クツムシと赤い靴
あたりが暗くなった靴屋のショーウィンドウに、一足の小さな赤い靴が飾られています。
それは、この店の靴職人のお爺さんが、丹精込めて作った特別な靴。
夜の月明かりに照らされて、まるで魔法がかかったようにキラキラと光を放っています。
大事に、大事に作られた靴には、クツムシが生まれます。
クツムシは、毎日毎日、靴を大切に磨いてお爺さんのお手伝いをするのが大好きでした。
「お爺さん、今日もこの赤い靴は、とっても綺麗だね。外を通る人たちがみんな、この靴を見て『ステキね』って言っているよ」
クツムシは毎日お爺さんに話しかけますが、お爺さんにその姿は見えません。
少し寂しいけれど、クツムシは気にしませんでした。
大好きなこの靴に、いつか素敵な飼い主が現れることを、心から夢見ていたからです。
ある日のこと、お店に女の子とお母さんがやってきました。
クツムシはその女の子を知っています。何度もショーウィンドウを覗きに来ていた、あの女の子でした。
「お母さん、あの赤い靴が欲しいの! とっても可愛いわ」
女の子は赤い靴を指差して、目を輝かせました。
クツムシは飛び上がって喜びました。
「この靴は本当に素晴らしいんですよ! 履き心地は羽が生えたみたいに軽くて、どこまで歩いても疲れません。それに、あなたにはこの赤色がとっても似合うと思います!」
クツムシは女の子に向かって、精一杯話しかけました。
けれど、やはり女の子には聞こえません。それでもクツムシは、一生懸命に伝え続けました。
「お母さん、お願い。この赤い靴を買って。本当に大切に履くから。誕生日のプレゼントは、これがいいの!」
女の子が一生懸命にお願いすると、お母さんは優しく微笑みました。
「分かったわ。大切に履いてね」
ついに、赤い靴が買われることになったのです。
お爺さんはショーウィンドウから靴を取り出し、丁寧に箱へ収めました。もちろん、クツムシも一緒です。
「お爺さん、今までお世話になりました。女の子に喜んでもらえるよう、精一杯頑張るよ。僕、あの子と友達になりたいんだ!」
クツムシは晴れやかな声でお別れを言いました。
お爺さんは何も答えませんでしたが、旅立つ靴を愛おしそうに、そっと見守っていました。
女の子の靴になってから、クツムシの毎日はさらに楽しくなりました。
毎日毎日、心を込めて靴を磨き上げます。女の子も、その赤い靴をとても気に入って、どこへ行くのにも履いてくれました。
「おはようございます。今日もいいお天気ですね!」
クツムシが話しかけても、女の子は気がつきません。
……そんな日が続くうちに、クツムシの心には、少しずつ影が差してきました。
(どんなに話しかけても、やっぱり気づいてもらえない……)
悲しくて、悲しくて、いつしかクツムシは靴を磨くのをやめてしまいました。
あんなに大好きだったお手伝いが、どうしても手につかなくなってしまったのです。
そんなある日の朝。
女の子がいつものように赤い靴を履いた瞬間、急に泣き出してしまいました。
お母さんは驚いて駆け寄ります。
「どうしたの? 何か悲しいことがあったの? それとも、どこか痛いの?」
女の子はポロポロと涙をこぼしながら答えました。
「……靴を履くと、痛いの。履きたいのに、足が痛くて履けないの……」
見ると、女の子の小さなかかとは、真っ赤に擦りむけていました。
それを見たクツムシは、ハッとしました。
(僕のせいだ……。僕が怠けてしまったから、あんなに大切だった靴を硬くして、あの子の足を傷つけてしまったんだ!)
お母さんは心配して言いました。
「そんなに痛いのなら、無理して履かなくてもいいのよ」
すると、女の子は泣きながら首を振りました。
「ううん、履くの! だって、この靴が大好きなんだもん!」
その言葉を聞いたクツムシの目から、涙が溢れ出しました。
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
クツムシは泣きながら、何度も何度も謝りました。自分のことばかり考えて、あの子の「大好き」という気持ちを忘れていた自分を恥じました。
お母さんは女の子の頭を撫でて言いました。
「本当にこの靴が好きなのね。……それじゃあ、履く前に少し汚れを落としましょう。一緒に磨いてから履こうね」
お母さんは、女の子に靴を磨く布を渡しました。
女の子は嬉しそうに、小さな手で靴を磨き始めます。
「ねえ、お母さん。シューも喜んでくれるかな?」
「シュー? シューって誰のこと?」
お母さんが不思議そうに尋ねると、女の子はにっこり笑って答えました。
「この赤い靴の名前よ。可愛いでしょ?」
磨きながらそう言った女の子の声を聞いて、クツムシは震えるほど感動しました。
(僕に、名前をくれた……!)
(今回は、一緒に靴を磨いてくれた……!)
「ありがとう。僕の姿は見えないし、お話もできないけれど、本当にありがとう。僕、頑張るよ!」
それからのクツムシ……いえ、「シュー」は、毎日欠かさず赤い靴を磨きました。
やがて時が経ち、女の子の足が大きくなって、赤い靴が小さくて履けなくなる日が来ました。
けれど、女の子には二人の妹がいます。妹たちも、お姉ちゃんが大切にしていたこの赤い靴が大好きでした。
妹たちが履けるようになるまでは、まだしばらく時間がかかります。
それまでの間も、シューは、赤い靴を磨きます。
「またこの靴を履いてもらえる日が、今から楽しみだなぁ」
シューは幸せな気持ちで、今日もせっせと靴を磨くのでした。
あなたの周りにも、もしかしたら……クツムシがいるかもしれません。
この作品はAIの補助を受けて作成しています。




