踏切の警報音が聞こえてくる高架下
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。
従妹の白鳥千種ちゃんが案内してくれた高架は築数年と比較的新しくて、ヒビも汚れもほとんど見られない頼もしい造りをしていたんだ。
自動車道のアスファルトも真新しいし、歩道も自転車ゾーンと歩行者ゾーンとに分かれている至れり尽くせりな仕様だったの。
「ここがそうなんだね、千種ちゃん。毎月15日の午前7時半頃になると踏切の警報音が聞こえてくるって高架下は。」
周囲を見渡したけれども、特に異常は見られなかった。
「本当だよ、飛鳥お姉ちゃん!私、嘘なんか言わないもん!通学路だから他の道を通る訳にもいかないし、月に一度とは言っても薄気味悪くて…」
そんな私の態度を「信じていない」と誤解したのだろう、従妹の返答は如何にも不満そうだった。
「君が正直に話している事は、ちゃんと分かってるよ。もし私が信じてないなら、貴重な日曜を使ってまでわざわざ早朝に来る訳がないじゃない。それより千種ちゃん、そろそろ時間だから耳を澄ませてよく聞きとってね。一人分の証言だけだと信憑性が弱まっちゃうから。」
「ええ、嫌だなぁ…私、帰りたいよ…」
文句は言いながらも引き返そうとはしないのは、相談した者としての責任感だろうな。
私より小さいのに、なかなか見上げた心構えだよ。
そうして従妹の精神的成長に頼もしさを感じていた次の瞬間、運命の時が訪れたんだ。
「むっ…!」
「ああっ、来た!」
同時に声を上げた私達二人の耳に届いたのは、遮断機の下りている踏切に行けば嫌と言う程に聞ける「カンカンカンカン…」という御馴染みの警報音だった。
しかも現在の主流であるスピーカーから鳴らす電子音式ではなくて、内部の電磁石で鐘を叩いて鳴らす昔ながらの電鐘式警報なのだからね。
当然ながら既に高架化されている為、踏切の警報音が鳴るなんて普通じゃあり得ない事だった。
「むっ、この音は…」
だが警報音と一緒に聞こえてきた音に気付いた私は、従妹の家に来るまでに立てていた仮説が確信に変わった事を実感したんだ。
「そうか!やっぱり、そうだったんだ!」
「ねえ…もう帰ろうよ、飛鳥お姉ちゃん…って、ええっ!」
とはいえ急に大声を出したもんだから、袖を引っ張っていた従妹を驚かせちゃったけどね。
「ブレーキ音だよ、千種ちゃん!踏切の警報音と一緒に、電車が急ブレーキをかける音が聞こえなかった?恐らく高架化される前の踏切で、何らかの鉄道事故があったんだよ!」
そこでシャッターを開けたばかりの個人営業のパン屋さんで聞いてみたら、案の定というべきか踏切事故が起きていた事が分かったんだ。
「あれは今から6年前の10月15日の話ですかね。本当に痛ましい話ですよ…急いでいたのか遮断機を強行突破しようとした自動車がいたんですよ。それが急行列車と正面衝突してしまいましてね…幸い電車の方は死傷者はなかったのですが、自動車の乗員は全滅でしたよ。」
事故が起きて最初のうちは、現場となった踏切に花束が供えられていたらしい。
しかし高架化が完了して踏切を道路にする時の工事で花束を供えられる状況ではなくなってしまい、そのうち献花の風習も忘れられてしまったみたいだね。
「事故が起きてまだ6年しか経ってないし、運転手達の残留思念が事故現場跡地に居残っているんだよ。なのに献花が急に途絶えたもんだから、あんな事が起きたんだろうね。」
「分かったよ、飛鳥お姉ちゃん。お花なら私もお金を出すから。」
物わかりの良い従妹を持って、私も大助かりだよ。
こうして献花と読経を行う私の背中を見てくれたのか、翌月の15日には千種ちゃん達のクラスの子達がお金を出し合って献花を行い、その次の月以降は地元の商店会が献花を欠かさず行うようになったみたい。
そして千種ちゃんが言うには、その後は高架下で踏切の警報音を聞いた者は誰もいないそうだよ。




