表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

それは恋愛小説のような……(バーミリオン)

 雪夜さまに捧ぐ……。

 リクエスト頂いた『バーミリオン×早夜でシチュエーションはバーミリオンさんの部屋で…』を書いてみました。

「バーミリオンよ。もうよいのだ。わしの後について歩かずとも……。これからはお前も自由に生きるがいい」


 そう言ってオースティンは、自分はもう一度人生やり直すぞという勢いで、書物を読み漁り、鈍った身体を鍛え直していた。

 目が治ったばかりで、負担が掛かり過ぎるのではと何度も忠告したが、聞き入れてはくれなかった。


「これは、あの娘への恩義を果たす為に必要な事なのだ。それに何より、わしは今生まれ直した気分なのだ。何をするのにも楽しく感じるだから邪魔をせんでくれ」


 そう言われてしまうと、バーミリオンは何も言えない。

 しかし、今まで日々の大半を祖父であるオースティンのために使っていたバーミリオンにとって、いきなり自由にと言われても、一体どう過ごせばよいのかと戸惑い気味だった。

 そして、考え付くのが早夜の事ばかり。最初は、ただ気になるだけの存在だったのが、今ではこんなにも心を占める存在となっている。彼女のいない日々は、つまらなくも価値の無い日々に思えてしまうのだ。

 そして、彼女の事を思うと、自然とその足が、唯一早夜と連絡の取れるマオの部屋へと向かってしまう。

 いい加減それでは駄目だな、と今日は自室に戻る途中であった。



 さて、今日はどう過ごそうか。早夜の為にできる事を、と考えるのだが、驚くほどに自分には出来る事が少ないのだと実感させられてしまう。

 今まで、祖父のオースティンの為だけに生きていたのだ。これからも、祖父がこの世を去るまで、ずっとそうしてゆくのだと思っていたバーミリオンには、その為に培ってきた能力を、何処で活かせばよいのか判断に苦しんでいた。

 そんな彼に、マオが暇つぶしにでもどうだと本を差し出してきたのだが、巷で女性達がこぞって読んでいるという噂の本だった。

 試しに、廊下で歩きながらぺらぺらと捲っていたら、“愛”という字をたまたま開いたページに合計十二個も見つけてしまい、頭痛を覚えながら溜息まじりに自室の扉を開けた。


「あ、お帰りなさい。バーミリオンさん」

「はい、只今戻り――」


 うっかり普通に返事をしそうになり、はたと相手を見て固まった。

 そしてバタンと扉を閉め、しっかり十秒数を数えた所で再び開けた。


「きゃっ!?」


 向こうもまた扉を開けようとしていたのか、ドアノブを掴んでいた彼女は、扉の開いた途端、悲鳴を上げて此方に倒れこんでくる。

 咄嗟にその身体を受け止め、そのしっかりとした感覚に、如何やら見間違いでも幻でもないと分かった。


「あ、ありがとう御座います……」

「いえ、いきなり開けた此方が…悪い、の――」


 言葉の続きが出て来ない。

 礼を言って顔を上げた早夜と、下を向いたバーミリオンの顔が至近距離にあった為だ。そして、今の体勢を思い出し、バーミリオンは慌てて手を放した。


「す、すすすすみません!」

「い、いえ、私の方こそ!」


 互いに真っ赤になって顔を俯ける。

 暫しそのように気まずそうにしていた二人であったが、いつまでも扉の前で突っ立っている訳にもいかない。廊下の向こうから、人が近付いてくる気配がする。

 バーミリオンはハッとなって、早夜の手を掴み、部屋の中に入れた。

(ハッ、何をコソコソとしているんだ私は! 何も隠れるような疾しい事はしていないではないか!)


「お、お茶を淹れますね。お待ち下さい……」


 緊張からか、少々どもりながらバーミリオンは早夜をソファーに座らせ、お茶の用意をしようと部屋を出ようとした。

 しかしここで、彼ははたと思い出す。

 何故彼女はこの部屋……それも自分の部屋にいたのだろう、と。


(こ、これはっ!? もしや愛の告白!?)


