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アカ、宮廷を巡る【MM交流】

bluesky交流企画【#MM交流】の小説作品となります。サルビア、カイドウ、ファルコン、リリをお借りです。

自室▼


俺はハッキリ言って、勤勉だと思う。ティファニーチェアに背を預け、窓を見遣ると日はまだ高い。砂漠地帯一帯に広がる空は青々と乾き、陽光が我らが首都を燦爛と照らしている。

「ま、書類の提出は後で良いだろ。判を付くだけなら、三人分纏めて貰った方が良いからな。……」

誰に言うでも無い独り言は、白亜の壁に吸われていく。今日の分の職務は全部終わり。カイドウのところにでも遊びに行くか。




カイドウの部屋▼


あいつ、留守にしてやがる。きっと、書林の方に居るんだな。じゃ、サルビアのところに行くとするか。久し振りにバックギャモン(ボードゲーム)にでも付き合って貰おう。




サルビアの部屋▼


げぇッ。サルビアも留守かよ。まあそうだと思ったぜ。昼間から女遊びでもしてなきゃ良いがよ。ったく、三つ子が皆してとっとと自分の仕事を終わらせて各々遊びに行ってるとは、俺たち、優秀なのも困りものだね。




白亜の回廊▼


2階の廊下はいつも静かだ。王宮は貴族達の仕事場でもあるが、このあたりは流石に王のプライベートルームと言った意味合いが強い。先へ進む。




三階へ続く螺旋階段▼


そういえば、俺たち三つ子が全員左利きだからと気付いた父親(パピー)が、「それなら螺旋階段を作り直すか」と言って全部左巻きに変えたらしい。なんでも、大抵の人間は右利きであり、左巻きの螺旋階段では右手に剣を持ち攻めにくいのが理由であるからと聞いたが、こんな狭いところを好き好んで選び戦う奴の気が、いや、俺たちの家を攻めようと言う人間の気は触れていると思う。俺だったらそんな奴、まとめて魔法の業火で焼いてやる。一人残らず、な。




祈りの間▼


三階の広間は宗教儀礼の場として、人々に広く開放されている。宮殿正面の大階段からであれば、此処に直結する。朝から晩まで祈りを捧げる酔狂な人間も珍しく無い。土地柄、荒天である事は少ないが、朝晩は冷え込むだろうに……と先日までは思っていたが、サルビアに聞くところによると、床暖房がちゃんと完備されていて、床に座り込み頭を付けて祈る行為は、暖を取るに利便性があるとかだ。俺も今度床にへばりつきにいってみるかな。




書林▼


祈りの間を通り過ぎると緻密な装飾画が施された大きな扉がある。宮殿の外に設けられた王立図書館とは違い、ここは一部の学院や貴族の為にだけ開放されている。外部の開放書架と区別する為、此処を『書林』と呼ぶ。カイドウが自室に居ない時、ふたつに一つは此処にいる。

「君が此処に来るとは珍しい」

そうかな、と相槌を打ちながら、目当ての人物──三つ子の弟に俺は近寄り、

「君は仕事が丁寧過ぎる」

と辟易の溜息。カイドウは書類仕事が得意だ。得意すぎる。勤勉な俺をして更に上回る。彼は資料の数値にちゃんと目を通す。どの鉱山の魔法石の採掘量が今どれくらいで、今後はどうなり、そして如何程の投資で最も効率よく利潤を回せるか、綿密な計算までする。

「どれほど正確に計算しても、それを実行するのは人なんだぞ」

だから、俺は粗掴みの計算しかしない。人を見る。目を見りゃ分かるんだ。そいつが、誠実か、嘘つきか。諫言の徒か、阿諛追従の輩か。

「それでも」

弟は正確に仕事に取り組むと言う。ま、そうじゃ無ければならない。俺たちよく似た三つ子とはいえ、取り柄も性格も全く違う。適材適所。国家戦略の一。

「身体に障んねぇよう、無茶はすんなよ」

それに、書林にいたって、長々とお喋りに興ずるべきでは無いと、餓鬼でも無ェから、よく理解してる。左手をひらと振り合ってとっとと退散。じゃあ、サルビアはどこに居るんだよ。アイツを探し出すのは、骨なんだよな。




