バレンタイン当日2(ミリア×ロイ)
黒猫ももか様に捧ぐ……。
一応、ミリア×ロイです。
前回に続き夢落ちではない。
「じゃ、じゃあ行ってくるわ」
「いってらっしゃーい」
蒼に見送られ、ミリアは愛しいあの人の元へと想いを伝えるべく、いざ戦場へとばかりに勇んで突き進んだ。
そして突き進んだ結果……。
「ム、ムエイ様!」
「ん? ミリア?」
「こ、こここれ、受け取ってくだしゃっ」
噛 ん だ 。
盛大に噛んでしまったミリアは、羞恥と緊張から顔を真っ赤にさせ固まってしまう。
「ミ、ミリア? 大丈夫か?」
「う、」
「う?」
「うわ~ん!」
ミリアはリュウキにお菓子を押し付けると泣きながら立ち去ってしまったのだった。
「最低っ、最低だわ、あんな……穴を掘って埋まりたい……」
「ミリア? 何してるのだ?」
いじいじと地面に三角座りをしていたミリアに、通りがかったロイが声をかける。
ミリアはちらりとロイを見ると顔を膝に押し付けた。
「何って反省よ。私って最低だわ……」
「な、何があったのだ!? 話してみるのだ!」
そしてミリアは話した。
少しは気持ちも落ち着くかも知れないと思ったのだ。
全て話し終わった後、ロイは言った。
「何だそんな事か」
その言葉にカチンと来るミリア。ロイをキッと睨み付ける。
「そんな事って何よ! あたしには重大な事なのに!」
「あ、いや、すまなかったのだ。ただ、ミリアに害があるような事じゃなくてよかった、という意味合いだったのだ」
「あたしの精神は多大なるダメージを負ってるわ……」
ジト目でそんな事を呟くミリアに「あ、うう……」等と唸りながら、しどろもどろになるロイ。
暫しそんな彼を眺めていたミリアだったが、やがて溜息を吐くと何かを放り投げた。
ロイはそれをとっさに受け止めていた。
ガサリと音を立てるそれは菓子の包まれた紙の包みで……。
「こ、これはっ!」
「しょうがないからロイにもあげるわ。まあ、義理よ義理!」
しかし、菓子を受け取ったロイはそれを凝視したままブルブルと震えると吠えた。
「ミリアも我に三倍返しを要求するのか!?」
「…………」
既にイーシェの餌食となっていたようだ。散々念を押されたのか脅されたのか、怯えた様子でミリアを見ている。
そんな彼は今、目をうるうると潤ませて、金色の耳を伏せていた。
何たって自分より背が高いのに上目遣いなどが似合うのだろうか。何だか悔しく思うミリア。
でも、見た目は大人でも纏う雰囲気の幼い彼は、彼女にとって元の世界で母親代わりに育てていた弟や妹達を思い起こさせて仕方がない。
「あー、別にあたしは三倍返しじゃなくていいわよ」
「本当か!?」
「ええ、あんたができる範囲でいいわよ。何でも気持ちが一番じゃないかしら」
少々適当に言った感があるが、それでもロイは感銘を受けたようだ。先ほどまでうるうるとさせていたものを今はキラキラと輝かせている。
どれだけイーシェは彼をいびったのだろうか。後で彼女を問いつめようと思ったミリアだった。
「まぁ、気になるんだったら、アオイかリョータに聞いてみればいいんじゃないかしら。そもそも今回のばれんたいんもアオイ達の世界の行事らしいから」
「そうなのか? じゃあ、後で聞いてみるのだ」
嬉しそうに笑む彼の尻尾が元気に振れている。相変わらず触りたくなる魅惑の尻尾である。しかしながらそれに触れる事が出来るのは生涯の伴侶だとか。
フサフサと艶やかなそれは、どんな手入れがされているのだろうか。毎日自分で手入れとかしているのだろうか。本当の所を聞いてみたいものである。
「そもそもばれんたいん?という行事は何の為の行事なのだ? 今の所、イーシェに無理矢理お菓子を渡され三倍返しを要求された事と、ミリアがムエイに告白しようとしていた事しか分からないのだ」
「あー、それはね……」
ミリアは、蒼に聞かされた事をそのままロイに話して聞かせた。
その様子も、お話を要求する弟達を思い起こさせる。余計に世話を焼きたくなってくるのだ。
