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魔女物語  作者: 東雲のん
1/1

ウィケリット村の魔女の呪い

彼に出会ったのは陽転歴290年13週2転、13の日である。

その漁村は大陸の最も東に位置する村であった。

人口は50人ほど。魚よりも貝類や海藻が良く取れる村であるが、村全体は良くいえば質素な、悪くいえば貧相な印象を受ける。


村の名前をウィケリット村。初代村長ウィケリット・ドグルにあやかっている。

現村長はコリー・オーガスタ。24歳の青年である。


「魔女、…ああ、親父がよく話してたな。東の魔女の話」

「東の魔女?」


浅黒い日に焼けた肌を持ったコリー青年は、片手に貝類を入れる為の箱を持って岩場にしゃがんだ。村の名産品である貝類や海藻を取るのだそうだ。


「この岩場からも見えるでしょ。あそこの黒いところ」

「…あれは、嵐ですか」

「多分な」


コリー青年曰く、あの一帯の海はいつも荒れているという。

晴れた日がないのかと聞けば、少なくともコリー青年が生まれてから一度も空が晴れたことはないそうだ。波も高く、海は黒い。魔物でも出そうな海である。


「あの辺には小さな島があるんだと」

「はあ、島ですか。僕には見えませんけどね」

「長年のあの激しい波に削られて消えたんじゃねぇかな。俺も見たことねぇんだよ」

「なるほど。…それで、魔女の話は?」

「あんたせっかちだなぁ。だからよぉ、その島には魔女の死体を埋めたんだって話だよ」

「誰が?」

「俺の親父の爺さんの爺さん。それ以上はしらねぇ」


それ以上のことを知りたいなら、親父の日記を見てくれ。

コリー青年はそう言って岩場へと戻っていた。

私は彼に礼を言って、コリー青年のいう通り彼の父親の日記を見せてもらうことにする。


◻︎


以下、コリー青年の父、コルネリオ・オーガスタの日記の抜粋である。


⚪︎255年9週目と2転

おじいちゃんが東の浜辺へ連れて行ってくれた。

おじいちゃんのおじいちゃんが魔女を倒した島を見た。

魔女が村のみんなを食べたから、おじいちゃんのおじいちゃんはナタで魔女の首をちょん切って、死体を遠くて小さい島にうめたんだって。

海があそこだけ荒れてるのも、魔女の呪いなんだって。


とっても怖かった。


⚪︎259年1週と8転

おじいちゃんのお見舞いに行った。

おじいちゃんはずっと東の海を見てる。魔女の呪いがあるという島の方角だ。

最近ボケてきているのか、あんまり話が通じない。


呪いなんて馬鹿馬鹿しい。


⚪︎266年4週と10転

東の浜辺にサメが上がった。


⚪︎266年5週と3転

漁師のカイルの息子が海に飲み込まれて帰ってこない。

助けようとしたカイルも一緒に飲み込まれてしまった。カイルの妻のアニーサには申し訳ないが村を出て行ってもらった。アニーサはまだ14だ。きっと他の村でならうまく行く。

村の爺さんどもが魔女の呪いだと騒いでいる。

おじいちゃんの病も悪化した。くそ、嫌なことは続く。


⚪︎266年5週と8転

爺さんが死んだ。


⚪︎266年5週と9転

東の浜辺で女に出会った。

美しい女だった。

昔見た麦畑のような美しい髪と真っ白な肌をしていた。見たこともない見事な刺繍のドレスを着ていた。

美しかった。

しかし、とても恐ろしかった。


もう、今日は寝ることにする。


◻︎


日記は266年5週以降の記載はない。

コリー青年曰くコルネリオは最後の日付から二日後に亡くなったそうだ。


「お袋も先月亡くなっちまいまして。オレァ文字読めないからなんて書いてあるかは知らんですがね」

「…そうですか。こちらの日記はいただいてもいいかね?」

「ああ。好きにしてくれ」


コリー青年にいくらか日記の買い取り代を渡して、今回の調査は終了となった。

魔女の死体が埋まっているという島を目視することはできなかったものの、奇妙に荒れた海は見ることができた。

日記も魔女の呪いがあったと見て厳重に保管するものとする。


調査員 テディ・マークス






◻︎



島に不幸が出るとき、東の浜にサメが打ち上がるという。


爺さんが死ぬ前日、東の浜に尾びれがちぎれたサメが打ち上がった。

どうにも奇妙なことにちぎれた尾びれの傷は歯型も傷もない綺麗な断面だった。まるで巨大な包丁で落としたような、そういうすっぱりとした気持ちのいい断面だった。


「魔女の呪いじゃぁ、誰かが死ぬんじゃあ…!」


爺さんの次に長生きをしている丘の上の婆様が恐れおののいたように呟いてヨボヨボと帰っていたのをよく覚えている。母さんが少し青い顔で「迷信なんてばかみたいね」と呟いて口元を覆っていた。

この頃の母さんは、まだ魔女とか信じていなかったように思える。

その翌日、爺さんが死んだ。

そして、浜辺に打ち上げられたサメもいつの間にか姿を消していた。漁師のおじさんがいうには、激しい波に巻き込まれてまた海に戻ったんじゃないかということだった。

あんなに海から遠いところにあったサメの死体を波が巻き込むはずもないのに。


幼い私は、何か大人が隠し事をしていることに気づいていた。

そして、それを怖がっていることにも気づいていた。


「東の浜辺には近づくんじゃないよ」


だからだろうか。

母の言いつけを破って真夜中に浜辺に近づいてしまったのは。


星がきらめく美しい新月の夜だった。


だぱん、だぱん、と激しく打ち付けるような波の音と、びゅうびゅうと病人の咳のような冷たい風がほおを叩く夜であった。海は相変わらず高く激しく揺れていて、代わり映えはない。

浜辺に敷き詰められた砂浜と、何処かから流れ着いた流木があるだけのさみしい浜辺だった。


少しの恐怖心と探検心を持ってここまできた私にとっては大層つまらない結果である。


(なぁんだ。何もないじゃんか)


心の中でため息をついて、私は浜辺を歩いた。

足元を冷たい波が時折撫でていく。勝手知ったる浜辺は昼とそう変わらない。


「…っ」


私は息を吸って、そのまま止めた。

いつの間にか目の前に女が佇んでいたのである。


波打つ金髪の、美しい女だった。

肌が砂浜みたいに白くて、銀色の瞳が星の光のようであった。

そんな女がいつの間にか私の目の前にいるのである。


「ーー、ーーー?」


女は滑るような発音で何かを言った。

なんと言ったかは聞き取れなかった。波の音が大きすぎたのである。


「ーー?」


私は女の美しさに恐怖を覚えて、一歩下がった。

心臓の裏側までびっしりと鳥肌を立てて、全身から冷や汗が滲んでいた。指先が震えて、頭皮が泡立つ。


恐ろしかった。

弓なりに微笑んだ銀の瞳も、島では見たことのない綺麗な刺繍のされたドレスも。

女を構成する全てが恐ろしかった。


「ーー」

「き、聞こえない…!わからない…!」

「ー?」

「わかんないよ…!」


ずっと女は何かを問いかけていた。

恐ろしく美しく微笑んで、何かをずっと私に問いかけていた。

私が何を叫んでも泣きながら否定しても、ゆらゆらと、ゆらゆらと微笑むだけであった。


「お前が、コルネリオかい?」


鈴を転がすような、綺麗な声が耳元で囁いた。




サクッと読めるファンタジーホラーを目指して書いております。

基本的に短話形式でアップする予定です。

もしよければ感想お願いいたします。

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