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World×World  作者: シクル
一切れのパン
106/123

World13-9「蝿の軍勢」

 抱きしめあう永久と由愛の傍に、そっと美奈子が歩み寄る。そんな美奈子に気がついて、永久は美奈子へ視線を向けると穏やかに微笑んだ。

「坂崎永久……。私は……あなたに謝罪しなければならない。何があったのかはわかりませんが、少なくともきっかけは私のせいだ……。申し訳――――」

 美奈子が言い終わらない内に、永久は遮るようにして首を左右に振る。

「皆を助けてくれて、守ってくれてありがとう……」

 永久がそう言った途端、美奈子は少し困惑するような表情を見せた後、少し涙混じりにはい、とだけ短く答えた。

「永久!」

 次に歩み寄ってきたのは英輔だ。どこかふらついており、まだダメージが残っているように見受けられるが、その表情は希望に満ち溢れていた。

「英輔……」

 英輔は言葉では何も応えず、握りしめた拳を永久へ差し出す。数瞬、永久はその拳を見つめていたが、やがてニコリと微笑んで自分の拳を英輔の拳へ軽く当てた。

「おっせーよ馬鹿」

「うん、ごめん」

 まだまだ言いたいことが、謝りたいことが沢山ある。しかしこれ以上そんな余裕は永久達へは与えられなかった。

 既に起き上がっている刹那は、憤怒の形相でこちらを睨みながら歩み寄ってきており、その後方のビショップとナイトもこちらへ視線を向けていた。

「はぁ? 感動の再会ってワケ? 結局あなたも裏切るのね、永久」

「裏切らない」

「人に一発ぶち込んどいてよく言えたわねぇ……っ! その面の皮の厚さ……本当に癇に障るっ!」

 ピシャリと答えた永久に怒号を飛ばす刹那だったが、永久はそれ程動じる様子もなく刹那の方へ向き直る。

「刹那、私は刹那を止めたい。助けたい」

「助ける……?」

 やや呆けた表情で刹那がそう問い返した後、少しだけ静寂が訪れる。しかしやがてうつむいた刹那の小さな笑い声が静寂を破った。

「は、ははは……助けるぅ? 随分とおめでたいことを仰るのねお姉様は! そこの馬鹿ガキに感化されちゃって、恥ずかしいったら――――」

 瞬間、刹那から殺気が放たれる。それに気がついた永久は由愛達を自分の後ろへ追いやると、すぐにショートソードを構えて迎撃態勢になる。

「ないわねぇっ!」

 凄まじい速度で接近してきた刹那のショートソードが、永久のショートソードとぶつかり合う。

「助ける? 止める? 上からもの言ってんじゃねえわよこの愚図がっ! 今までなんにも決められない、私に寄っかかりっぱなしだったアンタが!? 私を!? 馬鹿も休み休み言いなさいよっ!」

「そうだよ……私は刹那に寄っかかってた……! お父さんにもっ! でももう違う! 私は、私の意思で動くっ! 世界は壊させないし、皆ももう傷つけさせないっ!」

「やってみろやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 刹那の持つショートソードが一瞬にして大剣に切り替わる。このゼロ距離であの衝撃波を撃たれれば致命傷になり得る。

 刹那が衝撃波を放つ寸前、永久の背中で白い翼が開かれる。純白のロングドレスの裾をなびかせながら、永久は刹那の衝撃波をショートソードで受け止めた。

「ちっ……!」

 衝撃波はショートソードに吸い込まれるようにして消滅していき、やがて跡形もなく消え去っていく。あの衝撃波を相殺するためにかなり消耗したのか、永久は肩で息をしながら刹那へ視線を向けた。

 そもそも永久は万全ではない。英輔との戦いのダメージだって回復し切っているわけではないことを考えれば、今こうして刹那の衝撃波を受け止めることが出来たこと自体奇跡に近い。恐らく次はないだろう。