 バーミリオンの脳裏には、この前マオから読み聞かせられた本の内容が思い出されていた。


 主人公(ヒロイン)が自分の気持ちに気付き、居ても立てもいられなくなり、相手の男性の部屋で彼の帰りを今か今かと待っている。そして、部屋に戻ってきた彼に、自分の気持ちを告げ、相手も同じ気持ちと知り二人はそのまま……。


 とか言う内容であった筈……。


(い、いや、まさか!)


 バーミリオンはブンブンと首を振り、その浅はかな考えを振り払う。

 そして、部屋を出ようとドアノブに手を掛けた時、自分の手に重なる小さくしなやかな手の存在により、瞬く間に身動きの取れなくなった。


「行かないで下さい……」


 消え入りそうな小さい声。それでもはっきりとバーミリオンには届いていた。

 一気に顔にまで血が上り、今にも飛び出してきそうなほどに、心臓が煩く暴れている。


「サ、サヤさん……?」

「ずっと、あなたを待っていたんです……」

「っ!!」


 グッと胸を押さえた。これ以上無いと思われた心臓の暴れっぷりに拍車が掛かった。

 何故ならば……


(それは、あの本と同じフレーズ!?)


 そう、全く同じフレーズに、バーミリオンは期待せずにはいられない。


「私、ずっと考えていたんです……初めてあなたと会ってから、あなたの事が頭から離れないんです……」


(はいっ……! それは私も一緒ですっ……)


 今、バーミリオンの心は悦びに満ち溢れていいる。

 最早浅はかとは思うまい。

 バーミリオンは、次に続く言葉を今か今かと待ち構える。


「私、バーミリオンさんの事が……」


 それは殆ど無意識だった。

 バーミリオンは人差し指を早夜の唇に押し当て、彼女の言葉を遮ったのだ。


「……バーミリ、オンさん……?」

「……っ」


 怪訝そうな早夜を前に、バーミリオンは自分のしてしまった行動に戸惑っていた。

 そして、指先に伝わる柔らかな感触に、パッとその手を離し、瞳を泳がせながらこう呟いていた。


「……それ以上言わないで下さい……」

「え……?」

「ここは、私の部屋ですので、ここでそんな事は言わないで下さい……」


(でなければ私は、自分を抑える自信がありませんっ……)

 あの小説のように、簡単に事の進むような関係にはなりたくないのだ。

(それに、こういった想いを告げるのは、やはり男からでないと……)

 祖父のオースティンの教えである。


「そ、外に参りましょう。そこであなたの気持ちを聞きたい……いえ、まず私から告げてもいいでしょうか……?」


 耳まで真っ赤になっていると自覚しながら、バーミリオンは早夜を真っ直ぐに見てそう告げる。

 しかし、早夜は涙目でイヤイヤをするように首を振ると、バーミリオンの胸に飛び込んできた。途端にピシリと固まる。

 指一本も動かせない中で、やはり心臓だけは激しく暴れていた。


「嫌ですっ……ここで聞かせてください。バーミリオンさんの気持ち……私の事をどう想ってるか……」

「サ、サヤさん……だめですっ、ここは――」

「バーミリオンさんが言ってくれないのなら、私から言います。私はバーミリオンさんの事が――」


 バーミリオンは咄嗟に早夜をきつく抱き締める。早夜はその苦しさに、息が詰まって続きを言う事が出来ないでいた。


「――好きですっ……サヤさん、あなたの事がどうしようもなく……。初めて会った時からあなたから目が離せないでいた……」

「っ!! バーミリオンさんっ!! 私も……あなたの事が好きです!」


 そう言った早夜の手が、バーミリオンの背に回される。

 そして……。


「バーミリオンさん……」

「っ!!」


 甘くは鼻に掛かった様な声で名を呼ばれ、早夜を見下ろすバーミリオンの身体がピシリと固まった。何故なら、腕の中の黒髪の儚げな少女は、自分に向かって目を瞑り顔を上向かせている。

 それは即ち……。


(く、口付けを強請られている!?)


 最早、その唇から目が離せないでいる。薄いピンクの花弁の様なその唇。きっとえもいわれぬ柔らかさのなのだろうと容易に推測できる。

 ドクドクと、やけに頭の中に響く心臓の音。ブルリと震えたのは緊張の為かか武者震いか……。

 よく見れば、腕の中に収まるこの小さな肩も、自分と同様小刻みに震えてはいないだろか。

 そう感じた途端、バーミリオンはキュッと顔を引き締めた。


(女性にここまでさせて、答えなかったら男ではない!) 


