境界の龍も言っていたのであれば英輔達にとっての信憑性は一気に増した。

「……管理局ではその説は最も有力とされていました。実証するものがなく、そのオリジナルと呼ばれる世界に辿りつけなかったので憶測の域を出ませんでしたが……。ではその世界が――――」

「そう。それが、世界のコア・・

 美奈子の語を継いで、永久は重々しくそう口にした。





 ショートソードから切り替えた退魔の剣――――フランベルジュによって刹那は魔力障壁を切り裂いたが、既にビショップは刹那から距離を取っていた。

 刹那のフランベルジュは、魔力や超常的な力によって形成されたものを無力化させる力がある。これがある以上魔力を扱うビショップは、刹那は勿論永久と戦うのも圧倒的に不利なハズである。それをわざわざこうして襲い掛かってくるのには何か勝算があるのだろう。

 刹那の持つコアは自身のコアが半分とポーンのコアが半分。元々刹那のコアは永久より多かったハズだったが、かつて均等に分け合ったため、ナイトのコアを取り込んでいる分永久の方がコアを多く持っていることになる。恐らくビショップは、刹那が永久からコアを奪ってしまう前に倒してしまおうという算段なのだろう。今の刹那のコアはアンリミテッド一体分、ビショップと互角だ。元々虎視眈々と下克上の機会を狙っていたのか、それともキング以外に従う気がないだけなのか判断はつかないが、舐められている気がして刹那は心底不愉快だった。

 視線の先にビショップを見据え、刹那はすぐにビショップと距離を詰めようとするが、ビショップが何事か呟きながら両手を振ると、刹那の左右から凄まじい量の水流が迫って来る。

「――――っ!」

「さ、ただの海水ですよ。無力化して見せてください」

 この水流はビショップが魔力で作り出したものではなく、ビショップの言う通りただの海水だ。魔力によって形成されたものだけを無力化出来るあのフランベルジュでは、この水流は無力化出来ない。

「……ちっ」

 舌打ちしながら武器を大剣に切り替え、衝撃波で水流を相殺したものの、全てを相殺することは出来ない。残った水流が刹那を捕らえ、そのまま海中へと引きずり込んでいく。

「……ククク」

 海に落ちていく中、ビショップの薄気味悪い笑い声が辛うじて耳に届いた。



 海中で目を開くと、そこには刹那が落ちてくるのを待っていたかのように二体の異形が刹那を凝視していた。刹那から見て正面にいるのは半人半魚の、人魚のような姿をした異形だ。上半身は人間の女性のように見えるが、大きく裂けた口からは鮫のような牙が覗いている。そして背後にいるのは、星形の怪物だ。色は黒く、星の中心と五つのかどに目がついており、ギョロギョロと蠢きながら刹那を見つめている。

「ふぅん、そう……」

 二体の異形に大して動じる様子もなく、刹那は余裕たっぷりに笑みを浮かべて見せた。





「全ての世界の始まりであり、その中心。そのコアは、多分どの世界とも繋がってる」

 神妙な面持ちでそう語る永久の前で、由愛と英輔はゴクリと生唾を飲み込む。もうここまで話せば、刹那がどうやって世界を壊そうとしているのか考えなくてもわかってしまう。

「じゃ、じゃあ、そのコアを……ぶっ壊しちまったら……」

「全ての世界が……」

 恐る恐る口にする英輔の言葉を、思わず由愛が繋ぐ。その二人に対して深く頷いて見せたのは、永久ではなく鏡子の方だった。

「全てが滅ぶわね、刹那の思惑通りに」

 今まで漠然とか感じられていなかった危機感が、急にその重みを増す。刹那の目的が具体的になったことによって、世界が崩壊するビジョンが誰にとっても明確なものとなってしまったのだ。

「きっと刹那は、かなり早い段階でそう決めてたんだと思う。もしかしたら、あの日からずっと……」

 ――――私は……思い出したわ。貴女は何も思い出さないの……?

