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丘の上のピクニック(リカルド)

夢の逢瀬、リカルドバージョン。始まり、始まり~。

「……さん…リ…ルドさん……」

「んっ……誰だ?」

「リカルドさん、起きてください」


 その聞き覚えのある声に、リカルドはすぐさま覚醒し、ガバッと起き上がる。


「サヤ?」

「はい、私ですよ。リカルドさん」


 ニッコリと頷き返してくる早夜に、リカルドは胸を高鳴らせ、思わずその手を掴んで引き寄せていた。


「あ、あわわっ! リ、リカルドさん?」

「俺、今夢見てんのか? サヤがいる……すげー会いたかった……」

「リカルドさん、まだ寝ぼけてるんですか? 私なら、ずっと傍にいたじゃないですか?」


 リカルドが「え?」と声を上げて周りを見回してみれば、そこはあの見晴らしのよい丘の上。

 そこに早夜と二人で並んで座っているのだ。

 リカルドが呆然として早夜を抱き締める腕を解いて見下ろすと、彼女はクスクスと笑いながら、小首を傾げてリカルドの事を見上げた。

 その可愛い仕草に、一瞬目を奪われた後、


「あ、あれ……?」


 いまいち状況がつかめず、クシャリと髪を掻き上げ、リカルドは軽く頭を振る。

 それがまた笑いを誘ったのか、早夜からはずっとクスクスと笑われてしまっている。


「リカルドさんが言い出したんですよ? 一緒にピクニックにいこうって」

「えっと……んー、そうだったっか?」

「もー、そうですよぅ」


 そう言って早夜は、リカルドにバスケットを差し出す。


「ほら、お弁当だってちゃんと持ってきてるんですよ」

「あー……そっか。そうだった……よな?」

「変なリカルドさん。私に聞かないで下さいよ」


 何度も首を捻るリカルドに、早夜はさも可笑しそうに笑った。

 その笑顔に、リカルドも釣られて笑う。


 穏やかな空気が流れる中、いつもは強い風が吹くこの丘で、珍しく緩やかで気持ちのいい風が吹いた。

 リカルドは自然と笑いを引っ込め、目を瞑ってその風を受けていると、柔らかく温かな感触を自分の手に感じる。

 目を開け其方を見ると、地面に置かれた自分の手の上に、早夜が手が乗っているのが目に映った。


 途端に心臓が跳ね上がり、気持ちよさそうに風を受けているその横顔から目が離せなくなる。

 リカルドは自分の手に乗っている細く華奢な手を、優しくそっと握り締めていた。

 それに気付いた早夜が此方を見る。

 視線が絡まり、お互い身動きが出来なくなった。

 心臓の音がやけに煩く、目の前にはまるで囚われてしまったように此方をひたと見据える黒い髪の少女。

 白磁のような白い頬は、今はほんのりと赤く染まり、漆黒の瞳は潤んで星を散りばめた様になっている。

 薄く開いた唇は、今まで感じた事もないくらいに柔らかである事をもう知っている。


 とても自然な動作で、二人は口付けを交わしていた。どちらともなく顔を寄せ、唇に感じた柔らかな感触に驚いて一旦身を引いたほどだ。

 けれども互いにはにかみながら、もう一度口付けを交わす。

 その口付けは最初は互いに遠慮してか、触れるだけのものであったが、何度も交わすうちにもっともっとと深く激しいものとなっていった。


 強く抱き締めたら壊れるんじゃないかと思うほど華奢な身体。

 柔らかくすっぽりと自分の腕の中に納まってしまう小さい身体。

 だがしかし、多少力を込めても以外に壊れないという事を知っているリカルドは、遠慮なくその身体を引き寄せ抱き締めた。

 何の抵抗もなく、この少女は己の腕に納まった。その事を嬉しく思うリカルドは、唇を離し、早夜の顔をじっと見つめる。