 女性に恥を掻かせてはいけない。これも祖父の教えであった。


「サヤさん……」


 名を囁き、バーミリオンは意を決し、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 そして、ゆっくりと顔を近づけてゆく。

 だがここで、バーミリオンははたと思った。


(口付けを交わした後は一体どうすればよいのだろうか?)


 正直言って、バーミリオンはその手の経験があまり無かったりする。

 それは祖父のオースティンに始終付いていなければならなかった事もあるが、傭兵国家のタンバスでは、男らしいがたいのいい者が女性の憧れで、バーミリオンのような線の細い男はまずもてない。おまけにバーミリオン自身が真面目と言う事もある。

 そしてこの時、バーミリオンの脳裏に、再びマオから読み聞かせられた小説の内容が蘇った。


 “想いを伝え合った二人はその後、口付けを交わすと寝室へと消えていった……”


 それは即ち――


「だ、駄目ですっ!!」


 早夜の肩を掴むと、思いっきり自分から引き剥がす。


「え……バーミリオンさん……?」

「や、やっぱりいけません! こんな明るい内から若い男女がそんなっ!!」


 確かに窓の外では太陽が真上に来ている。

 始終オースティンに付いていた彼は、考え方も少々古臭かった。


「やはり外に参りましょう! そこで散策などをしながらお話を致しましょう!」


(それが正しき男女交際と言うものではないか?)

 力強く必死な感じで訴えると、早夜はニッコリと笑って頷いてくれた。

 おまけに、


「では、お弁当も用意して、お庭で食べましょう。丁度お昼になる所ですし」

「はい!」




 そうして、外に赴く事になったのだが……。


(こ、これはどういう状況なのですか!? お館様、教えて下さい!)


 心の中で、祖父オースティンに助けを求めるバーミリオン。

 視線を下に移せば、扇情的とも取れる表情で此方を見つめる早夜が居る。

 しかも横たわって……それも自分の下になって……である。

 バクバクと煩く暴れる心臓を、必死に御しようとするのだが、静まりかける度に、早夜が甘く呼びかけてくるので一向に治まる事は無かった。


『柔らかな草の上に横たわるサヤは、潤んだ瞳で自分を見下ろす男を見上げる。愛しき男に組み敷かれ、サヤは身体の奥が熱くなるのを止められないでいた……』


 何故このような状況になってしまったのか……それはそう、先程から頭の中に響いてくるこの“声”のせいである。

 その声は、朗々と自分やサヤの行動を、まるで物語のように語っているのだ。

 “声”は淀みなく次なる行動を語る。


『男は組み敷くその少女に手を伸ばすが、途中で躊躇したのかピタリと止めた。しかし、サヤはその男の手を取ると、その手を自分の胸へと導いて――』





「い、いけません――っ!!」

「うわっ!!」


 バーミリオンはあらん限りの力で叫ぶと、身体を起こした。

 その行動に驚いたのか、すぐ近くで声を上げる者がいる。

 早夜だと思い、其方に目を向けたバーミリオンは、ピタリと動きを止めた。


「……マオ王女様?」

「ああ、おはようバーミリオン。よく眠れたか?」

「は? 眠れ……?」


 ハッとして周りを見回す。

 ここはアルフォレシアの庭園に置かれているベンチの上であった。

 どうやら転寝をしてしまったらしい。

 隣をみると、そこには同じくベンチに座って本を膝の上に置き、片手を上げて挨拶をするマオの姿がある。


「いや、たまたま通りかかったらな、お前が気持ちよさそうに寝ているのを見かけてだな……」

「それで、何を……?」

「おおっ、そうだ! 今、巷で女性に人気の小説なんだがな! 新しいシリーズが出たからバーミリオンにも読み聞かせてやろうと思ってな。

 どうだった? よい夢は見られたか? お前の為を思って、ヒロインの名前をサヤに置き換えてみたのだが……うおっ!? どうした、そんなに怖い顔をして!?」


 バーミリオンはマオの話を聞きながら、ズゥゥゥンと黒いオーラを解き放っていた。


「マオ王女様……金輪際、そのような真似は止めて頂けますか……」

「な、なぜだ!? バーミリオンも寝ながら嬉しそうな顔をしていたではないか! 寝ながら真っ赤になっていたのは結構見物だったぞ?」

「なっ!! ~~っ……と、とにかく、私が喜んでいようと真っ赤になっていようと、こんな事はしないで下さい……全く、なんて物を読んでいるのですか。仮にも一国の王女とあろう者が、あんな……」

