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World×World  作者: シクル
少女が見た夢
115/123

World14-8「お願い、出来る?」

 キングの変化に動揺する四人をよそに、永久は膨張し続けるキングを見つめたまま右手を真横に伸ばす。すると、つけている腕輪が光を放ち始めた。

無限破七刀アンリミテッドブレイカー!」

 永久が巨大な七支刀――――無限破七刀を構えた頃には既に、キングは最早原型を留めぬ程に変貌してしまっていた。

 それはもう人の形すらしておらず、巨大なヘドロの濁流のようにも見える。巨大な口と、辛うじて両腕らしきものがあるのはわかるが、目や鼻と言った他の生き物らしい特徴は見られない。

「これが……アンリミテッドの王の正体……?」

「何よこれ……完全に化物じゃない……!」

 驚く美奈子と由愛に、永久が言葉をかける余裕はない。既にキングはその右腕を永久目掛けて伸ばし始めていた。

「レイナァァァァァァァッ!」

 もうそこに、これまでの悠然とした態度は一切ない。ただ感情のままに叫び、暴れんとする“欲望の濁流”がそこにあるだけだった。

『Charge one.』

 レバー操作と共に機械音が鳴り響き、白い光のラインが一つ目の刃へ到達する。そのまま永久は伸びてきた右腕を無限破七刀で薙ぎ払った。

「オオオォォォォォォッ!」

 ダメージを受けての絶叫か、それともただの雄叫びなのか、今のキングの姿からは想像出来ない。

 今のキングは、これまでのキングに比べると巨大なだけで知性はそれほど感じられない。勿論撃破するにはコアの破壊が必要だが、これならまだ変化する前の方が厄介だったように永久は感じていた。

『Charge two.』

 すかさず二度目のチャージを終える。コアを完全に消し飛ばすには七段階目までのチャージが必要だ。ポーンを倒した時のような荒業は、恐らく今のキングには通用しない。

「オ、レ、ノ……」

 不意にガバリと、キングはその巨大な口を開ける。そのまま噛みつきに来るかと思ったが、その口の中で徐々に巨大な黒い塊が形成され始める。最初はそれが何なのか理解できなかったが、すぐに永久はその危険性を察知して表情を一変させた。

「……まずいっ!」

 永久の予想が正しければ、アレの射程距離はかなりの広範囲だ。永久が迂闊に避けようものなら、後ろにいる四人が巻き添えになりかねない。鏡子の魔力障壁でどうにか防御出来る可能性もあるが、負担が大きすぎる。

「オレノ……モンダ……オレノォォォォオオオオオオッ」

 瞬間、黒い塊が更に巨大化していく。永久は無限破七刀を地面に突き刺して両手を空けると、大剣を出現させて大きく振り上げる。

「みんなっ! なるべく離れてっ!」

 キングの口で増幅された黒い塊が、轟音と共に放たれる。陳腐な言葉で表現するならば、それは極太の黒いレーザーだ。相殺出来るかどうかかなり不安はあったが、永久はすぐに大剣を振り下ろし、白い衝撃波をレーザーへ直接ぶつけた。

「おおおおおっ!」

 キングのレーザーの威力は、今までキングが繰り出してきた攻撃の中でも一線を画する威力だ。瞬く間に永久の衝撃波は飲み込まれて消滅していく。半分以上は相殺し切れたようだったが、残ったレーザーが容赦なく永久の身体に直撃する。

「永久っ!」

 レーザーの衝撃で吹っ飛ばされ、足元に倒れた永久を見て由愛が悲鳴を上げたが、永久はすぐに立ち上がって見せた。

 変化する前の方が厄介だった……そんな風にすこし甘く見たことを永久は後悔する。あんな威力のものを何度も撃てるのであれば、無限破七刀のチャージが終わる前に永久が先に吹き飛ばされてしまいかねない。

「大丈夫……下がってて」

 紺のセーラー服は所々破けており、決して軽傷には見えなかったが、永久の声音にはまだ余裕がある。コアの回復と増加によって以前と比べてかなりタフになっているのもあるのか、永久の言葉に由愛は以前程不安を覚えなかった。

