それぞれの夢
文章中のあなたと「」の中のあなたは対象が違います。
ややこしくてすみません。
あなたは昔、わたしだけにこっそり教えてくれた。
将来、パティシエになりたいんだ。
それは普通の男の子らしくなくて
私はちょっとビックリしたけど、
やっぱり普通の男の子と違って甘いものが大好きで
私と行くカフェでいつもケーキを頼んでたあなただったから
そして普通の男の子と違って
甘い優しさで
その頃いつもイライラしてた私のとげとげを
溶かしてくれていたあなただったから
なんだか心の底から納得して
じゃあ、パティシエになったらまず私にレモンタルトを作ってね。
ってかなり本気でコメントした。
そんなあなたが私の職場の近く
ほんの3区画いったところにあるちょっと高級なレストランで
ほんとに夢をかなえてたってことは
なんだかまぶしいくらいキラキラした現実だった。
私の夢はなんだったけ・・・?
あのときあなたにこっそり告げた気がする。
それはたしか・・・。
いつの間にか自分の夢にまっすぐに向き合えず
夢とは違う望みを抱えて
友達がうらやむような安定した大きめの企業で働くことを決めた私。
そんなわたしの今を、
あなたはどんな思いでみたのかしら?
「ねえ。あなたの夢はなんだったの?」
私は彼に聞いてみた。
真っ白のふわふわな枕に顔を半分うずめて、気持ちよさそうに眠りに入ろうとする彼の横顔を覗き込んで
「ねえ。」
甘えたようにもう一度問い掛ける。
彼は寝ぼけた顔で、でもちゃんと優しく笑って私の髪をなでた。
「どうしたの?突然。」
彼は優しい、でもそれはあなたとは違う。
あなたの甘くってでもさらっと溶けてしまいそうな懐かしい優しさとは違う。
彼の優しさは色んなものを手に入れた男の余裕の優しさ
恵まれたものが恵まれないものに捧げるおこぼれの優しさ
「ちょっと聞いてみたくなったの。ねえ、あなたも夢をもっていた?」
しつこく聞く私を見て、彼はしかなく思いをめぐらせ
「うーん。・・・・あそうだ。」
なにか思いついてクスクス笑う。
「あんまりかわいい夢じゃないなあ。」
「なあに?教えて。」
「社長。・・・小学校の文集にそう書いた覚えがある。」
私も彼と笑った。
ほんとにかわいくない・・・でも彼らしい。
「もうすぐ夢がかなうね。」
「うーん。」
わたしの言葉に、会社の社長の娘と結婚している彼はばつが悪そうに布団を頭までかぶった。
でもわたしはそれが困ったフリだってことわかってる。
私たちはそういう関係だから。
「自分は?自分の夢は?」
布団の中から彼の声がする。
私の腕をつかんでひきよせる。
「内緒。」
「そんな返事は許しません。」
彼はわたしの体をくすぐってわたしは体をくねらせた。そして二人で笑った。
私は彼の頭を捕まえて軽いキスをする。
「今度遊園地にいこうか?
そしたら教えてあげる。」
もう夢を語ったあの頃にはもどれない。
だけども少しだけあの夢の原点を見てみたい気がした。
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