 恥ずかしそうだが逸らす素振りは見せない。寧ろ嬉しそうに早夜も見返してくる。

 リカルドの心に、抑えきれない思いが湧き上る。そして、それを押さえる事無く、リカルドはそれを言葉にした。


「サヤ、お前の事がすげー好きだ。本当にもう、どうしようもなく……だから、ずっと俺の傍にいてくれ」

「リカルドさん……?」

「言っとくけど、一応その、け、結婚を申し込んでる……嫌か?」


 恐る恐るといったようにそう告げると、リカルドは早夜を窺い見る。

 すると早夜は、目を見開き驚いた顔になって、そして目を潤ませると嬉しそうに顔を綻ばせた。


「はい……喜んで」

「っ!!」


 その返事を聞いた途端、リカルドは顔を輝かせて早夜をきつく抱き締める。

 溢れ出る想いが、自身の全てを支配してしまったような錯覚に襲われ、全身が甘く痺れたような感覚にリカルドは酔いしれていた。

 腕の中にいる少女が、愛しくて愛しくて仕方がない。

 ああ、これが幸せだろうかと思う。

 この思いを早夜も同じように味わってくれていればと願わずにはいられない。

 そして体を離し、もう一度口付けを交わそうとした時、リカルドの腹が盛大に鳴った。


『…………』


 暫し無言で固まる二人。目を見開き、お互いをじっと見てしまう。

 やがて、堪え切れないというように、顔を背けて吹き出す早夜。そして、羞恥心と腹立たしさに顔を染めるリカルド。


「だー! なんだってこんな良い時に鳴るんだよ俺の腹っ!!」

「ぶぷー!」

「あ、こら、サヤもそんなに笑うなよ!」

「ご、御免なさい。だって……ブフッ」

「あー、もうチキショー!」


 リカルドは早夜に背を向け自己嫌悪していると、服の裾をクイクイと引っ張られ、不貞腐れた顔で其方を見た。

 すると早夜がニッコリと笑ってバスケットを差し出す。


「お弁当食べましょう?」


 しかし、リカルドはジトッとした顔のまま、早夜のその笑顔を見ても、気分が浮上する所か、ますます落ち込み、再び背を向けて項垂れてしまった。


 すると、暫し間があり、再びクイクイと服を引っ張られた。

 そして振り返るとそこには、千切ったパンにバターを乗せて、「あーん」と言って小首を傾げながら此方に差し出してくる早夜の姿が。

 おずおずと恥ずかしげにする仕草はなんとも可愛く、思わず心臓が跳ねた。

 あまりの事に、感動して魅入ってしまっていたら、何を勘違いしたのか、早夜はシュンと沈み込み、


「ご、ごめんなさい……調子に乗りすぎちゃって……」


 そう言って、手を引っ込めようとする。

 リカルドはそれを咄嗟に引き止めた。


「リカルドさん?」


 不思議そうに首を傾げる早夜をじっと見つめていたかと思うと、リカルドは彼女が持つパンの切れ端をぱくりと食べた。

 勢い余って、早夜の指を銜えてしまい、「あ」と小さく声を上げて真っ赤になる早夜を見て、自分もまた真っ赤になるリカルド。

 暫し無言で互いに俯いていたが、咀嚼していたパンをゴクリと飲み込むと、


「もっと食わせてくれよ……」


 ボソリと呟く。口がヒクリと引き攣った。


(こ、これは……思いの外恥ずかしい……)


 早夜もそうなのか、忙しなく瞳を彷徨わせながら、言われるままにまたパンにバターを乗せて差し出してくる。

 恥ずかしいが、それ以上の嬉しさと幸福感に包まれる。


(俺、今まで生きててよかった……)


 そんな大袈裟な事を考えながら、リカルドは再び口の中に、差し出されたパンを受け止めた。

 にやけてしまいそうなのを必死で堪え、何とか気を引き締めやり過ごした後、ハッと思いつく。

 これは、此方も食べさせてやらねばならぬのでは……と。


(そうだよな。食わせてもらってばっかりじゃ、不公平だしな……)