大階段▼


祈りの間を素通りし、大階段を下っていると、どうも視線を感じる。目線の主はどうも臆病そうな背の低い老人である。宮廷の小間使いか、そうでないなら禰宜の荷持か。

「おい」

と吠えてやって漸く彼は近づいて来た。用事があるなら早く言えよな、と言えば、

「サ──第一王子に、書簡をお預かりしております」

と言って差し出された書類は一抱え程もあった。職務資料でも無ければ、機密文章でもない。浮ついた恋文か、彼を想う詩集の断片である。雑用と言うのも大変なもんだ。同情するぜ。

「渡しておいてやるよ」

ひったくるように書類を奪えば、彼は解放されたとばかりに早口で礼を言い、階段を駆け上っていった。なんと健脚、矍鑠な奴。臆病なのは性格だけで、流石宮廷に出入りする荷運びであるだけはあると、妙に感心さえしたが、

「そうだよ、俺、サルビアを探してんだよな」

書類を小脇に抱え、此方は階段を下っていく。




大門▼


祈りの間へと続く階段の前には、少なくない人波がある。半分パブリックスペースとは言え、王の住まう宮廷であるからして、数名の門番が立って市井の人々の往来を監査している。少し前にサルビアが此処でスゲ〜美人を見たらしく、祈りに来た美女の手を取り下町に繰り出した騒ぎは記憶に新しく、カイドウの奴は彼に切々と説教を垂れていたとかだが、俺は知っている……サルビアはその程度で行動を改める男では無い! 俺は半刻程、目当ての人物が来ないかと門扉にもたれていたが、遂に彼は姿を現さなかった。サルビア、大丈夫だ、俺はカイドウには黙っておいてやるからな。




門柱▼


すると、一際のどよめきがあった。物盗でも出たかと思ったが、見れば、泣きじゃくる一人の老婆が、門番に侵入を拒まれている。原因は俺だった。

「生きているうちにこんな近くで王の血族を見る日が来るとは!」

ババアは見るのみならず、「是非その玉体に触れるに預かり、明日を生きる活力を得たい!」と跳ね回って止められていたという訳。確かにこんなに元気なら王に縁ある誰かに触れずとも一世紀は生きそうなものだが

「その程度で騒ぎが収まるなら、手でも握るが良い」

と言ってしまったがばかりに、俺は存分に掌を撫で回される羽目になった。ばーさんは泣きながら

「ご利益があるヨォ!」

と叫んでいたが、俺はそんなもの絶対無いと思う。




宮廷内門▼


俺は

「それじゃ、急いでるから」

と言ってとっとと宮廷に戻った。冷静に考えれば半刻も門扉の前で呆としていた男が「急いでいる」なんてちゃんちゃら可笑しい言い訳だが、当の老婆は意にも介さず手を天に掲げて感動していた。アイツ、長生きするだろうな。




表回廊▼


中庭を望む回廊の一柱に一つ弾痕が残されている。てっきりサルビアが銃を撃ち損なったかと思っていたのだが、前に三人で飲み明かしていた時

「覚えていないのか?」

「ありゃ、君がやったんだ」

と他の二人から指摘されて思い出した。

幼い時に、宮廷の武器庫から勝手に銃を一つ持ち歩いて、誤射したのは俺であった。当然父母からはこっぴどく怒られ──、いや、母はそうでもなかったな、ただ怪我は無かったかといたく心配されたのは、通る度に、今更、鮮烈な記憶となって蘇る。