 しかしその背中は、また少しだけ遠く見えてしまう。

「永久……」

 呟く由愛の方を振り向きもせず、永久は無限破七刀の元まで駆けていき、引き抜くとキング目掛けて飛びかかる。キングの口の中では再びあの黒いレーザーがチャージされ始めており、このまま放っておけば再びあの極太レーザーを撃たれることになるだろう。

 あのレーザー、魔力の類というよりは単純にコアのエネルギーを実体にして吐き出しているだけのようで、例のフランベルジュで無効化出来るかどうか怪しい。そもそもあれだけのエネルギー量を無効化するにはどうにも心許なかった。

 今でこそ衝撃波である程度相殺したのもあってかなりダメージを抑えられているが、アレを何度も喰らうわけにはいかない。由愛達を巻き込みたくないのなら、尚の事アレはもう撃たせるべきではない。

『Charge three.』

 空中でチャージを済ませ、永久は闇雲にキングへ斬りかかったが、キングの両腕が変化し、巨大なシールドのようになって永久の無限破七刀を防ぐ。

「……くっ!」

  シールドの強度自体は低く、簡単に切り裂くことが出来たもののキングに時間を与えてしまったことに変わりはない。

「ヴォァァァァァァァァオオオオォオォオオオッ」

 そうしている内に向こうのチャージはかなり進行しており、後数秒あればレーザーを撃ちかねない。それに気を取られている内に、横から伸びたキングの触手が永久を捕らえてしまう。

「――――っ!」

 そのまましなる触手によって地面に叩きつけられた永久は、短い呻き声を上げてその場に仰向けに倒れる。身体を起こした永久の視界に映り込んだのは、既にチャージを完了して撃つ直前になっているキングの巨大な口だった。

「直撃――っ!」

 一か八か、あの白い翼の状態でレーザーの相殺を試みるしかない。アレ程の威力を相殺するとなるとこの後戦闘を続行出来ないレベルの疲労を受けることになりかねないが、由愛達を巻き込むよりは余程マシだ。覚悟を決めて永久がショートソードを出現させると同時に、轟音が鳴り響いてキングの黒いレーザーが放たれる。

「永久ッ!」

 しかしその瞬間、英輔の声と共に永久の前に二人の人影が立ち塞がる。

「えっ……!?」

 次の瞬間、キングのレーザーは電流の弾ける音と共に目の前で食い止められた。

「英輔……っ! 無理はダメよ!」

「わかってら! けどな、俺だってこのままボーッと見てるわけにゃいかねェンだよッ!」

 そこにいたのは、魔力障壁を展開する鏡子と、その鏡子を補助する形で鏡子に魔力を送る英輔の姿だった。

 龍衣の影響で今は魔術をまともに使えない英輔だったが、鏡子の魔力障壁をサポートするくらいは出来るらしい。気がつけば、キングのレーザーは二人の魔力障壁によって完全に相殺されていた。

「はぁ……はぁ……後、一回が限界ってところね……」

「鏡子さん……っ!」

 安堵したのも束の間、キングから伸びた触手が四方から永久へ襲いかかる。慌てて対処しようとする永久だったが、その触手は銃声と共に永久に到達する直前で消滅する。

「援護は我々がっ!」

「永久! その武器、時間がかかるんでしょ!?」

 由愛の手には、いつもの黒弾を刃のように変化させた武器が伸びている。由愛はその刃で右からの触手を、美奈子は銃で左からの触手を消滅させたのだ。

「一人で戦わないでって、何度言ったらわかるの?」

「……ごめん。お願い、出来る?」

 永久の言葉に、由愛が、英輔が、鏡子が、美奈子が微笑む。永久の周囲を、四人の大切な仲間が取り囲む。守るために。

「当然でしょ」

「ったり前だろーが」

「任せてください」

「さ、行くわよ。いつまでも相手は待ってくれないわ」

 各々の力強い言葉に、永久は心底勇気づけられる。一人で背負って、一人で戦って、そうして過ごした日々はどうしようもなく寂しかった。誰かのために、たった一人で、永久はそんな戦いばかりを続けてきたように思う。けれど今は違う。隣にはこんなに頼れる仲間がいて、こんな自分のために必死で戦ってくれる。