 由愛も英輔も、美奈子もまともに戦えるコンディションではない。刹那も多少ダメージを受けているとは言え、このまま戦えば間違いなく全滅する。

 どうにかここから撤退する方法はないかと思案していると、不意に永久目掛けて炎の塊が飛ばされる。

「――――っ!」

 すぐさま武器をフランベルジュへ切り替えると、永久はその炎をフランベルジュで切り裂いて消滅させた。

「これは……これはこれはこれはこれは加勢が必要かも知れませんねぇ」

「ビショップ!」

 炎の塊を飛ばした主はビショップだ。彼は目深に被ったフードで表情を隠したまま、クスクスと笑みを浮かべて刹那より数歩後方に立っていた。

 こちらへ来たのはビショップだけで、ナイトの方はどこか躊躇しているような様子でジッと見つめるばかりで、動こうとする気配はなかった。

「すっ込んでなさいよ……! 私一人で……!」

「そういうわけにはいきませぬ陛下。今の陛下は冷静さを失っております故、うっかり逃がしてしまいかねません」

「うっかりぃ……? ビショップ、誰に対してものを言っているのかわかっていないのかしら」

「お叱りなら後でいくらでも。しかし今は裏切り者とその仲間達を早急に始末することが先決でございます」

 ビショップの言葉は正論だ。刹那はどこか納得いかなさそうではあったが、ビショップの言うことが正しいことを理解しているのか、わずかに頷いて見せた。

「王に仕えし蝿の軍勢よ、我が声に応え力を貸し給え……」

 小さくそう呟いた後、ビショップはどこの言葉ともわからない言語で何やらブツブツと唱え始める。すると、ビショップの周囲に無数の魔法陣が出現する。

「あ、あれは……!」

 魔法陣の中から出現したのは、蝿のような頭を持つ灰色の怪人だった。彼らは地表に降り立つやいなや、永久達目掛けて迫ってくる。

「こ、こんな数……!」

 襲い掛かってくる怪人達に応戦しながら、永久は歯を軋ませる。由愛と美奈子も加勢してくれたが、この数が相手では分が悪い。いつの間にか永久達は怪人達に取り囲まれていた。

 永久の力でどうにかここから移動出来ないかとも考えたが、そんな隙を刹那とビショップが与えるハズがない。

 大剣や無限破七刀で吹き飛ばす方法もあるが、この軍勢を全て撃退出来る程の力は今の永久にはなかった。

「こんな数……反則よ!」

 全員が疲労しており、英輔に至っては戦える状態ですらない。この状況を切り抜けるのは至難の業だろう。どうにか策はないものかと永久が思考を続けていると、突如怪人達が道を開け始める。

「……!?」

 出来た一本の道を怪訝そうに四人が見つめていると、奥からゆっくりとこちらへ歩み寄る者がいた。

「俺抜きで随分と楽しそうなことを始めているじゃないか……。え? アンリミテッドクイーンよ」

「あなたは……っ!」

 最悪のタイミングだった。およそ想像し得る最悪のタイミングでその男は……アンリミテッドキングは永久達の前に現れた。

「俺も混ぜろ」

 ただでさえ張り詰めていた緊張感が更に高まる。ピリピリとした緊張の中、四人はキングを睨みつけた。

「キング……!」

「そう睨むな。娘の最期を見届けにきただけだ」

 ギロリと。永久はキングを睨みつける。ヨハンからマリアを奪い、永久を……レイナを生ませた張本人。全ての元凶たるキングを、永久は睨みつけずにはいられなかった。

「私は、あなたの娘じゃない」

「貴様がなんと言おうが貴様の身体に流れる血の半分は俺のものだ……そうだろう? レイナよ」

 レイナ。キングはその名をわざと強調すると嫌らしい笑みを浮かべる。

「キングっ!」

「ちょっと、永久!」

 由愛の止める声も聞かず、永久はショートソードでキングへと切りかかる。すかさずキングはその右手を剣へ変質させると、永久のショートソードを右手で受け止めた。

永久とキングは数秒鍔迫り合いをしていたが、やがてキングは少し怪訝そうな表情を見せた後すぐに永久のショートソードを弾く。

「そんな状態でよくもまあこの俺に楯突いたものだな」

 永久の疲労を一瞬で見抜いたのか、キングは不敵に笑って見せた。

「くっ……!」

 周囲は怪人に囲まれ、目の前にはキング。更にその向こうではビショップや刹那が控えていると考えれば状況はかなり絶望的だった。指示があれば恐らくナイトも敵になりかねないことを考えれば、この状況を突破する方法はほぼないと言っても過言ではなないだろう。

「う、……おおォッ!」

 痛む身体を鞭打って、襲いかかる怪人を殴り倒す英輔だったが、もう既にほとんど余力はないように見える。英輔を守るようにして戦う由愛や美奈子も、既に呼吸がかなり荒い。

「さて……終幕だ、レイナ」

 気味の悪い音を立てながら、キングの右腕が変質していく。まるで巨大な斧のように変化したキングの右腕はゆっくりと振り上げられ、その鋭利な刃を永久へ向けた。

 じっとりと額を嫌な汗が流れる。ショートソードを構えてキングを睨む永久だったが、その表情には一切の余裕がない。

 斧を受け止めるため、武器を大剣に切り替える。振り下ろされ始めた斧を受け止めんとして永久が両腕に力を込めた――――その瞬間だった。

「……何だ……?」

 金属音が鳴り響くと同時に、キングが短くそう呟く。別段驚いた様子はなかったが、キングの表情からは僅かではあるものの怒りの色が伺えた。

「えっ……?」

 永久の方は目を見開いたまま、永久の眼前でキングの腕を受け止める男の背中を見つめていた。

「何のつもりだ……? ナイト……!」

 永久の目の前でキングの腕を受け止めていたのは、アンリミテッドナイトだった。


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