 そう思うが早いか、リカルドも早夜の様にパンを一口サイズに引き千切って、バターを乗せて早夜に差し出す。


「え!? リ、リカルドさん?」

「食わせてもらったんだから、こっちもお返ししなきゃだろ?」


 戸惑う早夜に少々ぶっきら棒に答えるリカルド。

 早夜はパンとリカルド戸を交互に見ながら、少々躊躇いがちに口を開けてそれを受け入れる。

 しかし、それはリカルドにとっては一口でも、早夜にとっては違かったようで、三口で漸く食べ終える。

 リカルドはそのまま暫し固まっていた。リカルドが大きめに契ってしまったパンを、一所懸命食べている姿は、彼に予想以上の感動を与えたようだった。

 そして、もう一度と、またパンを早夜に差し出そうとした時、横からぬっと出てきた手によって、それは阻止されてしまった。



「随分とお楽しみのようだな、リカルド……」



 地の底から響くその声に、リカルドは全身から汗が噴出すのを感じていた。

 久しぶりに聞くその声。本来であれば、喜びを感じる筈のその声に、リカルドは今恐れ戦いていた。


「リュ、リュウキ……?」


 ギギッとゆっくり振り返ったリカルドの目に映った人物。それは友であり、幼馴染であり、妹の婚約者であり、そして早夜の実の兄、リュウキがそこに立っていたのである。


「何でここに……」

「……この丘は元々俺の居場所だったのだけれどな……」


 そうだったとリカルドは初めてこの場所に来たときの事を思い出していた。

 早夜が、夢の中のリュウキがよくここに来ていたのだと言っていたのではなかったか。


「そ、それにしたって何でここに!? お前クラジバールじゃあ……それにその髪……」


 指摘するリュウキの髪は短い。記憶の中にあった彼とは違う。


「リジャイに聞かなかったか? 髪は切ったと……」


 何処までも重い空気を放つリュウキは、リカルドと早夜の間に無理矢理割り入ってきた。


「早夜、どれ……兄が食べさせてやろう」


 そう言ってリュウキは、リカルドが今まさに食べさせてやろうとしていたパンを奪うと、早夜に差し出す。


「え? え?」


 戸惑い、リカルドとリュウキを交互に見やる早夜。

 そして、自分に向けて、ニコニコと何処までも笑顔で圧力を掛けてくるリュウキに根負けして、差し出された物をパクンと口に入れる。


「リカルド……今後夢に早夜を出す時にはこの兄である俺に一言断ってからにしろ……」


 顔は早夜に向けたまま、背後のリカルドに低い声でのたまうリュウキ。

 リカルドはそんなのどうやって断るんだと思っていたが、ジロリとひと睨みされながら「返事は?」と訊かれ、汗を垂らしながら「わ、分かった」と答える。

 カクカクと頷くリカルドを確認したリュウキは、一度目の前の早夜の頭を優しく一撫でしながらスクッと立った。


「それとな……もし早夜を嫁に欲しいと言うのなら……」


 リュウキは振り返りリカルドを見下ろす。

 ピシリと身体が動かなくなった。


「この俺を倒してからにしろ!!」


 そう叫んで仁王立ちで立つリュウキの目は赤く染まっていた。

 魔眼を行使していた。


「そ、それ……ひきょ……」

「フッ、早夜の事が本気であれば、俺のこの魔眼の呪縛など打ち破れる筈だ!」


 瞳を赤く輝かせ、黒いオーラを放つリュウキは、まるで魔王のようだった。






「ヌヌッ……ぐおっ……」


「ん? 何だ、リカルド。今度は急にうなされ出したぞ?」

「さっきまでデレッとした顔で寝てたのにな」

「そうッスよね、サヤ~って言ってたッスもんね」

「寝言でプロポーズもしてたもんなぁ」


 ここはゴミための街。

 リカルドはマシュー達の元にいた。

 ここの所、寝ずの作業が続いていた為、リカルドは休憩を取って仮眠していたのだが、どんな夢を見ているのか、始終ニヤニヤとして締まらない顔で寝ていたのだ。

 寝言から、早夜との夢を見ているのだと理解したマシュー達、起こさないように生温かい目で彼を見守っていた。

 皆の顔は一様に、「起きたらからかってやろー」と言う顔をしている。

 だが今は、急にうなされ出し、苦しそうにし出したリカルドを見て、起こそうかどうか迷っていると、


「ぬぅぉぉぉおおおっ、魔眼使うなんて卑怯だぞリュウキ!!」


 と、突然大声で叫びながらリカルドが飛び起きた。


「あれ?」


 ぼんやりした顔で辺りを見回すリカルド。その目には、吃驚しながらも、何とも言えない顔で此方を見ているマシュー達。


「リュウキ様か……」

「リュウキ様に邪魔されたんスね……」

「可哀想に、プロポーズOKしてもらえたのにな……」


 皆哀れんだ顔ででリカルドを見ている。しかしながら、その目は少しも哀れんでいない。

 ぼんやりと彼らの言葉を聞いていたリカルドだったが、ハッと我に返り声を上げた。


「何でてめーらが俺の夢の内容知ってやがんだ!!」


「そりゃー……なぁ?」

「ああ……あんだけはっきり寝言で言ってりゃなぁ……」

「サヤ~って言ってたッスよ」


「っ!! ね、寝言!?」


 途端に顔を真っ赤にするリカルド。そんな彼をニヤニヤとして見ているマシュー達。


「ぐぬぅ……だぁぁぁああああ!!」


 居た堪れなくなったのか、リカルドは叫びながら部屋を飛び出していったのだった。







 おしっ! 彼らしい終わり方だ!


 予定としては、もっとほのぼのとする筈だったけど、こんな感じになってしまった……。リカルド……不憫な子……。

 きっと、本物の早夜を前にしたら、プロポーズ意識しまくって言えないんだろうなぁ……そして、言うはずのない場面で、ポロッと言ってしまうんだろうなぁ……。

 リュウキと言う壁も立ち塞がるし……。気を許し合う仲だからこそ、妨害激しいぞ、多分。

 本当、不憫な子……。


 因みに、夢の中に割り込んできたリュウキですが、彼が執念で割り込んできました。ええ、本物です。

 結界まで越えてくるなんて……恐るべし! リュウキのシスコン!

 他のキャラには割り込まなかった理由。

 シェルとはアルフォレシアでもあまり親しいと言うほどでもなかったので、感づく事はありませんでした。

 リジャイは、親しくなって間もないのと、違う世界にいるので分かる筈もありません。

 なので、リカルドだけ、感づき邪魔をしました。

 リカルド……本当、不憫な子……。(ホロリ)


 他のキャラについては、全然考えてません。思いつけば書こうとは思いますけど……取り敢えず、この三人だけと言う事で。

 何かリクエストあればどうぞ。別のキャラ同士の夢の逢瀬でも構いません。書ければ書きます。


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