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約束

 電話からは車の音とか人の声とかが聞こえて、あなたの声は少し聞き取りにくかった。

 あの寒い空の下にあなたはまだ居るんだってわかった。

「もしもし」

 あなたは柔らかい声で私の名前を呼ぶ。

「今、店を出たんだ。・・・今日は寒いね。」

 あなたの吐き出す息の温度が電話越しに私まで暖めているような気がした。 

 私は、うん、とか、そうね、とか短い言葉を返した。

 あなたの声はいつも私を懐かしさでいっぱいにする。

「あっ。突然電話してごめんね。今大丈夫だった?」

 私は部屋を見渡して返事を考える。彼が買ってくれたセミダブルのベッド。ついさっきまで私たちはそこで抱き合っていた。彼はネクタイの形を整えている。

 自分の場所を確認して安心して私は返事をする。

「うん。大丈夫よ。」 

 ネクタイを整えた彼は私の後ろに立って、しっかりとした腕で私を優しく抱きしめた。私は彼の腕の中であなたの声を聞いていた。

「今日は会えてよかった。あっあれは会えたっていわないかなぁ・・・。

 今度ほんとに店にきてよ。約束だよ。」

 笑いを含んだあなたの声。私は暖かい明かりに包まれたあなたの働くレストランを思い浮かべ、その扉を開く自分を想像する。

「そうね。約束する。」

 口にだしても、それは叶わない約束のような気がした。それくらいの重みの約束だった。


「ねぇもうすぐ誕生日だったよね?豪華なケーキ焼いてまってるから。

 季節柄レモンタルトはないんだけど・・。」


 少しの沈黙のあと、自然と言葉がでた。懐かしさと感嘆をこめて。

「覚えててくれたんだ。」

 私の誕生日を。私の好きなものを。


「うん。誰か誘って来たらいいよ。友達とか

 ・・・嫌じゃなかったら、彼氏とか。俺は全然大丈夫だから。」

 あなたは笑って言ったので、私も笑って返事をした。

「そうね。聞いてみるわ。」


 私は暖かい明かりに包まれたあなたの働くレストランを思い浮かべ、その扉を開く自分と彼を想像する。

 彼がいたら、私は毅然として今の自分でいられるだろう。そして色々なことをきちんと過去にできるのだろう。

 あなたの優しさとか、あなたを傷つけたこととか。

 今のあなたの姿は、私の中に作ってしまった冷たい塊を、少し溶かしてくれるかもしれない。

 


 


 

 

  




  

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