「誰にも当たらなくて良かったよ」

聞かせる気も無い独り言。




中庭▼


……また視線だ。一瞥すると、女中の一団である。黄色い叫び声。

「キャア! 目が合っちゃった!」

馬鹿、睨んでんだ……呆れるとも怒りとも無い感情を露わにする前に

「これ、カイドウ様に渡していただけませんか!?」

と来たもんだ。遠慮の無い女どもである。嵐のように来てそのように去って行った。手元に残ったのは他人宛のラブレターである。魔法の熱源で燃やして破棄した。カイドウは仕事で忙しい。サルビアなら兎も角、カイドウの仕事は増やすべきで無い。今度弟に会ったらこう言う事があったとだけ伝えておけば問題無かろう。俺が覚えていればの話だけどね。




宮廷広場(北)▼


此処は、主に貴族の男どもが、情報交換と称して駄弁っている事が少なく無い、宮廷の広間である。彼らに言わせると、此処で管を巻くのも仕事の一つだとか。時々こういう社交の場に顔を出さないと、根も葉も無い噂話で中傷され、居場所を失うらしい。半端な貴族はその地位を守るのも大変そうだ。気まぐれに俺も時折顔を出す事がある。一喜一憂する貴族の面々の顔を観察するのは、面白くは無いが、癖付いた己の習慣の一つであり、つい自嘲めいた笑みが口端から溢れてしまう。それを誤魔化すようにそのまま言葉を落とす。

「サルビアを見なかったか」

「さあ、今日は此処には来てないねえ」

「この辺りは可愛い女の子は少ないから」

「第二王子はイイ話無いんですか」

一つ睨め付けてようやく

「炊事場の女中に声をかけているのを見ましたよ」

と来た。全く、女と遊ぶのの何が楽しいんだ。ナヨナヨとしてか弱い、蹴れば折れそうな足をしている軟体生物とつるむ事の何が楽しい。……




宮廷広場(南)▼


その中に、オケイ(一種のボードゲーム)に興ずる貴族の集団に声を掛けられた。賭け事をしているらしい。俺も嫌いじゃ無いが、

「でも、今日はなんだか気分じゃ無いな」

と断った。

「そういえばね、王子、小耳に挟みましたよ。第二王子も最近、女の子を一人連れて部屋で遊んでいたんですよね?」

否定出来なかった。事実であったからだ。尤も、これは彼らの下卑た想像とは異なる。

「チェスだよ、チェス!」

と言うのは、事実なのに言い訳がましく聞こえるのは何故なのだろうか。憮然としたこの態度に、彼らは一切怯まない。

「お楽しみでしたか」

という質問にさえ飛んでくるものだから、正直に答えてやった。

「全然!」

あの女、俺とゲームをして、わざと負けたのだ。それをして、俺が喜ぶと思ったのだろう。あの夜は、本当に面白くなかった。

「第一王子なら、そちらの回廊を行かれましたよ」

それだけ背中に聞いて、この場をずらかる。



内回廊▼


悶々と闊歩する。そうだとも、俺はあまり女遊びは好きじゃ無い。そりゃ、社交の場に出て、一人二人手を取って踊るとか、晩餐の相伴に与らせる事はゼロでは無い。サルビアもカイドウもそれぞれ程度の度合いこそあれど、決して嫌そうで無いように見える。だが、俺は明確に「嫌」だ。この身は半分星妖精の血を流し、強い魔法を打つ度に皮膚を破いている。顔を見れば痘痕が残り、実のところ、その痕は全身に存在する。酒に酩酊し、身体をしなだらせ、断りもなく無遠慮に手を取られれば、皮が引き裂かれるような痛みが走る事だってあると言うのに……。二人は、それを知ってか察してか、女についてばかりは、俺にあれこれ口を出さない。俺は先に見たあのババアを思い出した。この手に本当にご利益とやらがあるのなら、兄弟にこそ握らせてやるべきだな。




炊事場▼


回廊を進んでいる時に、ガラスが破れるような甲高い音を聞いた。見れば、真っ青な顔をした女中と、足元に粉々に砕けた陶器の欠片。

「……大丈夫かよ」

この世の終わりだと言わんばかりの茫然自失の女の顔に、つい声さえかけてしまった。この壺、異国の植物を模したモザイク柄をあしらっているからこそ、デザイン性に富み、故に脆く、割れやすかった。