「なるほど、好きな異性に菓子を渡す日なのだな」
「それと、友達とか世話になった人とかにあげる友チョコとか義理チョコとか言ってたかしら?」
「で、では! 我はミリアにとって友なのだな!」
喜色満面の笑みに、ミリアは内心ドキリとしながら頷く。
すると、ロイはふと真顔になったかと思うと、顎に手を置いて何かを考え始めた。
「では、我もミリアに何か送らなければ……しかし、菓子など……イーシェから貰った物は……いや常識的に考えて駄目なのだ」
ロイは一つ頷くと、懐から何枚か札を取り出した。
それは彼の得意とする符術の道具。一枚一枚彼の魔力が込められた墨で書かれる。手間と時間が掛けられ使えばそれでおしまいの消耗品でもあった。
それをロイは何の躊躇いもなく使った。
「これは……」
「光と水と火の魔法を合わせた物なのだ」
辺り一面霧に包まれたかと思ったら、目の前に様々な光のオブジェが出現した。大輪の花であったり美しい蝶であったり。それらは次々と色を変え、七色に輝く。
霧をスクリーンに見立てて光の魔法でそこに映し出したものであった。
ミリアはその光景にただただ目を奪われていた。
「とっさの応用だったのだが、うまくいってよかったのだ」
「凄く綺麗ね、ありがとう、ロイ」
「ウム! ミリアが気に入ってくれてよかった!」
「っ!!」
どこまでも無邪気な笑顔。純粋に、ミリアが喜んでくれて嬉しいという気持ちの分かる笑顔だった。
何だかその笑顔に胸の苦しさを覚え、それをごまかすように彼の頭を撫で回す。
「もうっ、もうっ、なんたってこうっ!」
「わわっ、いきなり何なのだ!?」
これはきっと、弟達に感じるものと一緒なのだ。それか、ペットに懐かれたのと一緒なのだ。
そう心に言い聞かせるミリアなのであった。
~おまけ~
その後、二人仲良く帰る途中であった。それを見たのは……。
「な、何なのだ!?」
「カムイ……あんた何やってんの!?」
「お? ロイにミリアじゃねーか!」
そこに居たのはカムイであった。そしてそれを取り囲む魔導生物達。
彼らは一定の距離を保ち、辺りは一種異様な緊張感に包まれていた。
だが、その緊張感が今、ロイ達が声を掛けた瞬間に崩れさる。カムイはニカッと笑ってこちらを振り返った為だ。
その隙を彼らが見逃す訳がない。
『スキアリ!』
彼らは一斉に何かを投げつける。
しかし、カムイはニヤリと笑うと、
「あまいっ!」
と叫んでそれらを受け止める。
口 で 。
「うん、あめぇな」
全てを口で受け止めたカムイは、もぐもぐと顎を動かしながら言った。
「ちょっ、何食べてんの!?」
「カムイ!? それは食べても大丈夫なのか!?」
「ん? ああ、ほれ」
投げられた物を視認出来る訳でない二人は、カムイが得体の知れない物を食べてるように見えた。
その疑問に、カムイは再び投げられてきた物をそちらを見もせずに手でキャッチすると、二人に見せてきたのだ。
たまごぼーろだった。
彼らはたまごぼーろを投げていたのだ。
一体何故、という疑問が二人の中に浮かぶ。
そうしている間にも、カムイと魔導生物の熱い戦いは再び幕を切って落とされた。
「い、一体あの子達の中で何が……」
「うぬ……ピ、ピトに聞いてみるのだ……」
しかし……。
「うーん、わからんのぅ……それより見てくれんかの。あの子達がくれたんジャ!」
そう言って嬉しそうに特大のお菓子を見せてくる。
香ばしさと甘い香りが辺りに漂う。
そんなピトにこれ以上聞く気になれず、二人でよかったなと言ってその場を後にした。
結局二人の中で、たまごぼーろの謎は解けなかった。
二人は選択を間違った事に気付かない。
蒼か亮太に聞けば分かったのであるが、二人はこの謎の事は忘れようと言う話になってしまったが為に、永久に謎は謎のままとなってしまうのだった。
リクエスト遅くなってすみません。
恐らく忘れられてしまっているでしょうが……。
イチャラブとかは出来ませんでしたけど、この二人はこの先結ばれたとしても、きっとこんな感じだと思う。