 こんなに、こんなに嬉しいことはない。

『Charge four.』

「うん……! ありがとう、皆!」

 再びキングの口の中で黒い塊が形成される。今度はキングも初めから永久を妨害するためか、無数の触手を伸ばして再び四方から襲いかかる。

「邪魔はさせないんだからっ!」

 しかしその無数の触手も、由愛と美奈子によって全て消滅させられる。数が多い分コントロールが大雑把なのか、軌道を読むのは簡単だった。

『Charge five.』

 後二回。次のチャージまで少し時間がかかるのがもどかしい。

「オッ……オオッ……オオオオオオオオォオオオオオオッ」

 キングの雄叫びと共に、再チャージされたレーザーが放たれる。

「英輔っ!」

「おうッ!」

 先程のレーザーよりもやや巨大に見えるレーザーだったが、それを鏡子と英輔は魔力障壁で受け止める。二人共かなり消耗しているように見えたが、必死に踏ん張ってキングのレーザーを受け止めていた。

『Charge six.』

 これで六度目のチャージ。チャージが終わる頃には、レーザーを相殺した二人が疲労と消耗でその場に膝から崩れ落ちていた。

「頼んだわよ……」

 鏡子の言葉にコクリと頷き、永久は無限破七刀を構えて再びキングへ飛びかかる。

『Unlimited charge.』

 ついに光のラインは七つ目の刃へ到達する。最後の一撃を放つために再びレバーへ手をかけたところで、永久はキングの異変に気がついた。

「ヨコセ……オレノッオ、レ、ノォォオオオオオッ!」

「これはっ……!」

 キングの身体は、先程より大幅に広がっている。永久を包み込まんとして広がったその身体の至る所に口がついており、そのどれもがあのレーザーを撃つためにエネルギーを溜め込んでいる。加えてメインの口にも既にかなりのエネルギー量が貯め込まれており、再チャージの速さに永久は顔をしかめた。

 出来れば一度避けてしまいたかったが、このチャンスを無駄にすれば折角皆で繋いだこの瞬間が無駄になってしまう。レーザーの威力で無限破七刀の威力を相殺されたくはなかったが、もう後は正面からぶつかるしかない。

 真っ直ぐ、真っ直ぐ、もう、寄り道はしたくない。永久は意を決すると、無限破七刀のレバーを素早く二回操作した。

『Unlimited burst!』

 全開までのチャージを終え、力を放つ準備が出来た証拠に電子音声が鳴り響く。そしてそれと同時に、キングの口からレーザーが放たれた。

無限破アンリミテッド――――」

「ヴァアアアアアアアッ!」

 キングの雄叫びで鼓膜をステレオに刺激されながら、永久は無限破七刀を振り上げる。ここで、ここで終わらせる。過去に決別するために、前に進むために。

 ――――誰かのためじゃなくて良い。あの人に……お父さんに認められるためじゃなくて良いのよレイナ。あなたにはあなたの今が、未来があるわ。

 一瞬脳裏を過った母の顔を、永久はあえて振り払う。誰かのためじゃない、これは母の仇討ちではない。

 ――――私は前に進む! 今、ここで、全部振り切って見せる!

七刀ブレイカァァァァァァァァァァァッ!」

 派手に振られた無限破七刀から放たれるのは、白く白く真っ白な衝撃波。一切の穢れのないソレは、全ての闇をかき消していく。どんな黒も、闇も、真っ白なその光が打ち消していく。

「グ、オオォォオ……オオオオオアアアアァァァァアアアアァァァァッ!」

 キングの放ったレーザーの全てが無限破七刀によってかき消されていく。永久の放った全力の一撃が、キングの全てを包み込んだ。

「オレノ……オレノモンダ……ミンナ、オレノォォォオオオオォオオオッ」

 白い光の中、キングは必死に右手を伸ばす。しかしその手はどこにも届きはしない。邪悪なる漆黒は、純白の輝きで塗り潰されていく。

 小気味良い音と共に、キングのコアの砕ける音がする。粉々に砕け散り、そのまま白に包まれて跡形もなく消えていくそれを、地面に着地した永久は静かに見守った。

「この世界に、あなただけのものなんて……何一つない」

 原初の無限。アンリミテッドキングが、完全に消滅した瞬間だった。


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