「官能小説ではないぞ。官能一歩手前だ」

「どちらでも同じ事です!」

「えー? そうかぁ? でも……」

「アモン殿にばらしますよ……」

「うぐっ、アモン!? それだけは止めてくれ! 私の集めたコレクションを全部処分されてしまう!!」


 アモンと聞いて、途端に青くなるマオ。コレクションというのは、彼女の愛読書の事だろう。

 いっその事そうしてもらった方がいいのでは、という思いであったが、心の中にしまっておく。


 しかし……。


 バーミリオンは夢の内容を思い出し、真っ赤になって頭を抱える。


(ああああああああっ!! 私は、いくらマオ王女に読み聞かせられていたせいとはいえ、何と言う夢を見てしまったんだぁぁぁあああ!!)


 できる事なら今直ぐ切り捨てて欲しいと思わずにはいられない。


「……すみません、サヤさん……夢の中とは言え、あなたをあんな、あんな……」

「何だ、押し倒したのか?」

「押し――なんて事を言うんですか! 冗談でも女性がそんな事を言っては駄目です!」


 するとマオは、バーミリオンをじっと見つめた後、眉を顰めながら肩を竦めて一言。


「バーミリオン……お前めんどくさいぞ……」

「っ!? め、めんどくさい!?」

「今日び、女は男以上に際どい事を考えているものだぞ。それはもう、この小説以上の事をだ」

「そんな……」

「例えばバーミリオン、お前が今考え付く際どい事を思い浮かべてみろ」


 そういわれて、言葉どおりに思い浮かべて顔を真っ赤にするバーミリオン。

 マオはその様子を見てうんと頷くと、彼の肩に手を置き、重々しく言った。


「それよりもっと凄い事を女は考えている……」

「なっ!!」

「えぐいぞ……」

「えぐ――!?」


 その言葉は、バーミリオンに大きな衝撃を与えたようだった。

 放心状態で虚空を眺めている。

 マオがいくら呼んでも反応する事はなかった。マオは彼を放っておいて、部屋に戻る事にした。


「うむ、これを早く読みたいしな!」


 と、そんな事を言いながら、その場を後にした。


 そうしてバーミリオンは、そのまま日が傾き、黄昏時になって、たまたま通りかかったオースティンに声を掛けられるまでそこから全く動かなかったのである。





「お館様、私はめんどくさいのでしょうか……」


 部屋に戻った後、祖父にポツリと訊いてみる。


「うん? お前は真面目過ぎる所があるからな。めんどくさいかそうでないかと聞かれたら……まぁ、めんどくさいと答えるだろうな」

「………」


 しかし返ってきたのはそんな答え。

 もう一つポツリと訊いてみた。


「女性って凄い事を考えているものなのですか……」

「ウーム、そうさなぁ……確かに考えておるな。お前のばあさんの発言には時々驚かされていたりもしたからな」

「サ、サヤさんも……」

「うむ、そうさな。見かけによらず芯がしっかりしているとお前が言ったのではなかったか?」


 尋ねている意味は違うのだが、「見かけによらず……」という所に過敏に反応し、「や、やっぱりそうなのだろうか……」と、ますます落ち込むバーミリオンなのであった。





 なんかすみません……。

 ウブウブにしようと思っていたのですが、なんだかこんな展開に……。 バーミリオンは、なんだかマオとセットのような感じがします。そして、マオに「めんどくさい男」とレッテルを貼られてしまう哀れなバーミリオン……。

 それに、リクエストで彼の部屋でとなっていたのに、外に出ちゃうし……。

 真面目すぎるバーミリオンがいけないんだ……。でも嫌いじゃないです。

 草食系男子が何だ! ただ女性経験が殆ど無くて自信が無いだけなんだ!

 故郷では彼、本当にもてないもんで、アルフォレシアに来てちょっとばかし女性から声を掛けられるようになって戸惑ってたりなんかするバーミリオンなのです。(応援してあげてください!)


 さて、次もリクエスト頂いたお話で、リュウキ×セレンのお話です。

 お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