selection4『異界の出会い』
“誰かと出会う”ことが、こんなにも救いに思える日が来るとは。
未知の世界でたった一人きりだった真が、初めて他人と出会うこのセクション。
けれどその出会いは、ただの安心ではなく、新たな現実と脅威を突きつけることになります。
──足音が、聞こえた。
それは自分のものではなかった。
明らかに複数。バラバラのリズムで、慎重に、しかし焦るように近づいてくる。
俺は息を殺して瓦礫の影に身を伏せた。
目を凝らす。視界の端で、人影が揺れる。
「……人、か……?」
言葉が漏れたその瞬間、向こうも気づいたらしい。
数人のうち、最も前を走っていた少年が、警戒心をあらわにこちらに向き直った。
「おい、止まれ!」
「待って!敵じゃない!」
一人の少女の声が被さる。
その言葉に反応して、少年が少しだけ肩の力を抜いた。
俺はゆっくりと立ち上がり、両手を見せながら一歩踏み出した。
「……こっちも、誰かに会うのは初めてだ。敵意はない」
「じゃあ、お前も──転移、されたのか?」
最初に声をかけてきた少年がそう言った。
その言葉に、俺は違和感を覚えた。
(……転移?)
けれど、それ以上に驚いたのは──
彼らの表情も、態度も、俺と同じだったことだ。
戸惑い、不安、恐怖、そして、困惑。
彼らも、分かっていない。
何が起こったのか、どこにいるのか、自分が“どうなった”のか。
「俺も、気がついたらここにいた。状況は……さっぱり分からない」
そう答えると、数人の顔に安堵が浮かんだ。
自分だけじゃないという、それだけのことで、少しだけ心が軽くなる。
「……とにかく、ここにいても仕方ない。まとまった方がいい。あそこに、少し広い場所がある」
そう言って、彼らの中の一人──大柄な男子が指を差した。
その方向に、小さな空き地のような場所が見えた。
俺たちは無言で頷き合い、歩き出した。
互いの距離はまだある。
警戒も解けていない。
けれど、確実に“孤独”ではなくなった。
(……助かったのかもしれない)
ほんの少しだけ、そんな気がした。
やがて広場に着き、俺たちは自己紹介を交わした。
まだ名前しかわからない。
だけど、奇妙な共通点が一つある。
──“全員、現代の同じ時間から消えていた”ことだ。
それぞれ、学校やバイト、日常の中で“突然消えた”らしい。
あまりにも一致しすぎている。
偶然では片付けられない。
「……じゃあ、本当に俺たちだけ、別の場所に──」
そこまで言いかけたとき、また“風”が吹いた。
今度は、重い音を伴っていた。
ドォン、と地面が震える。
誰かが悲鳴をあげた。
一人が、遠くを指差す。
──視えた。
黒い影。
瓦礫の上を這いながら、異形の脚を引きずって近づいてくる“何か”。
「っ……あれ、なんだよ……」
誰かが呟いた。
答えられる者はいない。
ただ、全員が本能で悟っていた。
あれは──“敵”だ。
俺たちは、一斉に散った。
生き残るために。
逃げるために。
……そして、戦うために。
──これは、始まりの出会い。
けれどそれは、決して穏やかなものではなかった。
真がようやく孤独から解放されたと思った矢先、彼らを待っていたのは「敵」の存在でした。
希望と不安が交錯する出会い──ここから“共に在る”ことの重さと意味が、少しずつ浮き彫りになっていきます。