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薄暗い部屋の中

薄暗い部屋の中、浅い眠りから私を覚ました軽やかな電子音。


ベッドから手を伸ばし携帯電話を開くと、あなたの名前があらわれた。

薄暗い部屋の中、携帯電話の画面だけが明るく、あなたの名前を点滅していた。

あれがあなたからのはじめての着信だった。


だけど私はなんとなくそれを予感していた。

もしくはそれを待っていた?望んでいた?恐れていた?


私は冷静にその折りたたみの携帯電話を閉じると両手で包み込んだ。

着信音が漏れないように。

その場違いに軽やかな電子音がはやく消えてくれるようにと祈りながら。


静かになった部屋に安堵と寂しさを感じながら、再びベッドに潜りこむ。

そして暖かい彼の二の腕に頬をよせる。


「でればいいのに。」

私のおでこにキスをするくらいの場所に顔を傾け、彼はささやいた。

「他の男?」


「そんなんじゃない。」

少しのの後、私が答える。ささやくように。

彼はふっと笑うと私のおでこにキスをした。

「でも愛おしそうな顔してたよ。」


「そんなんじゃない。」

私は同じ言葉を繰り返した。一度目よりも少し強い調子で。


「ふうん。」

まるでどうでもいいことみたいに軽く流して、今度は私の体全部をぎゅっと抱きしめて、深いキスをする。

彼の胸は広い、彼の腕は力強い。

私は一人の男に守られ、愛されているような錯覚をする。一瞬だけ。


「そろそろ帰るよ。」

いつも通りの時間にベッドから起き上がり、彼は帰宅の準備をした。

ワイシャツのシワを伸ばし、スラックスをはき、ベルトをしめる。


そのとき、あなたからの二度目の着信があった。

私と彼は少しの間、動きを止めて無言でその着信音を聞いていた。

「でればいいのに。」

先にそれを手にとったのは彼だった。そのまま私の前に差し出すと優しくて、甘くて、余裕な顔で笑う。いじわるな目をして。

「たまには焼きもちやかせてよ。」

「そんなもの焼かないくせに。」

余裕な顔で言い返したかったのに、私は怒って、動揺していた。


ほとんど勢いで携帯電話を開き、通話ボタンを押すと、もう、私は泣きそうだった。












読んで下さりありがとうございました。

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