section8『まだ届かない』
訓練七日目。
形のなかった力が、輪郭を持ちはじめる。
誰かは武器を手放し、誰かは身体に馴染み、
誰かは視えないものを目で追い始めた。
張り詰めた日々の先に、もう一段──
成長という名の延長戦が、静かに告げられた。
陽が落ちるころ、訓練場にいつもの5人が集っていた。
疲労の色は隠せないが、その眼差しには確かな変化が宿っていた。
「さあ、今日が最終日だよー!」
レイラが両手を伸ばして気合を入れる。
隼人も無言のまま頷きながら肩を回し、静かに呼吸を整えていた。
訓練が始まると、レイラは再び鏡を使って空間を読み取りながらの移動に挑む。
だが、その動きはこれまでとは明らかに違っていた。
彼女の周囲の空気が、かすかに反射する膜のようなものを形成していく。
「……あっ、見えた……!」
彼女は小さくつぶやくと、鏡を使わずに、空気の反射を用いて“像”を読み取った。
それは、鏡月レイラが新たな一歩を踏み出した瞬間だった。
隼人もまた、跳躍と衝撃吸収の感覚を掴み始めていた。
その動きはもはや“鍛えている”というより、“馴染んでいる”域に達している。
「……体の奥でうなってる。こいつは、まだ伸びる」
彼の拳が唸るたび、空気が揺れる。
力は確かに“内側から”来ていた。
その頃、木陰で一人集中していた鳴も、また静かな手応えを得ようとしていた。
目を細め、意識を視界の奥に集中する。
(……見える、かも……)
その一瞬。
誰にも言えない微かな変化が、鳴の瞳に映った。
――数値のような、記号のような、まだ曖昧な“兆し”。
(まだ……はっきりとは見えない。でも、いる……)
鳴はノートに手を走らせながら、自分なりの分析を進めていく。
静かな努力が、少しずつ輪郭を帯びていった。
訓練が終わりに差しかかるころ、いつものように神瀬が静かに口を開いた。
「──訓練は、三日延長する」
「……えっ、今日で終わりじゃなかったの?」
レイラが驚きに声を上げる。隼人も無言で神瀬を見つめていた。
「予定より、伸びしろが見えてきた。追い風が吹いてる今のうちに、もう一段階上げる」
「まじかよ……」
真が額の汗をぬぐいながらぼやく。
「……やれやれ。休む暇もないな」
凪のため息まじりの声に、全員が苦笑した。
けれど、その表情には確かな“前向き”があった。
張り詰めた日々の中に、静かな充足と手応えが確かにあった。
──あと三日。
鳴はもう一度、霞のような“何か”を目で追いながら、静かに息を吐いた。
できることが増えた者にも、まだ足りないと知る者にも、
その歩みは確かに“続き”を望んでいた。
訓練は終わらない。
いや、終わらせられない。
見えない敵に備えるために──
明日もまた、彼らはこの場所で、何かを掴もうとするだろう。