「拾って片付けりゃそれでイイだろ」

珍しいものでも無いんだから。だが、女は依然唖然としていた。

「ボンヤリしてないでさ」

と身を屈めた瞬間、同じように音を聞きつけたのであろう、メイドキーパーと思われる一人が「コラ」の「コ」の怒号を飛ばし掛け、こんなところに俺の如き第二王子が居るとはと驚き急いで叫びを飲み込んだ。しかし、こんなところで三人ただ戸惑っていても仕方が無い。

「ごめんナァ! ただちょっと気分で顔を出して、この子にぶつかっちまって! 悪いんだけど、片付けておいてくれないか!」

大根役者もいいところだと思った。思ったが、それで二人の女は漸く眼前の事実を見とめたとみえ、

「第二王子の手を煩わせる程では!」

と意識を取り戻す。面倒に巻き込まれるのは勘弁だ。好奇心は猫をも殺す。さっさと退散させて貰おう。




大回廊▼


やれやれ、走る必要は無かったな。ただでさえ広い宮廷の、こんなところまで来てしまうとは。この先は玉座のある王の広間だ。父上はご不在である。

「……」

此処に来ると玉間の前に掛けられた巨大な絵が嫌でも目に入る。今は亡きリリ王妃の、肖像画。王座を通る度に彼女の顔を見る。星妖精たる彼女は日の光に当てられると、肌を焼いてしまうと言う。王妃の顔には一つの傷も無い。

「愛されていたんだろうな」

気恥ずかしくなって、再び走り去る。




王の回廊▼


宮廷の建物の屋根が丸いのは、「王冠」を現しているからだと聞いた事がある。どんな絢爛な冠も、大きすぎては頸椎をへし折るに至ろう。だからこそ、この建物が、この屋根を頂く宮殿にいる王こそが、世界一の王である。ファラオである。




ハレム▼


流石に玉座の間も、この奥のハレムも面白半分で行くべきところじゃないな。





裏庭▼


「一周しちまったんじゃねえか」

これほどまでに隅々まで宮廷内を歩き回れる人間も珍しい。王族特権という奴だろうか。だからこそ、サルビアを探すにはひどく手が掛かるのだが……

「ってか、M H M(マジックハンドミラー)で連絡すれば良かったんじゃねえか」

今更通信機器の存在を思い出す。迷わずコール。

「もしもしサルビア? 今どこ?」

今どこにいるって……と復唱のようは三つ子の兄貴分の声は非情にも、

「余の部屋だが?」

むごい事実と共に何の気無しに発言されたのであった。俺は本当に文字通りこの宮殿を一周してしまったとみえる。イイ運動になったなぁ。……




サルビアの部屋(再訪)▼


彼は煙草をふかしながら、机上に向かって書き物をしていた。書類仕事が残ってるのかと思えば、くだらない、恋文の返信をしていたのである。

「悪いがサルビア、お前宛の仕事を増やさせてもらうぜ」

昼間、大階段でじーさんから預かった例の浮ついた紙束を、机上に無遠慮に置いてやる。

「そもそも君には正式な伴侶候補がいたのではなかったか」

「その話は止めてくれないか」

「バックギャモンしようぜ。暇だったんだ」

「今から?」

振り返った彼の背景になる窓辺の景色は、全くの黄昏であった。俺は半日中宮廷内で時間を潰してしまったのである。俺は真剣勝負ができる遊び相手が欲しかっただけなんだが。

「……飯にするか」

「それならカイドウも呼ぶべきだな」

世界を覆う空の大碗はやがて夜色に染まり行く。閉ざされたこの世の中で、抜け出る方法はあまり思いつかない。ただ、日々を退屈だと思う。遠く、雷鳴の音が聞こえた気がした。

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