純真
恋はもう少し優しくしてくれてもいいと思う。
私は、16年生きてきて、まだ恋をしたことがない。中学までは、教室の片隅でずっと読書に耽るような学生だった。
高校に入学してすぐ、廊下でふざける先輩とぶつかり、私は盛大に転んだ。
「きゃっ、、、」
「ごめん。大丈夫?」
先輩は、手を差し出した。
「大丈夫です。」
私の手を、許可なく掴む先輩。中学までは、男子に触れても何も感じなかった私が、この時、初めて感じた心の揺らぎ。16歳と18歳、2つしか違いがないはずの男性が、なぜか大人びて見えたせいかもしれない。
でも、その揺らぎが、恋と気付くのに、多くの時間はいらなかった。
グランドが見える教室で、野球をする先輩を目で追いかける。その日から、先輩のことで胸がいっぱいになった。
話しかけられないまま、春が過ぎ、夏を迎え、秋が木々を赤く染める頃、学校は、卒業シーズンを迎える雰囲気を整えつつあった。
何度も先輩とすれ違い、声を掛ける機会もあったが、それが出来ていれば、中学時代も、教室の片隅にはいなかっただろう。
今も、クラスの友人たちと、放課後にショッピングを楽しんだり、カラオケに行ったりと、高校生活を謳歌していたに違いない。
現実は、違った。私は、今も教室の片隅で、スマホ片手に、小説を読んでいる。
やがて、季節は冬の到来を告げる。先輩たちは、受験で教室を空けることが多くなる。先輩もたまに見かける程度になった。
もうすぐ、卒業してしまう。そんな事は分かっていた。自分がこれほどまでに臆病だとは思わなかった。いや、気付いていないフリをしていただけだ。ずっと恋を知るのが、怖かっただけだ。
ずっと続くこの気持ちを、打ち明ける友人もいない。今さら後悔している。
冬も本格的になる頃、周囲の同級生が、青春を謳歌している。通学路で、二人で帰る人達を、白い息で隠しながら、何もない私を淋しさだけが、寄り添ってくれている。
卒業式当日、、、
周囲は、涙する生徒、笑い合いながら、談笑している生徒。その物語は、人それぞれで、皆、何かしらの結末を迎えているのだろう。
私の物語は、まだ始まってもいない。だが、終わりを迎えることはある。
私は、辺りを見廻した。もちろん、先輩を探すためだ。ずっと臆病だった私を終わりにしたかった。
もう先に帰ったか?と思った瞬間、先輩が人ごみの向こうに見えた。
「せんぱ、、、」
声を掛けようと勇気を出して、踏み出した瞬間、私は足を止めた。
「卒業しても、いつでも会えるって、だから、心配するなよ。」
先輩は、他の女の子を慰めていた。言いようのない悔しさと、情けない自分に涙が出た。
私は、人目が付かない場所で、ひとり静かに泣く。これが恋なら、こんな気持ちになるなら、恋なんてしないほうがいいとさえ思えた。
春休みを終え、2年生になった。花壇には、白いバラがつぼみを付けている。あれだけ泣いた日がうそだったかのように、気持ちに整理が付いていた。
またいつもの生活が始まる。私の心は、あの白いバラのように、咲き誇る日を待ちわびている。
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