 全てを壊してしまいたい、きっとその思いはレイナのものだ。永久と刹那は均等に分かれたようでいて決してそうではない。刹那は、永久から分かれたレイナの黒い感情だ。たまたま永久がそうでなかっただけで、逆だって十分にあり得た。

「刹那の目的は世界のコアの破壊……。私は、それを止めなくっちゃいけない」

 強い意思を湛えた永久の双眸が、真っ直ぐに前を見据えた。





 海中で二体の異形に挟まれてはいるものの、刹那には特に焦る様子は見られない。正面の人魚はどうやら水流を操っているようで、刹那を後方の星形の方へ追いやろうとしている。星形の方は目から怪光線を放って刹那を攻撃しており、六つの目から放たれる怪光線は刹那でもなるべく喰らいたくないような威力を持ってして周囲の岩や地面を抉っていた。

 何とか人魚の方へ近づこうと泳ぐ刹那だったが、人魚の操る水流はかなり勢いが強く、常人ならとっくの昔に星形のすぐ傍まで追いやられていてもおかしくはない程だ。

 怪光線は速度こそ速いものの、目の位置から直線にしか撃てないようで避けることは刹那にとってそれ程困難ではない。

 刹那としてもあまりこの二体と遊んでやるつもりはない。しかしビショップがわざわざこの二体を用意しているということは、刹那を海中に叩き落としたのにも当然思惑があるのだろう。所詮時間稼ぎだろうが、問題はその稼いだ時間で何をするつもりなのかである。

 奥の手か何かでも用意しているのだろうか。そもそもビショップは現状ダメージらしいダメージを受けていない。如何に刹那と言えど、全開のアンリミテッドと戦うとなればそれなりに消耗はする。この後ビショップと戦うことを想定すればそれなりに温存はしておきたかったが、このままここでビショップの思惑通り足止めをされているわけにもいかない。

 ――――そろそろ片付けようかしらね。

 心の内でそう呟き、正面の人魚から処理しようとした瞬間、星形から六つの怪光線が発射される。今まで通りの直線かと思われたが、その怪光線は鋭角を作りながら刹那目掛けて軌道修正されたのだ。

「っ……!」

 最初からこうしなかったのは、今までの攻撃がただのブラフに過ぎなかったためだろうか。あの星形にそれだけの知性があるのかどうかなど今は判断出来ないが、とにかくしてやられたのには違いない。

 避け切れず、怪光線は刹那へと集中する。刹那を中心に無数のあぶくが広がっていき、一時的に刹那の姿を隠した。

 異形二体は表情を変えない(そもそも星形の方は顔がないように見えるが)。ただ黙ってあぶくを見つめるだけである。

 しかしあぶくが掻き消えた瞬間、先に人魚の方が刹那の姿をとらえる。そしてその時、人魚は無表情だった顔を一変させた。

 刹那が、人魚に背を向けたまま笑う。

 黒い翼を海中で広げた刹那が、ショートソードの切っ先を星形の方へ向けていた。

 ――――文字通りの雑魚が。

 翼を伴う、ショートソードを扱うその姿。それは永久同様、自身の体力と引き換えに衝撃やダメージを相殺する力を持つ。刹那は星形の放った怪光線を、その力で相殺して見せたのだ。

 すぐに、刹那のショートソードに黒いオーラが宿る。それに気付いた星形が回避行動を取るよりも、ショートソードが星形に投擲される方が早い。中心の眼球にショートソードが突き刺さった星形に見向きもせず、刹那は大剣を出現させて人魚の方へ振り返る。

 そして次の瞬間には、海面に巨大な水柱が立っていた。



 突如海面に立った巨大な水柱に、ビショップはフードの下で驚いたような表情を見せる。派手な音を立てながら水柱が消えると同時に、その中から現れたのは刹那だった。

 濡れた漆黒の翼を羽ばたかせ、刹那はチラリとビショップへ視線を向ける。

「それで? この程度で私をどうにかするつもりだったの?」

「それは……それはそれはそれは滅相もない。この程度は想定内でごぜーますよォ……!」

 答えるビショップの身体が、メキメキと厭な音を立てながら変化していく。着ているローブを突き破り、ビショップの身体は次第にその質量を増していく。

 これが狙いか、とでも言わんばかりに刹那は察したような顔つきで黙ったままビショップを見つめる。

「さあ、さあさあさあさあ始めましょうか小娘様殿ォッ! ぶち殺して差し上げになってご覧に差し上げェェェェッ!」

 巨大化したビショップの身体は、二枚の薄透明の羽で羽ばたく。極端に肥大化した臀部を垂らしたまま、ビショップは“六本の腕”を蠢かせながら飛び上がる。

 外れたフードからは眼鏡をかけた鼻の大きい初老の男の顔が覗いている。体色は灰色に変色しており、顔中には血管が浮き出ていた。

 ビショップは、悪魔と呼ばれる存在を利用して魔力を行使する。恐らくあの姿は、彼の使役する悪魔と融合した結果だろう。奇怪な言動は、悪魔との融合によって精神面に異常を来したためだろうか。

 どちらにせよ、刹那には関係ない。向かってくるのであれば……粉砕するのみだ。

「イカレてんじゃねーわよクソ虫」

 冷たく言い放ち、刹那はショートソードを構えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